マーク陛下のわがまま
主人公目線に戻ります
リリアナ嬢が国へ帰って、やっと元通りの生活が戻ってまいりました。
ノア様に移った香水の香りで気持ち悪くなることもありませんし、公務の合間合間にノア様が私とエドワードの様子を見に来るのも以前と一緒。
とても落ち着いた毎日です。
だったのですが。
私が臨月に入る頃、ノア様と私は陛下に呼び出されました。
執務室へ行くと、王妃様もいらっしゃいます。
何かあったのでしょうか。
ノア様も不思議そうにしてらっしゃいます。
「突然呼び立ててすまないね。
実は、君たちに伝えたいことがあって呼んだんだ。
まぁ、とりあえず座って聞いてくれ」
言われた通り、ソファーに座ると、陛下と王妃様も向かい側のソファーに座りました。
なんだか、妙にご機嫌です。
「ジュリア、治水事業の方は目処がついたとリリーから聞いているが、どうかな」
リリーと言うのは王妃様のお名前です。
お二人はとても仲がよく、時折こうして名前で呼ぶのです。
「ええ。後は専門家の指示通りに職人さん方に工事を進めてもらうだけですわ」
「ノア、君は取り急ぎの公務は、当分のところ入っていなかったね」
「ええ……そうですが。どうしたのです?お二人で旅行にでも行かれるのですか?」
ああ、それなら仕事の進捗を聞かれたのも納得できます。
ですが、陛下の思惑は予想の上を行っていました。
「そう。しばらく国を離れて周辺諸国を回りたいと思ってね」
「しかし、国王の長期不在となれば、民たちも不安がるのでは?それに、父上の公務も急ぎではないにしろ、それなりにあるではないですか」
「そう!そうなんだよ。だからね、この機会に君に王位を譲ろうと思ってね」
「は?」
「君の担当している公務は重要なもの以外ティーダに引き継いでもらって、君にはこれから国王として公務を執り行ってもらいたい」
「突然何を言い出すのです。まだ譲位するようなお歳ではないでしょう。それに、もう直ジュリアが出産するというこのタイミングでの譲位もどうかと思いますが」
ノア様がキッパリおっしゃいましたが、陛下も王妃様も笑顔を崩しません。
「もちろん、正式な即位式はジュリアの子が無事生まれてからにするよ。
そうなると数ヶ月はジュリアもロクに公務ができなくなるから、その間はリリーもちゃんとジュリアの公務を引き受ける。
だから、そうだね……あと半年以内には即位する腹積もりでいてくれ」
「即位後に、旅立たれるおつもりなのですか?」
「うん、そう。せっかくだから、リリーと新婚気分をまた味わいたいと思ってね。数ヶ国を回ってくる予定だよ」
陛下の中では、すっかり決定事項のようです。
「また、そんなワガママを。私はまだまだ若輩者ですよ?そんな私が王位に就いたら、周辺諸国から舐められます」
「大丈夫。ミモザを属国にしたことや、ロングアイランドに貸しを作ったことで、周辺諸国からの君の評価は高いからね。
とにかく、ジュリアの二人目の子が落ち着き次第、譲位して私たちは旅に出る。
誰にも文句は言わせないよ」
「ノアが王位に就いたらジュリアちゃんが王妃ね。私は皇太后。やっとマークとのんびりできるわ」
「そんな、老後を語るように言って……」
「やだわ。老後だなんて考えてないわ。少し歳はいってるけど、もしかしたらあなたに新しく弟か妹ができるかもしれないわよ」
確かに、出産をするのにはギリギリセーフです。
高齢出産になるので、命の危険はありますが。
このお二人、仲が良すぎて早く二人きりになりたいという空気がムンムン出ています。
「ジュリアちゃんも国民からの人気が高いから、王妃の座についてもなんの問題もないわよ」
いえ、そういう事ではないと思うのですが。
もう、言葉が出ません。
そもそもお二人はもう決めていらっしゃるのです。
それを覆すことは流石にできません。
「ポアロが反対しますよ」
そうですわ!
陛下に意見を言えて、且つ常識人のポアロなら止めてくれるはず。
「ん?ポアロなら、君が即位してその片腕になれるのをとても楽しみにしているよ?
それにポアロとマリアも、自分たちの後釜をさっさと決めて、隠居生活をしたいみたいだし」
ポアロ、あなたもですか……
ここまで言われては、もう返す言葉もありません。
私とノア様は顔を見合わせてため息をつきました。
「分かりました。半年前後ですね?
では、それまでに私はティーダに今抱えている公務を任せて、国王としての仕事を父上のそばで学びます。
ところで、ティーダはこの事についてなんと言っていたのですか?」
「ティーダなら、私たちが旅行に行くなら自分たちも早めに結婚式をするつもりみたいだよ。」
ティーダ、あなたまで……
私達の周りに味方はいません。
これはもう、受け入れるしかありませんね。
いえ、陛下が決定した時点で覆せないことだったのですけれど。
ノア様も諦めたようにため息をつきました。
「分かりました」
「やっと納得してくれたか。まぁ、ロングアイランドのヘンリー国王も若いし、噂ではミモザ国王もそろそろ譲位を考えてるみたいだし、ちょうど世代交代の時だったんだよ」
「はあ……」
ノア様、ガックリと肩を落としています。
「でも、王妃様が旅行に出かけられたら、お茶会が出来なくてつまらなくなりますわ」
私の言葉に、ノア様は今それ?という顔をしていますが、本当のことですもの。仕方ありませんわ。
「そうねぇ。旅行中は、マリアンヌちゃんと二人でお茶をするか、ティレーズでも誘いなさいな」
「ですが、ティレーズは……」
転生者ではないので、ゲームの話はできません。
「まぁまぁ。一年もしたら帰ってくるから、そうしたら、また三人でお茶会しましょう?
あ、ちなみにノアはわかってると思うけど、譲位したら、私たちは城内の離れに移るから。静かでいいところよ?そこでお茶しましょうね」
「え、では今お義母様やお義父様が使ってらっしゃるお部屋はどうなるのです?」
「もともと今私達のいる部屋は国王と王妃の使う部屋と決まっているのよ。だから、これからはジュリアちゃんが使ってね」
あんな豪華な部屋をですか?!
私一人で?
寝室は夫婦の寝室が用意されているみたいですけれど、王妃様の自室はとても広く豪華で、執務室も別にあります。
どれくらい広いかといえば、実家の私の部屋の2倍くらいでしょうか。
豪華さは私の乏しいボキャブラリーでは言い表せませんので諦めます。
とにかく、それくらい立派なお部屋なのです。
「とりあえず、明日にでもまた女子会しましょ?マリアンヌちゃんにも王城内の医療に関してお願いしておきたいし」
「分かりました」
私とノア様はそれぞれ疲れ果てて、御前を失礼しました。
「ノア様。ノア様なら、素晴らしい国王になりますわ、きっと」
「まぁ、もう頑張るしかないね。ジュリアも、私を助けてくれよ?」
「王妃様のようにはできないかもしれませんが、頑張りますわ」
「最初から母上のような存在を目指さなくてもいいんだよ。
私が即位してもしばらくは子育てに時間を取られるだろうからね。ジュリアはジュリアらしくいてくれればいいよ」
「はい」
翌日、マリアンヌ様との三人のお茶会で王妃様が昨日の話をしました。
「あら、お茶会が寂しくなりますわね」
マリアンヌ様、意外と冷静です。
「ジュリアちゃんもそう言っていてね、だから、ゲームの話を特にしない時にはティレーズかマリアを呼ぶといいわ。
マリアは忙しいから、やっぱりティレーズかしらね」
「コイバナなら、ティレーズをおもちゃにするのも楽しそうですわね」
言われてみれば、確かに。
ちょっとティレーズに恨まれそうですけど、コイバナは楽しいですし、ティレーズには是非参加してもらいましょう。
話がまとまったところで、王妃様はゲームのメインイベント発生の場所や、その他にも各国を回るのだと教えてくれました。
「旅行、羨ましいですわ」
「そうですわね。私も羨ましいですわ」
私が簡単に旅行に行けないのはもちろんですが、マリアンヌ様もエリクが王城のコック長なので、やはり旅行には行けないのです。
「あなた達も世代交代したら行けるわよ」
「気の長い話ですわね」
私とマリアンヌ様は苦笑しました。




