夏の離宮
ノア様目線続きます
夏の離宮に到着するなり、私はジュリアを横抱きにしてベッドルームに向かった。
「の、ノア様。まだ外は明るいです!」
「明るい方がジュリアをよく見れていいだろう?」
「そんなっ……恥ずかしいです」
ジュリアの恥ずかしがり屋っぷりは健在。
結婚して数年経つのに、まだこんな可愛い姿を見せてくれる。
「恥ずかしがる姿も可愛いからね」
言って、私はそのままスルスルとジュリアのドレスを脱がせた。
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離宮に着いたのが昼過ぎ。
今はもう夕食の時間だ。
くったりと目を閉じているジュリアの髪をそっと漉くと、ジュリアがぼんやりと目を開けた。
「夕食の準備はできてるみたいだけど、食べる?」
「食べます。自分で!自分で食べますから!」
新婚旅行で抱っこして食べさせてあげたのを覚えていたらしくて、自分で食べる、とすごく力説している。
また食べさせてあげたかったんだけど、仕方ない。
それに、休暇はまだ始まったばかり。
チャンスはいくらでもある。
ジュリアをまた横抱きにして食堂へ連れて行くと、ストンと椅子に座らせた。
夕食のメニューはジュリアの好きなものばかり。
使用人達、ジュリアのこと好き過ぎだろう。
まぁ、こんなに可愛くて、優秀で、優しいジュリアだ。
使用人達から好かれていても不思議はない。
「そう言えば、ロード王子は随分軟禁生活を満喫してましたわね」
「まあな。いつ殺されるかも分からないから、今を思う存分楽しむことにしたんじゃないかな」
「ああ、なるほど。そういう考え方も出来ますわね」
「ん?ジュリアは違うの?」
「まぁ……その、随分女好きの軽い方だな、と。母国には側室の方もいるでしょうに、こちらでも恋人を作っていますし。
バロン殿下が軽い方でしょう?なので、やはりそういう血筋なのかな、と思いましたわ」
確かに、バロン王子はすごく軽い。
学園在学時から、女の子を周りに侍らせて、あちこちの女の子とイチャイチャしていた。
もちろん、王太子という肩書があるので、深い関係にはならないように気をつけていたみたいだが。
「だが、ナード王子は真面目で一途だったろう?ロード王子は、寂しさや恐怖を紛らわせているのかもしれないよ?」
「そうですわね。それに、修道士として真面目に生きてきた分、反動で今はっちゃけているのかも知れないですわね」
ロード王子の話が続く。
私はだんだん面白くなくなってきた。
心が狭いと言われても、ジュリアが他の男の名前を連呼しているのが面白くないのだから、仕方ない。
「ロード王子の話はおしまい」
私の気持ちを読み取ったのか、ジュリアはロード王子の話をやめた。
「そう言えば、この離宮には今何人の使用人さんがいらっしゃいますの?」
「5人だよ。最低人数に抑えてもらったからね」
「5人……今、厨房にどなたかいらっしゃるでしょうか」
どうやら、ジュリアは何か思いついたらしい。
「私たちの使った食器の片付けもあるし、今は厨房で待機している者もいるんじゃないかな」
「でしたら、夕食後に少し厨房を使わせて頂けるように、お願いしていただけますか?」
「じゃあ、メッセージカードにそう書いておこう」
私は食堂に置いてあるメッセージカードに夕食後に少し厨房を使わせてほしいと書き込んだ。
それを見ていたジュリアが、ソワソワし始める。
なんだ?今度はどうした?
「あの、私もメッセージカードに書いてもよろしいですか?」
「もちろん、構わないよ」
ジュリアにメッセージカードを手渡すと、空いているスペースにサラサラと何かを書き込んだ。
何を書いたのか、気になって見せてもらうと、料理がとても美味しかったことが、感謝の言葉とともに書き込んであった。
ジュリアのこういう所が、私はとても好きだ。
使用人に対しても、感謝の気持ちを忘れない。
王城にいる時も、サーブするメイドを通して、料理の感想やお礼の言葉を伝える。
だから、王城の使用人たちの間では、ジュリアはとても人気者だ。
エリクがとても喜んでいると、この間もマリアンヌ嬢から聞いたばかりだ。
王城で働き始めたばかりの使用人なんかは、ジュリアのそういう態度に対して、とても驚く。
普通なら、貴族出身のご令嬢はそんなことを言わないし、使用人に対しても壁がある。
だが、ジュリアは貴族の令嬢として一流の教育を受けてきたにも関わらず、そういう所は庶民的なのだ。
「ジュリアは、私の誇りだよ」
ジュリアがデザートまで食べ終わったのを確認して、私はジュリアを抱き上げた。
もう、自分で歩けると言っても私が聞かないことを学んだようだ。
「まだ外は明るいし、外に行ってみるかい?」
「いいですわね。お天気もいいですし」
ジュリアを抱いたまま中庭に出ると、私はゆっくりジュリアと中庭の植物を愛でた。
「ねぇ、ジュリア。こうして二人で庭にいると、マスカレードの夜を思い出さない?」
ジュリアの顔が一気に赤くなる。
「駄目ですわよ。あの時と違って今は明るいんですから」
「使用人たちはみんな屋敷の中にいるし、ジュリアが声を出しても聞こえないから大丈夫。
それに、万が一にも見られないように、ジュリアのドレスを脱がすような真似はしないから」
ちょっと、乱れるかもしれないけど。
私はジュリアの返事を待たずに、植木の中にジュリアを押し倒して、宣言通りドレスを脱がすことなくジュリアを可愛がった。
ジュリアを少し怒らせてしまったみたいなので、
何度もキスをして謝る。
「ごめん。もう外ではしないから。だから許して?」
ジュリアは繰り返されるキスに、ようやく怒りを解いてくれた。
「ノア様は本当に、仕方のない方ですわね」
呆れているような物言いだけど、表情は優しい。
「部屋に戻ろうか。今度はちゃんとベッドでジュリアを抱きたくなった」
ジュリアは一瞬目を見開いて、それからため息をついた。
こうしていると、親しくなったばかりの頃を思い出す。
「ジュリアは出会った頃から変わらず可愛いね」
「そんな事おっしゃるのは、ノア様だけです」
「それでいいんだよ。ジュリアの魅力は私だけが知っていればいい」
「ノア様ったら」
私はジュリアの額にキスをして、言った。
「そう言えば、このあと一時間後からなら、厨房を使っても構わないみたいだよ」
「本当ですか?嬉しいです」
「何を企んでいるのかな?」
「まだ秘密です」
ジュリアは、うふふ、と笑った。
夕食後から1時間が経った頃、ジュリアは動きやすい服装に着替えて、厨房に向かった。
アレコレ材料や調理器具を取り出すジュリア。
「もしかして、お菓子を作るのかい?」
「ええ。急な休暇に対応して下さった使用人の皆様に感謝の印に」
ジュリアはお菓子作りが趣味と言うだけあって、手早く調理を進めていく。
やがて型に流しこんでオーブンに入れると、ジュリアはようやく椅子に座った。
どうやら一段落ついたみたいだ。
お疲れ様の意味を込めて、ジュリアにミルクティーを出してあげる。
二人でお茶を楽しんでいると、段々いい香りがしてきて、ジュリアはオーブンをのぞき込んで、中のものを出した。
マフィンだ。
全部で6つ。
そのうちの一つを私の前に差し出す。
「一番先に食べていただきたいのは、ノア様ですから」
ああ、どうしよう。
うちの嫁が可愛すぎて困る。
私は早速マフィンを食べた。
相変わらずおいしい。
ジュリアの作るお菓子は、甘すぎず、さっぱりしているので、お菓子が得意ではない私でもおいしく食べることができるのだ。
俺はメッセージカードに、マフィンはジュリアからの感謝の気持ちだから、みんなに食べてほしいと書き込んで、ジュリアを寝室に運んだ。
夜はまだまだ、これからだ。




