ノアの嫉妬
ノア様目線です
マスカレードでジュリアとダンスをし終わって、もう一曲、と思っていたところで他の男に攫われた。
強引に自分の相手をさせるわけにもいかず、その場から離れて様子を見ていると、相手の男はジュリアの耳元でしきりに何か囁いている。
ジュリアが作り笑顔で答えているところを見ると、男からの誘いを何とか躱している、というところか。
その間に、私の周りにも女たちが集まり始めた。
鬱陶しい。
マスクをしているから王太子だとはバレていないはずなのに、なぜこうも寄ってくるのか。
「すみませんが、私が踊りたい相手はただ一人なので」
やんわり断っても、去っていかない。
その時、女神の声が聞こえた。
「では、私とは踊っていただけますか?」
醜い女同士の争いを、軽く嫌味で流して、ジュリアとまたダンスをする。
やり場のない嫉妬心は、ジュリアを中庭の植木の中に連れ込んで思う存分味わうことでなんとか収めた。
翌日、各国の賓客の相手をしていると、隣国ロングアイランドの王太子がやってきた。
明らかに、ジュリアが警戒している。
「実は、昨晩のマスカレードで素敵な令嬢にめぐり逢いましてね」
視線がジュリアに向けられている。
昨日ダンスをしただけで、ジュリアだと見破ったのか?
「ほう。ではその令嬢を見つけて一緒に観光を?」
「そうしたいところなのですが、その方は既に結婚されていて……
我が国は多夫多妻ですが、こちらでは一夫一妻制ですからね。なかなか難しいのですよ」
難しいとかそういう話じゃない。
人の嫁に手を出すとは、いい度胸じゃないか。
「人の妻に手を出すのは、感心しませんね」
少し冷たい声でいうと、隣でジュリアがハラハラしているのが分かった。
「ですが、既に跡取りを産んでいるのなら、離婚して私の元に来てくれないか、とも思いましてね。政略結婚なら、それほど想いも強くないでしょうし」
ヘンリー王太子は挑むような視線で俺を見てくる。
つまり、世継ぎは残したからもう、自分に寄越せといいたいのか。
母上は……目がキラキラしている。
面白そうなことがあるといつもこれだ。
「まぁ、さすがに結婚は諦めますけどね。
ところで、ジュリア様のお茶会には縁結びの効果があるとか。なんでもジュリア様に縁結びの力があると聞きましたよ。
是非、私もお茶会に呼んでほしいですね」
公式でのお茶会の誘い。
理由もなく断ることもできない。
「噂に尾ひれが付いているだけですわ。私にはそんな力はございませんもの。
ですが、お茶会にはお招きさせていただきます。王妃様と、最近結婚したマリアンヌ令嬢もよくご一緒にお茶をしますので、声をおかけしますわ。
でも、男性お一人では居づらいでしょうから、ノア様の公務の空いている時間に、ノア様にも参加していただきましょう」
私も参加するとなれば、ある程度の牽制にはなる。
その事に気がついたのだろう。
ヘンリー王太子はジッとジュリアを見たあと、ニヤリと笑った。
「とてもいいですね。お誘い、お待ちしております」
私の牽制ごとき、何でもないと?
そう言えば、結婚祝賀パーティーでもジュリアを口説いていたな。
あの時は冗談として特に何も警戒していなかったが、もしかして、あの時から目をつけていたのか?
私はその晩、激しくジュリアを求めた。
誰にも渡さない。
ジュリアは私だけのものだ。
誰にも、指一本触れさせない。
翌日、公務が長引いて少しお茶会への参加が遅れてしまった。
話題はどうやら、ロングアイランドにもジュリアの天使からの加護を分けてもらうため、長期に渡ってロングアイランドに滞在してほしいというものらしい。
ロングアイランドがこの所、厳しい寒波によって食糧難に陥っていることは情報として入っている。
だからといって、ジュリアを長期に渡ってロングアイランドに行かせる気はない。
コイツ、絶対その間にジュリアに手を出すつもりだ。
結局、落とし所として、エドワードの育児が落ち着いたら、数度に分けてジュリアがロングアイランドに行くことに決まった。
本当は行かせたくないが、王太子の人柄はともかく、ロングアイランドの国民に罪はない。
それに、ここで恩を売っておくのも悪くない。
「わかりました。本当は、ジュリア様個人を頂きたいところなのですがね」
コイツ……!こんなにはっきり……
「我が国の次期王妃を奪うとなれば、開戦は避けられませんよ?」
ロングアイランドも武力はそれなりにある。
でも、今はトリスもミモザを従属国としていて、間に挟まれたカルーア国とも、つい先日同盟を結んだこの国も、武力では負けていない。
「互いに、血を流すのは避けたいところ。特に貴国は食糧難。ここは大人しく引くのが得策かと思いますが?」
民衆からも不満は出るだろうし、食糧難の中での戦はなかなかに厳しいことになる。
そのことは、ヘンリー王太子もわかっているはずだ。
ヘンリー王太子は一瞬唇を噛み、それから作り物みたいな笑顔を浮かべた。
「さすが、ジュリア様の選んだ方だ。お言葉通り、ここは引きましょう。ですが、ジュリア様が我が国に来ている間にもしも気持ちが移ったら、その時は諦めてくださいね」
そんなことあるわけ無い。
ジュリアは、あの王子だらけのクラスにいながら、一講師であった私を選んでくれたのだ。
私から見れば、ヘンリー王太子もあの王子たちとさほど変わらない。
ジュリアにとっては、せいぜい目の保養くらいにしかならないだろう。
私の余裕の笑みに気がついたのか、ヘンリー王太子は悔しそうな顔をした。
ヘンリー王太子が先にお茶会から抜けた後、一同にため息が広がった。
「あの方なんですの?他国の王太子妃に手を出そうなんて」
マリアンヌ夫人が怒っている。
でも、母上に何か耳打ちされると、ニヤッと口元に笑みを浮かべた。
面白いことを思いついた、とでもいいたそうな表情だ。
一方でジュリアはグッタリしている。
どうやら、ヘンリー王太子は目の保養になるどころか、毒にしかならないようだ。
「ノア様。ロングアイランドの国民のことを考えたらこんな事を言ってはいけないのでしょうが、私、ロングアイランドに行きたくありませんわ。
数日だって、ノア様と離れていたくありませんのに」
可愛いことを言う。
「大丈夫。行く時は私も公務の都合をつけて、一緒に行くようにするよ。そうしたら観光してるのと同じだろう?」
「ノア様……」
ジュリアにじっと見つめられて、抱き寄せようとしたところで邪魔が入った。
「あなた達、そういう事は人目につかないところでおやりなさいな。見せられてるこちらはいい迷惑ですわ」
母上……
せっかくいい雰囲気だったのに。
「この後はもう公務がないんだ。ジュリア、部屋へ戻ろう?」
「はい。ノア様」
部屋に戻ったら、声が枯れるまで啼かせてあげる。
君の身体の至るところに、所有痕をつけてあげる。
ヘンリー王太子にもわかるくらいに。
私は優しくエスコートして、ジュリアと部屋に戻った。




