新しい生命
産み月に入りました。
これまで何度か、お茶会を主催しています。
アドバイスをする時もあれば、しない時もあります。
ですが、何故か皆さんいい縁組をされていらっしゃるようです。
本当に、なぜでしょう。
でも、流石に産み月に入ってからはお茶会も催していません。
いつ生まれるかわかりませんしね。
「ジュリア様。抗生物質の代わりになる薬剤と、部分麻酔の代わりになる痺れ薬は入手致しました。金物屋で点滴用の針も作ってもらいました。チューブの代わりになる物も作らせましたので、万が一難産だった場合や、帝王切開になっても大丈夫です。輸血もできますわ。
ですから、安心して出産に臨んで下さいね」
マリアンヌ様から心強い励ましをいただきます。
出産の際は、産婆さんとマリアンヌ様が赤ちゃんを取り上げてくれるそうです。
マリアンヌ様から励まして頂いたその晩。
夜も更けてから、陣痛が始まりました。
教わった通りに、陣痛の間隔を測ります。
まだそんなに痛くないし……と思っていましたが、流石に陣痛の間隔が短くなってきたので、ノア様を起こして、マリアンヌ様と産婆さんを呼んで頂きました。
「初産だし、いくら安産とはいえまだまだ時間はかかるわよ」
私にそういった後、マリアンヌ様はキッとノア様を睨みました。
「ここからは女の世界です。ノア殿下は何もできることがないので、ご退室ください」
「しかし……」
「ノア様。私は大丈夫ですから」
暗に出て行け、と告げると、流石にノア様も諦めたように部屋を出て行きました。
そこからの数時間、本当に長かったです。
それでも私、そんなに痛みは無いのです。
マリアンヌ様にそう告げると、何でもないというようにおっしゃいました。
「生理痛が酷い方などは、痛みを逃がすのがうまいのです。あとは、天使の加護かもしれませんわね」
明け方近くになってようやく、産む体勢に入ります。
この世界でもラマーズ法は使われているようで、ひっひっふー、と産婆さんから声をかけられます。
ひっひっふー。
ひっひっふー。
うーん、痛みが強くなってきました。
「もう頭見えてるから!頑張って」
ひっひっふー。
ひっひっふー。
「はい、頭出たー。あとは楽よー」
最後の仕上げに息むと、ズルンと何かが出たのが分かりました。
でも、泣き声がしません。
心配しましたが、臍の緒を切って口の中に入っている物を取り出せば口呼吸に変わり泣き出すのだとあとから聞きました。
産湯に浸かった赤ちゃんがおくるみに包まれて、私の胸の上に乗せられます。
「初乳を飲ませてあげて」
マリアンヌ様に言われた通り、寝たままの態勢で、赤ちゃんに母乳を上げます。
「よく頑張ったわね、おめでとう。立派な男の子よ」
ああ。
うっすら生えている毛はノア様と同じ薄茶色です。
瞳の色は確認できていませんが、ノア様と同じ色だといいな、と思います。
モブの私に似たら、モブっぽい人生しか送れなさそうですし。
まぁ、将来の王太子ですけど。
産んでる最中は、何度も、やめてやるー!と思いましたが、こんなに可愛いなら、今度は女の子も欲しいですわね。
後産が終わって、鈍い痛みだけになってから、ようやくノア様の入室が許可されました。
すぐさま私を抱きしめようとして、
「まだ抱きしめるの禁止!」
マリアンヌ様から厳しい声が飛びます。
仕方なく私の手を握って、ノア様は目を潤ませました。
「お疲れ様。ありがとう、私の子を産んでくれて」
「見てください。とっても可愛い男の子ですよ」
「ああ。本当に可愛いな」
恐る恐る赤ちゃんに触って、ふにゃっと笑います。
どうしましょう。
赤ちゃんもですけど、ノア様も可愛いです。
これから数ヶ月は、三時間おきにミルクをあげなくてはいけないので、睡魔との戦いになるでしょう。
今のうちに少し寝てしまってもいいかしら。
そんなことを考えている間に、私は意識を手放しました。
3時間後に起きたときには、陛下と王妃様の孫フィーバーが凄いことになっていて、名前も決まっていました。
「エドワード。この子の名前は、エドワード・トリスだ」
ノア様の温かい声に癒やされます。
「この世界へようこそ、エドワード」
新しい世継ぎの誕生日は、国民の祝日になるようです。
国民の皆さんにも祝福していただいて、嬉しい限りです。
そこからの数ヶ月が地獄になることも実感しないまま、私とノア様は新しい命を喜んだのです。




