ティレーズの本気【前編】
ティレーズ目線です
私がマルコ様に想いを寄せている事が奥様にバレてから数日後。
私は王妃様のお茶会に参加しているはずの奥様から、中へ入るよう言われました。
通常であれば、王妃様と奥様、それにマリアンヌ様のお茶会では、侍女もすべて退室させられ、中に入ることは許されません。
恐る恐る中へ入ると、どうやらお三方は私の恋について話してらしたようです。
私如き侍女の恋の話などで盛り上がるなんて、恐縮であると共に、暇なのかしら、と思ってしまいます。
戸惑う私に、マリアンヌ様が恋愛の駆け引きのようなものを教えてくださいます。
第一に、話す時は今より1歩だけ近づけ。
第二に、秘密にしてほしいと前置きして、マルコ様にお見合いのことを相談する
第三に、相談しておきながら、「こんなことを相談するなんて、ごめんなさい」と申し訳なさそうに立ち去ること
その後にも色々やる事はありますが、このお三方が私のために考えてくださり、アドバイスを下さったのです。
ここで尻込みするようでは女が廃ります。
それに、私のことでいつまでも奥様を悩ませていては、お腹の子に影響を与えかねません。
私が決意すると、お三方は目一杯力付けて下さいました。
翌日。
早速、奥様の公務についてマルコ様との打ち合わせがあります。
と言っても、廊下で書類を受け取って情報交換をするだけ。
私は、マリアンヌ様に言われた通り、いつもより1歩だけマルコ様に近付きました。
マルコ様は少し困惑したような顔をしたものの、特に後ろへ下がるというようなことはありませんでした。
避けられなくてよかったです。
それから、さり気なく縁談の話をして、言われた通り、答えを聞く前に、申し訳ありません、とその話を打ち切りました。
次の日も、そのまた次の日も、以前より1歩だけ近付いたまま話します。
マルコ様は、すっかりこの距離に慣れたご様子。
奥様に報告いたしますと、満足げな表情。
どうやらここまでの作戦はうまく行っているようです。
奥様から、たまに目線を合わせなさい、と言われたので、翌日からは目線も合わせるようにします。
これ、少し恥ずかしいですね。
顔が熱くなってしまいます。
マルコ様も少し居心地が悪そうです。
なんとなく、お互いにギクシャクした雰囲気になりましたが、それも少しすると普通になりました。
マリアンヌ様は、マルコ様が痺れを切らして縁談について聞いてくる、と仰っていましたが、今のところその気配はありません。
奥様にそう申し上げると、少し空を見てため息でもついてごらんなさい、と次の指示がありました。
忙しくてあまり空を見ている余裕などないのですが、僅かな暇を見つけては、空を見てため息をついておりました。
実際のところ、実家から手紙が届いていて、縁談はどうするのだ、と言われ憂鬱なので、ため息は自然に漏れます。
そしてついに、マルコ様から呼び止められました。
「ティレーズ。縁談の話はどうなったのだ?」
マリアンヌ様の仰った通りです!
予知でも出来るのでしょうか。
「もう、良いのです。諦めますわ」
「あなたは、そんな簡単に諦める人じゃないだろう。ジュリア様へお仕えするのも、そんな簡単に諦められる程度の気持ちだったのか?なぜ徹底して反抗しない!本当に親の言うままに結婚するのか?あなたはそれで幸せなのか」
ここまで来ると、マリアンヌ様が怖くなります。
「簡単ではございませんわ!私にだってお慕いしている人もいます」
「ならば、その御仁に想いを告げて……」
「出来ませんわ!だって、私のお慕いしている方は……」
「まさか、ノア様か?」
なんでここでノア様の名前が出てくるのでしょう。
マルコ様のお考えは理解できません。
「違います。ノア殿下に最も近い……あなたです」
最後は消え入るような声になってしまいました。
目の前のマルコ様は、目を見開いて固まってしまっています。
口をパクパク動かしていますが、声になっていません。
「マルコ様?やはり、ご迷惑ですわよね……」
「違うっ!そうじゃない!」
突然の大きな声にビクッとなりました。
それを見て、マルコ様は目線をソワソワと泳がせます。
「私は……あなたよりだいぶ歳上で、適齢期などとうに過ぎている。それに、見た目も優しげとは言い難い」
私は奥様と長く一緒にいたせいか、見るからに優しそうな方は目の保養にしかなりません。
実践で役に立つのかな?と不安に思うほどです。
それに比べて。
「マルコ様は、戦闘面でも政治面でも器用に立ち回れると伺っています。その厳しい見た目も、物言いも、すべてノア様の為。
私は、そんなあなたが好きなのです。
それに、歳など……奥様とノア殿下に話したら笑われますわ」
「む………それはそうだが。あなたの家族は反対しないだろうか」
「私が、何も言わせませんわ」
キッパリ言い切ると、マルコ様はクスっと笑われました。
「男前だな。まぁ、そんなあなただから、私も好きになったのだけど」
え?
好きになった?
え?
誰が?誰を?
これは夢でしょうか。
ああ、奥様がここにいれば、あのフワフワしたほっぺたを抓って確かめますのに。
そんなことを考えている私の目の前で、マルコは片膝をついて、私の手をそっと取りました。
「ティレーズ。私の妻になってくれるか?」
「はい!喜んで」
私たちはその場の空気に流されてキスをしようとし、そこが廊下であることを思い出して慌てていつもの仕事用の仮面をつけたのです。
奥様に報告すると、次のお茶会に引っ張って行かれ、一部始終を話す羽目になりました。
「すべて、皆様のおかげでございます。ありがとうございます」
「あなたに勇気があったから成し遂げられたのよ」
「そうよ。あなたが本気でぶつかったから、マルコも本気で応えてくれたのよ」
お三方から優しいお言葉を頂戴します。
「マルコはムッツリスケベだから、気をつけてね」
「早く結婚して、私の子供とあなたの子供を一緒に遊ばせましょうね」
「ふふっ。マルコ、チョロいものね」
皆さんそれぞれ、感想があるようです……
とりあえず最後のマリアンヌ様のお言葉は聞かなかったことに致しましょう。




