午後のお茶会
3時です。
お茶の時間です。
私はティレーズと共に王妃様の部屋へ伺いました。
マリアンヌ様はすでに来ていらっしゃるようですわね。
ティレーズはマリアンヌ様の侍女と一緒に部屋の外で待ちます。
「お待たせいたしました。
ごきげんよう、マリアンヌ様」
「ごきげんよう、ジュリア様」
挨拶をして、用意されている椅子に腰掛けます。
王妃様自ら淹れてくださったお茶を飲んで一息つきますと、マリアンヌ様が、ぐいっと身を乗り出しました。
「パーティーでも耳にしましたけど、ご懐妊というのは、本当?」
「そうらしいですわ」
「ならば、妊娠期間と出産に際してはぜひ私にお任せください」
「マリアンヌちゃんは、前世では優秀な外科医だったそうよ」
「お医者様だったのですね!心強いですわ」
何しろこの世界の医療水準は低いのです。
産婆さんはいらっしゃいますけれど、妊娠期間の注意事項などに関しては、もはやお婆ちゃんの知恵袋のレベルです。
「でも、出来るだけ自然分娩がいいですわね」
「あら、帝王切開もあなたなら可能なのじゃなくて?」
「薬剤がないのです。抗生物質も、麻酔も」
「ああ……」
「それに、産科の仕事はインターン時と当直時に少ししただけなので、基礎的なことしか分かりませんけど」
前置きした後で、マリアンヌ様は続けます。
「食事は薄味で。主食、主菜、副菜をバランス良く。この辺りは、私が覚えている限りでコック長に注意事項として伝えておきますわ。
後は、身体が辛いときには無理に動かないこと。
でもある程度の運動、散歩したりすることは必要ですわ。
この世界にはコーヒーはないので安心ですが、カフェインもできるだけ控えたほうがよろしいわね。まぁ、あまり紅茶をがぶ飲みしなければ大丈夫ですわ。性生活については、後で王妃様を通してノア殿下に伝えていただきますわ」
頼もしいです、マリアンヌ様。
私は前世では何をしていましたっけ。
ああ、学生でしたわ。
これといった特技もなくて寂しいですわね。
「王妃様は、前世では何を?」
マリアンヌ様がぷぷっ、と笑います。
「私は、その……サラリーマンでしたわ。ゲーオタで、あらゆるゲームに手を出していましたの。乙女ゲーは妹の影響ですけれど」
まさか、王妃様前世が男性とは。
今はこんなに淑女らしくなさっているから、余計にギャップが凄いですわ。
「その……前世の記憶があるのに、男性とって、違和感はございませんでしたの?」
「そうねぇ。私は幼い頃に記憶を取り戻して、そこから徐々に現世とのバランスを取っていきましたから、適齢期に入るまでにはすっかり身も心も女性だったのよ。だから、BL的な感覚はなかったわね」
「よかったですわね。心が男性なら、少し辛いところですものね」
マリアンヌ様がしみじみとおっしゃいます。
本当にそうですわね。
「私のことはいいのよ。それより、ジュリアちゃんのこと、生まれるまで、よろしくね、マリアンヌちゃん」
「分かっていますわ。でも、天使ジブリール様の加護があるなら大丈夫かとは思いますけれど」
「まあ、たしかにその通りね」
私のお腹の中に、ノア様の子がいる。
まだ、つわりもなく少し眠い程度ですので、全然実感がわきません。
「出産のときは、ノア様は役に立たないと思っていた方がよろしくてよ」
「そうね。私もノアとティーダを産むとき、マークは全然役に立たなかったもの。オロオロするだけで、腰をさすってもらってもなんだか場所がズレてるし、邪魔だったらなかったわ」
「………期待しないでおきますわ」
「それがいいわ」
その頃、公務に励んでいたノア様と陛下がくしゃみをしていたのですが、私達はそんなことは知らず、お茶を楽しんでおりました。
「ノア様と言えば、マルコですけれど」
「マルコがどうかなさったの?」
「いえ、ノア様の放浪の旅にお供してらしたでしょう?
決まった方はいらっしゃいませんでしたの?」
王妃様が申し訳なさそうな顔をになりました。
「ノアが旅に出たとき、マルコも適齢期だったのよ。縁談もたくさん来ていた筈だけど、ノアが旅に出るなんてわがままを言ったばっかりに、適齢期を逃してしまいましたの。申し訳ないことをしたわ」
マルコ、お気の毒に。
でも、ティレーズにとってはラッキーでしたわね。
「それにしても、マルコは飄々となさっていて、女性の影も感じませんけど、実際のところどうなのかしら」
「マルコもねぇ、残念な子なのよ。あの通り、自分の主人に対してもなかなか辛辣でしょう?父親譲りなのだけど。
適齢期も過ぎているのにそんな姿を見て、いいと思う令嬢はやはりいないのですわ」
私のそばに一人いますけれどね。
「では、もしそんな令嬢が出てきたら、マルコも嬉しく思うのでしょうか」
「そりゃ、マルコも男ですもの。余程見た目や性格に難ありな令嬢でない限り、嬉しいのではないかしら」
ふむ。
ティレーズ、あなた望みあるわよ!
後はノア様に、マルコに想い人がいないかどうかの確認ですわね。
「ジュリアちゃん?なにか楽しそうなことを始めたみたいね」
「うふふ。恋のキューピッドになろうかと思いまして」
「あら、楽しそう。私も一枚噛ませていただきたいわね」
「あら、それなら私も」
王妃様とマリアンヌ様もノリノリです。
「では、時期が来たらご相談しますわね」
「絶対よ」
「ええ。お約束いたしますわ」
私達はうふふ、と笑ってお茶会を終えました。




