追い込まれた陛下とティレーズの悩み
主人公目線にもどります
パーティーの翌晩、私達は和やかに夕食を食べています。
ええ、お一人を除いて。
「それにしても、昨日のジュリアの手腕は大したものだったな」
「ええ。大の男二人がタジタジになって」
ノア様とお母様の言葉に、居心地が悪そうな陛下。
「そもそも、なんでそんな賭けをすることになったのか、それを伺いたいですわね。どういうことですの?マーク」
お義母様が笑顔で陛下を問い詰めます。
「いや、その……いつものチェスでは面白くないという話になって、それならば、ノアの縁談でも賭けようかと、な。ハイネケンは元々娘をノアに嫁がせるつもりだったし、娘もそのつもりだと言うものだから……」
「ノアとジュリアちゃんの気持ちを無視して面白半分で勝負された、と?」
「いや!ジュリアの体が心配だったのも事実なんだ!」
「ふっ。そんなこと、後からいくらでも仰れますわよね」
「わ、私は国を治める立場だ!この国の将来を案じてだな、」
「父上。父上の負けですよ」
クララが立った!
あ、間違えました。
ティーダ様が喋りました!
ティーダ様、ちゃんとお話しできるのですね。
「ティーダが言った以上、これ以上反論しても無駄ですわね」
お母様がうふふ、と笑います。
「ティーダの言葉には強力な魔力が込められていてね、ひとたび口から発せられた言葉は誰の力をもってしても覆せないんだ。
だから、普段からティーダは迂闊なことを言わないよう、黙っているんだよ」
そういうことでしたか。
ただのコミュ症かと思っていましたわ。
失礼でしたわね。
「……私が悪かった」
陛下が認めました。
「これに懲りて、二度と勝負で賭け事をされないようにしてくださいまし」
「わかった」
「ハイネケン公爵は当分仕事以外では父上や私の前に姿を表しにくいだろうし、チェスの相手にはジュリアを選んだらどうです?」
「確かに、ジュリアのチェスの腕前には恐れ入った」
ここまで、私は一切発言しておりません。
一応、嫁の立場ですし、怒っていますからね。
「ジュリア。今度手の空いているときにでもチェスの相手をしてくれないか?」
「陛下がそうおっしゃるなら」
「お義父様とは、もう呼んでくれないのかい?」
怒っていることを示すために、チラッと視線だけを陛下に流します。
「ほら、私のデザートも食べていいから」
デザート……
今夜のデザートは、とても美味しいのです。
心が揺れます。
「頂きますわ、お義父様」
「お義父様」とお呼びすると、陛下はデレッとしたお顔になりました。
若干お母様が引いています。
「娘はやっぱりいいなぁ」
「もうじき孫の姿も見れますわ」
「そうだな!ジュリア、いくら天使の加護があるとはいえ、身体にはしっかり気をつけるのだよ」
「ありがとうございます、お義父様」
ダメ押しで2回目のお義父様を使いました。
「こんな可愛いジュリアがいるのに、他の令嬢を側室にしようなんて、やはり私が馬鹿だった」
「何を今更、当たり前のことを」
お義母様が白けた顔でおっしゃいます。
「姉上の子供は、母子ともに無事に生まれてくるから大丈夫」
ティーダ様が言ってくれました。
ティーダ様のお言葉があれば、百人力ですわね。
「そうだわ、ジュリアちゃん。明日の3時のお茶の時間に、ちょっと私の部屋へいらっしゃいな。マリアンヌちゃんが来ることになってるのよ」
「まぁ、マリアンヌ様が?是非ご一緒させて頂きますわ」
私は陛下にもらったデザートを美味しく食べながら返事を致しました。
それにしても、最近、里帰りして以来、ティレーズに元気がないように見えるのですけれど、何かあったのでしょうか。
私は王妃様からも頂いたデザートを食べながら、考えます。
ティレーズは私の姉のような存在ですから、困ったことがあれば力になりたいのですが。
ティーダ様もデザートを下さいました。
結局、皆さんの分のデザートを私一人で食べてしまいましたわ。
普段なら怒るティレーズは、やはり心ここにあらずな様子です。
明日の朝にでも話を聞いてみましょうか。
皆さんのデザートを美味しく頂いて、私は思いました。
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翌朝。
私の朝の支度をしてくれているティレーズに声をかけてみました。
「ティレーズ?何か悩みがあるのではなくて?」
「……悩みなどございませんわ」
「嘘をついても駄目。何年の付き合いだと思っているの?」
ティレーズはふぅっ、と諦めたようにため息をつきました。
「奥様に見破られるなんて」
何気に失礼です。
「実は、先日実家に帰った際に、見合いを勧められまして」
「まぁ!」
考えてみれば、私の一つ上のティレーズも適齢期を過ぎようかというお年頃です。
そういった話がでてもおかしくはありません。
専属の侍女を勤める女性は結婚を機に仕事を辞めるか、結婚後に少ししてから戻ってくるかのどちらかです。
「いいお相手はいなかったの?」
「そうですわね。どなたも難あり、と言った方ばかりで。それに私は……」
「もしかして、好きな男性がいるの?」
「……はい。奥様、少し鋭くなりましたわね」
失礼な言葉はこの際聞き流します。
「私の侍女という立場なら、その方に相応しくないなんてことはないと思うのだけれど」
王太子妃の侍女ということは、とても名誉な仕事で、結婚も引く手あまたなのです。
それに、ティレーズの実家はそれなりに名のある貴族のお家柄。
何を困ることがあるのでしょう。
「私のお慕いしている方は、私のことなど眼中にないご様子なのですわ」
「それは、私も知っている方?」
「……はい」
ティレーズが王子様方に惹かれると言うことはないと思うので、王子様方は除外します。
そうなると、私の知っている男性は非常に限られてきて。
「まさか……マルコ?」
「ご明察ですわ」
マルコは確かに良い方ですが、底のしれないところもあり、確かに、恋愛など眼中にないようにも見えます。
「少し、ノア様に探りを入れてみますわ」
「あまり公にはしないで下さいね」
「わかっているわ、大丈夫」
私はなんとかティレーズの力になりたいと、心に誓いました。




