天使の加護と夜会
翌朝、ジブリール様とアリエル様と一緒に朝食をとりました。
食べ終わったジブリール様がおっしゃいます。
「とてもお世話になりました。今日からまた移動するので、もうお会いするとこもないとは思いますが、何かお礼をさせて下さい」
「お礼と仰られても……私は大したことは致しておりませんし、そのお気持ちだけで結構でございますわ」
「ふむ。欲のない方だ」
まぁ、モブキャラですから。
「ならば、私とアリエルから加護を授けよう」
そう言ったジブリール様とアリエル様のお姿は、目の前で天使のお姿に変わりました。
「天使様でいらっしゃいましたか。知らぬこととはいえ、失礼をお許しください」
「気にするな。それよりそなたは精霊の祝福を受けているな。私からも、五穀豊穣の加護を与えよう」
アリエル様が仰り、辺りが光に満ちます。
私の中に、何か温かいものが入ってくるのがわかりました。
続いてジブリール様が。
「そなたには子孫繁栄と安産の加護を。……ん?ああ、どうやらちょうど良かったようだ」
「何がでしょうか」
「既に身に子を宿している。帰りは馬車だろう。腹の子にはよくないが、私の加護の力が発揮されるだろうから安心して生むと良い」
「私の中に、赤ちゃんが?ありがとうございます!」
「夫とよく協力して、良い国にするように」
「お言葉、胸に」
ジブリール様から力が注がれ、下腹部を中心に温かくなります。
「それでは、我らはこれで」
お二人は光り輝いたかと思うと、次の瞬間にはいなくなってしまいました。
「奥様……」
ティレーズを始めとしたこの屋敷の使用人達が、恐る恐るこちらを窺っています。
「天使の加護を得られるとは……この地での仕事も終わりましたし、急ぎ城へ戻り報告いたしましょう」
ティレーズの手によって慌ただしく支度がされ、昼前には私は馬車に乗せられていました。
この分だと、夕刻には城へ戻ることができるでしょう。
その頃、教会ではジブリール様とアリエル様が降臨され、私に加護を与えたと伝えられ、教会が騒然となっていたそうですが、このときの私はそんなことは存じません。
予定より一日早く戻れることになったのが嬉しくて、馬車からの眺めを楽しんでおりました。
夕刻、城へ戻ると何やら慌ただしくされています。
「ジュリアちゃん、おかえりなさい。ちょっとこっちへ」
途中で行きあったお義母様に廊下の端まで連れて行かれます。
「実は、陛下が今夜夜会をすると突然言い出したのよ。あなたはまだ戻る予定ではなかったから、ノアにはダンスの相手が必要でしょう?
きっとイザベル嬢に相手をさせる気だわ。
そうなったら、イザベル嬢を側室に迎える話が断りにくくなるわ。あなたが間に合ってよかった」
何ということでしょう。
私のいない間に、側室を迎える話を強引に進めようとするなんて。
「大丈夫ですわ、お義母様。ダンスのお相手は私が務めますし、それに、天使のお二人に子孫繁栄と安産の加護を頂きましたから、誰にも何も言わせませんわ」
「天使の加護を!?それを受けられたのは、歴代王族の中でもたった一人だけですよ。
しかもお二人から加護を頂くなんて……
本当にジュリアちゃんは規格外ね」
「では私、夜会に備えて参りますわ」
王妃様の御前を失礼して、自分の部屋へ戻ります。
「ティレーズ。確か、新しいドレスがあったわよね」
「はい。数着ご用意があります。すぐに支度に取り掛かりますわ」
私付きの侍女たちも、今度の側室の話には反対のようで、皆で一丸となって私の身なりを美しく整えていってくれます。
夜会が始まった頃には、何とかそれらしくなりました。
私が大広間の入り口の前に立つと、王族入場のファンファーレが鳴らされました。
ちょうど、ダンスが始まる前で、ノア様の前にイザベル様が立って、陛下とハイネケン公爵と、何事か話していらっしゃいます。
ですが、王族入場のファンファーレの音に、皆さんこちらを振り向きました。
おそらく、ノア様にイザベル様と踊るよう口を出していたのでしょう。
陛下。
いかに陛下と言えども、今回の仕打ち、到底容認できるものではございませんわよ?
私はにっこり笑って、ノア様の元へ歩き出しました。




