縁談の裏側と初の城外公務
翌朝、私はしっかりと朝ご飯を食べ、約束通りノア様の分までデザートをいただきました。
それを見て、王妃様が声をかけます。
「ジュリアちゃん。私の分も食べる?」
「それは流石に、王妃様に申し訳ないので」
「あら、いいのよ。美味しく食べてもらったほうが料理長も喜ぶし。
それよりジュリアちゃん、そろそろお義母さんと呼んでちょうだい」
「よろしいのですか?……では、お義母様、お言葉に甘えてごちそうになりますわ」
「ジュリア。私のこともお義父さんと呼んでくれて構わないんだよ?」
「ありがとうございます」
お義母様のデザートも食べて、頭に糖分が回ったからでしょうか。
少しずつ頭が回り始めます。
「お義母様、この後少しだけ二人でお話させていただいても?」
「ええ。いいわよ」
「ジュリア。君は今日の午後から城外公務だ。
国の北西の地で植物がなかなか育たないと報告があった。すまないが、精霊の祝福の力で植物に力を取り戻してきてほしい。
移動時間も含めて、4日ほどだ。
一人での公務だが、泊まるところは領主が用意してくれている。安心していってきなさい」
「父上!まだ王太子妃になったばかりのジュリアに遠方の城外公務を一人で任せるなんて!
私も一緒に参ります」
ノア様が仰って下さいましたけど、国王陛下は首を縦に振りませんでした。
「お前には別の公務がある。それに、ハイネケン公爵令嬢と、また会ってもらわなくてはならん」
「一度お会いして、私はお断りしたはずです」
「もう一度くらい会ってみてもいいだろう。二人きりで」
陛下の決定は絶対です。
私は隣に座るノア様の腕にそっと触れて、首を横に振りました。
「私なら大丈夫ですから。それに、少し考えがあるのです」
「考えが?」
「後で、話に参りますわね」
食後、王妃様のお部屋におじゃまします。
「どうしたの?ジュリアちゃん」
「実は今回のお見合いについてなんですが、色々と不自然な気がするのです。
第一に、いくら側室を持ったほうがいいと言っても、新婚旅行から帰ってきたその日に言うのは、タイミングが悪すぎます。
それに、会わせる頻度も多過ぎます。
第二に、安産を望むのであれば、頬が少しぽっちゃりしただけのイザベル様より、クレル伯爵家令嬢のように、猪のようにがっしりした体格の女性を選ぶべきです。
この話、きっと裏がありますわ。
私たちが新婚旅行に行っている間、陛下に何か変わったことは?」
「なるほど、そうね……ハイネケン公爵とよくチェスをしていたみたいだけど」
「それですわ。おそらくお二人で何か賭けをして、陛下が負けたのでは?」
「ありえるわね。陛下はそういうことが好きだし」
「そうと決まれば、後はノア様とお義母様に問い詰めていただいて、白状させるだけですわね。
あ、私が帰ってきてからにしてくださいね。
面白そうですもの。ふふふっ」
私は次にノア様のもとを訪れて、お義母様に話した内容と同じことを申し上げました。
「なるほど。そういうことか。わかった、ジュリアが公務から戻り次第父上を追い詰めよう。
私はイザベル嬢から情報を引き出す」
こうして私は、根回しを充分にして、初の城外公務に出かけたのです。
辺境の地であるので、午後1番に城を出ても、着いたのは夜半です。
ちなみに、国土防御魔法は手直ししましたので、賊は入国できませんし、犯罪に手を染めることを決意するだけで強制的に国内から出されてしまうので、国内は夜でも非常に平和です。
到着してとりあえずは領主にご用意頂いた別荘で一晩寝て、翌朝から植物に力を与える事になりました。
翌朝。
動きやすい格好に着替えて、領地の田畑や果樹園を視察します。
確かに、この所豪雨が続いたせいか、植物に元気がありません。
私は田畑や果樹園の地面に手を置くと、「元気になって」と力を流し込みました。
その途端、植物たちは元気を取り戻し、土地の水はけも良くなったみたいです。
領民の方は精霊の祝福を見るのが初めてでしたので、驚きつつも元気になった植物を見て、私に感謝の言葉を伝えてくださいました。
感謝は、領主の方にするべきですわね。
私の力で元気になったとはいえ、領民が困っていると知らせをくれたのは領主なのですから。
他のところは大丈夫なのか確認すると、大丈夫だという答えが帰ってきました。
どうやらこの一帯だけ水捌けが悪かったようです。
とりあえず、私の仕事は終わりました。
ノア様は、上手くやっているでしょうか。
テクテク歩いて別荘へ向かう途中、何やら見目麗しい男女?が領民の方に声をかけては無視されて困っているご様子です。
無視、というのとは違いますわね。
男女?が使っている言語はジン共和国の言葉。
平民なら余程勉強が好きでないと、理解できないのです。
「失礼致しますわ。なにかお困りごとでも?」
ジン共和国語で声をかけると、お二人はホッとされた様子で振り返りました。
ああ、とても美しい方々ですけれど、お二人とも男性なのですね。
私、BLには興味ないのですが。
「実は、今日旅行でジン共和国から入国したばかりなんですが、日が暮れるまでに泊まれる宿がこの辺りにないようなのです」
ああ。田舎ですものね。
私も領地に入ってからここに来るまで宿を見かけませんでしたわ。
「よろしければ、私の泊まっている宿をお使いになりますか?」
「奥様!」
ティレーズがありえない!と言うように声を上げましたが、先程も言ったとおり、この国では犯罪を決意した瞬間に国外へ弾き飛ばされるのです。
なので、お二人を泊めても安全なのです。
私はお二人を伴って、別荘へ帰りました。
「ああ、そう言えばお名前を伺っていませんでしたわね。
私はノア王太子殿下の妻で、ジュリア・トリスと申します」
「私はジブリール」
「私はアリエル」
女性のように美しい方がジブリール様。
ジブリール様ほどではないですけどやはり美しい方がアリエル様。
久しぶりに目の保養が出来ますわ。
別荘の管理人に勝手な真似を詫びて、お二人の泊まる部屋と料理の手配をお願い致しました。
ところでこのお二人のお名前、どこかで聞いたことがある気がするのですが、何でしたでしょうか……




