聖女の加護
祝賀パーティーでは、懐かしい同級生にも会え、話が弾みます。
トリス王国の王太子との婚約ですから、招待客の中にはもちろん、この国の正式な三人の王子も参加してくださいました。
心なしか、ロード王子とナード王子がやつれているように見えるのは気のせいでしょうか……
順番に招待客の方々に挨拶を交わしていき、いよいよリリアン様の番に。
「この度はご結婚おめでとうございます。
その、随分早く教育が終了しましたのね」
「ジュリアは優秀だからね。半年ですべての教育を終えていたのだけど、外交を学んでもらう為にトリスに引き留めていたんだ」
「半年で……?」
「リリアン嬢も、ロード王子の婚約者だった間、教育を受けていたんじゃないのかい?
それとも、ロード王子は修道院に入っておられたし、王位継承権も第三位だから、特に教育はなかったのかな」
そんなはずはありません。
王族に限らず、どなたに嫁ぐにせよ、貴族の子女は婚約者の元へ1年間教育を受けに行くのです。
そのことは、ノア様もご存知のはずですが……
「教育は受けましたけれど、途中で婚約破棄いたしましたので、今は時間が余っておりますわ」
「そう。どこまで教育を受けたの?」
「美しい刺繍の刺し方まで……」
ロード王子との婚約は、確か3ヶ月ほどだったと思うのですが……
リリアン様。ヒロインなのに刺繍は苦手なのでしょうか。
「それより私、魔法を使えるようになりましたの!
どんな攻撃からも国を守ることのできる魔法ですわ!」
興奮気味のリリアン様。
「へぇ。今見せてもらうことは出来るかい?」
「もちろんですわ」
リリアン様は詠唱をして、魔法を発動させます。
その発動の気配に、ミモザの王子とノア様、それに私が反応しました。
辺りは一面光り輝いて、会場だけにおさまらずその光は国中に広がり、まるで昼間のような明るさになりました。
「これは……聖女の加護!?」
「はい!そうですわ」
聖女の加護は誰でもが使える魔法ではございません。
世界でたった一人、使い手が決まるのです。
そう言えば、ゲームではイザーク様ルートで戦いに赴くイザーク様の無事を祈った際、発動させたはずですわね。
これも、ゲーム補正というものでしょうか。
「この力があれば、広大なトリス王国もお守りすることができますわ」
その言葉に、王子様方の顔が青くなります。
当然です。
聖女の加護を使える人間は、国を護る重要な存在ですから、どの国も王族と結婚させて取り込むのです。
トリス王国を護りたいと言うのなら、ティーダ様と結婚を……
あ、ダメですわ。
ティーダ様には幼い頃からの婚約者がいらっしゃいます。
そうなると、トリス王国に取り込むことは出来ませんわね。
リリアン様は、これでノア様と結婚できると思っているのか、目をキラッキラッさせていますが……
私がノア様をチラリと見上げると、ノア様は私の頭を軽く撫でて、リリアン様に向き直りました。
「聖女の加護は、確かにすごい魔法です。使い手が国にいれば、安心でしょう。
ですが、我が国には必要ないのですよ。
最近、我が国全土を覆う膨大な防御結界を張ってくれましたからね、ジュリアが。
それにジュリアは精霊の祝福を受けているから、我が国は安泰なのですよ」
そうなのです。
暇つぶしに防御魔法の練習をしていたら、王妃様がイメージしやすいように国のジオラマを持ってきてくださって、「城」に防御結界を張ってみるよう言われたのですが、「城」に集中するあまり範囲指定を間違えて、「城」を中心に、国内全土まで防御結界が広がってしまったのです。
割と強力な結界の割に、消費する魔力は少しでいいという優れものの魔法なのです。
あまりにもハッキリ必要ない、と言われてしまったリリアン様はオロオロとしたかと思うと、泣きだしてしまいました。
これではまるで、私が悪役令嬢です。
いえ、されていることを思えば、リリアン様が悪役令嬢?
まぁ、どちらでも構いません。
「リリアン嬢、泣かないで。この力は是非我が国で発揮してほしい」
リリアン様にすかさず声をかけたのは、バロン王子。
「私と婚約すれば、将来は王妃だし、君の力で我が国はもっと栄えるだろう」
「バロン様と結婚を?」
あ、悩んでます、リリアン様。
1つとはいえ、バロン様は年上ですし、軽いところもありますが、王太子には間違いございません。
「ありがとうございます。バロン様のお気持ち、嬉しいですわ」
「明日にでも国王陛下に話して、君との婚約の話を進めよう」
「はい……」
頬を赤くしたリリアン様は、すっかりバロン王子に夢中のようです。
イザーク様以外の王子全員とお付き合いされて、兄弟仲は大丈夫なのでしょうか。
それに、ノリの軽いバロン様とフワフワしているリリアン様。
このお二人が将来のこの国を背負うというのは大丈夫でしょうか。
母国には安泰でいてほしいのですが。
とりあえず、今度は婚約破棄にならないといいですわね。
「では、ノア殿下、ジュリア様、ごきげんよう」
すっかり機嫌の良くなったリリアン様はさっさとバロン様と行ってしまわれました。
「あの令嬢は、なぜいつも突拍子もないことを言い出すんだろうな」
ノア様がため息をつかれます。
そのお気持ち、よく分かりますわ。
リリアン様で滞っていた来客との挨拶を再開し、私たちはみんなに祝福されました。
この日もご飯を食べることができなくて、コック長にこっそりお願いして、後から部屋に持ってきて貰うことにしました。
もちろん、ノア様の分も。
ティレーズが実家に戻っているのをいいことに、ノア様をバルコニーにお誘いして、二人で夜食を頂きました。
「あと数日こちらにいたら、もうトリスに戻って挙式だね。
不安はない?」
「前も申し上げましたけど、ノア様がいらっしゃるから、不安はありません」
「早く、私だけのものにしたい……」
いつもの濃厚なキスを交して、私達はそれぞれの部屋に戻りました。




