帰郷
王太子妃教育でトリス王国へきて早9ヶ月。
外交に関してもだいぶわかるようになってきました。
魔法については相変わらず独学で学んでいます。
最近では暇を持て余して、王妃様のお手すきの際に二人で大広間のカーテンに刺繍を施したりする毎日です。
「ジュリア。この国で学ぶことはもう無いようだし、早めに母国へ帰ってゆっくりするかい?」
ノア様から言われました。
「それは嬉しいのですが……ノア様と3ヶ月もお会い出来ないのは、寂しいです」
「ジュリア!」
ノア様にギュッと抱きしめられます。
「全く君は、なんて可愛いことを言うんだ。
でも、そうだね。私も3ヶ月会えないのは寂しいな。婚儀を早められるかどうか、父上に相談してみよう」
「そんな……婚儀を早めるなんてことしてもよろしいのですか?」
「ああ。母上なんて半年で教育を終えて挙式したからね。反対はされないと思うよ」
さすが、王妃様です。
それとも、転生者は飲み込みが早いのでしょうか。
その晩、食事の席で早速ノア様が婚儀を早めたい旨伝えました。
「そうだな。ジュリア嬢には最早なんの心配もないし、かと言って離れて暮らすのも辛かろう。
では、移動の期間も含めて、1ヶ月後に婚儀を執り行おう。
ノアの公務については以前と同じく私と王妃で分担するから、二人でミモザ国へ行ってくるといい」
呆気なくOKを頂けました。
その晩、私とティレーズは急いで旅の準備をしました。
ノア様が、明後日には出発すると仰ったからです。
旅の準備といっても、移動の2週間の間の着替えやメイク道具などなので、それほど多くはありません。
支度を終えて、ティレーズが自室へ下がるとしばらくして、バルコニーの窓をノックする音が聞こえました。
ノア様以外いない、とは思いつつもおそるおそるカーテンを開けます。
ニコニコ顔のノア様の姿にホッとしながらガラス戸を開けると、バルコニーのソファーに二人で腰掛けました。
「明日の晩は早く寝るだろうと思って、今夜訪ねることにしたんだ」
「ノア様は公務がお忙しくてなかなか二人きりになれませんから、とても嬉しいですわ」
ノア様の指パッチンで二人分の紅茶が出されると、私たちはそれぞれ口をつけました。
「そういえば、料理長が弁当を作ると張り切っていたよ。ジュリアは好き嫌いもなくいつもきれいに食べてくれる、と喜んでいたからね。
料理長もジュリアに喜んでほしいんだろう」
「そうおっしゃっていただけると、嬉しいですわ。いつもあまりにも残さず食べるので、ティレーズに怒られていますから」
「令嬢はみんな、少食だからね。それがいいという風潮があるのは確かだが、せっかくの料理を残すのはあまり感心できないな」
「ですよね!せっかく作って頂いているのですから、きれいに食べ切らないと!」
力説すると、ノア様がおかしそうにクスクス笑いました。
「私は、早くジュリアを食べたいな」
少し意地悪な目で言われてしまい、私は耳まで赤くなりました。
「そ、それより!ミモザに着いたら祝賀パーティーですわね。主だった爵位を持ってる方や、同級生は呼ぶのが仕来りですけれど……」
「リリアン嬢は、あまり呼びたくないな」
「ですが、そういう訳にもいきませんしね……」
二人、考えることは同じでした。
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出発の朝、国王陛下と王妃様に見送られて、ミモザへ出発です。
お父様には婚儀を早める旨を手紙でお知らせしておきましたから、到着する頃にはすべての準備が整っているはずです。
来たときとは逆のルートで、のんびりミモザへ向かいます。
カルーア国では、前のときは流星群を見られましたが、今回は見られません。
でも、ノア様が夜のデートに連れ出してくださいました。
お父様と弟にネクタイピンを、お母様には髪飾りをお土産に買って、いよいよミモザに到着致しました。
「ただ今戻りました。お父様、お母様、マシューお元気でしたか?」
「おかえり、ジュリア。元気そうで安心したよ。ノア殿下も遠いところ、わざわざお越しいただき、ありがとうございます」
「いえ。それよりこちらの都合で勝手に婚儀を早めてしまい申し訳ない」
「いえいえ。こんな娘ですが、よろしくお願いします」
それぞれ部屋に通されて、一息つきました。
今日はゆっくり休んで、明日が祝賀パーティーです。
「お嬢様。くれぐれも寝坊なさいませんように」
「わかってるわよ、ティレーズ。
それよりあなたも久々の帰郷でしょう?今夜は私の世話はいいから、少し実家でゆっくりしてらっしゃいな」
「それもそうですわね。お嬢様が結婚されたら会う機会も無くなりますし、お言葉に甘えて、今のうちに挨拶を済ませてまいります」
ティレーズが実家に戻り、私はノア様とのんびりお茶を楽しんでから、その晩は眠りにつきました。




