王子様とご対面
本文を少し修正しました
翌日にはすっかり風邪も治った私は、ウキウキと登校の準備をしております。
といっても、自分でするわけではなく、侍女のティレーズに全て任せているのですけど。
「ティレーズ、今日は少しだけ髪を編み込んでちょうだい」
「かしこまりました。珍しいですわね、お嬢様が自らオシャレに注文をつけられるなんて」
ティレーズの言う通り、普段はお人形のように、されるがままで、オシャレにも興味のなかった私。
人前に出て恥ずかしくない程度でいいか、くらいの気持ちでしたが、今日はそういうわけには参りません。
何しろ、ノア様の授業があるんですもの。
ノア様は、隠しキャラの攻略対象。
ノア様を攻略したいがためだけに、他の王子のルートを何度も繰り返したことはいい思い出です。
これまでも何度も顔を合わせているとはいえ、リアル王子達の記憶は薄く、今日初めて会うようなもの。
気合が入りますわ。
馬車に揺られて学園まで。
私の身の回りの世話をするために、ティレーズも一緒。
これは、この世界の貴族なら当たり前のこと。
「ティレーズ。お弁当はちゃんと作ってきてくれたかしら」
「はい、お嬢様。いつも通り、裏庭で召し上がれるよう、準備しておきますわ」
学園にも食堂はあるのですが、混み合っているので私はいつもお弁当。
令嬢たちの友達もいるにはいますけど、皆様、午後はそれぞれの自分のお気に入りの場所で食べて、3時のお茶会をご一緒するのが通例。
学園に着くと、緊張で少し足が震えました。
1学年1クラスなので、7人の王子のうち、3人は同じクラス。
第一王子のバロン様は去年卒業されましたし、今いるのはナード様とヨハン様とルカ様。
教室に入ると、王子達3人は1人の少女を取り囲むように談笑されています。
もちろん、主人公キャラ、リリアン様の席。
ゲームですと攻略キャラを一人選んで親密度を上げるのですけれど、この世界のリリアン様は特定の方は選んでいらっしゃらないみたい。
すっかり逆ハー状態になってますわね。
「あら。ご機嫌よう、ジュリア様。体調はいかがですの?」
「ご機嫌よう、リリアン様。お陰様ですっかり良くなりましたわ」
「よかったですわね」
リリアン様は主人公だけあって、とても性格がいい。
成績はよく知りませんし、ちょっとのっぺりしたお顔ですが、黒髪に黒い瞳は黒檀のようです。
王子様方はリリアン様以外とは話す気もないのか、特に何も仰る気配なし。
構いませんわ。だって、ここにいる王子様方は皆様「観賞用」ですもの。
私は机について勉強道具一式を取り出すと、こっそり王子様方を観賞しました。
はぁ。やっぱり皆様イケメンですわね。
内面ではバトルが繰り広げられているのかもしれませんけど、皆様、とてもスマートにリリアン様をエスコートされてます。
私が観賞している間に授業の時間になり、王子様方は皆様ご自身の席に戻られました。
赤髪のナード様は真剣にノートを取っていらっしゃる様子。
紺色の髪のヨハン様とルカ様は、うっとりリリアン様を見つめていらっしゃる。
これで、黄色の髪の方がいらっしゃれば信号機の完成ですのに。
黄色ではないけれど金髪のイザーク様は今頃騎士団で鍛錬していらっしゃるはず。
イザーク様は王宮を訪れた際に警護としてリリアン様と出会う設定だったはずだから、私は見られないかもしれませんね。
残念ですけれど、仕方ないですわ。
私が王子様方を鑑賞している間に午前の授業は終わり、私はモブキャラらしくひっそりと教室を出て、ティレーズの待つ裏庭に向かいました。
「お嬢様、お味は如何ですか?」
「相変わらず美味しいですわ。コック長に伝えてくださいな」
「かしこまりました」
「特にこのチキンのハーブ焼きが、サッパリしているのにコクがあって……」
「へぇ、そんなに美味しいの?私にも一口くれないかい?」
急に紛れ込んできた男性の声に振り返ると、そこには私の憧れのノア様が笑顔でこちらをのぞき込んでいらっしゃいました。
「ノ、ノア様!」
「こら。ノア先生と呼びなさい」
ノア様がやんわりと注意されていますが、私の頭の中はそれどころじゃありません。
まさか!
憧れの!
ノア様と!
お話できるなんて!
「ホントだ。そのチキンのハーブ焼きはたしかに美味しそうだ」
「はい。美味しい、ですわ」
「じゃ、あーん」
ノア様が口を開いてこちらを見つめます。
これは、もしかしなくても「食べさせて」ですわよね。
私は震える手でチキンをひと口大に切って、ノア様の口に入れました。
か!間接キス!
前世でも恋愛には奥手だった私。
この程度のことでも顔が急激に熱くなります。
「うん、うまい。冷めてもさっぱりしていて食べやすいね」
ノア様が口元についたソースを親指で拭って、ペロリと舐めるのを、私は気絶しそうになりながら見つめていました。
なんなんでしょう、このフェロモン。
大人の色気とでも言いましょうか。
「うまかったよ。ごちそうさん」
ノア様は私の頭をクシャリと軽く撫でて、行ってしまわれました。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ティレーズ、私……駄目かもしれないわ」
「ですが、午後はノア先生の授業がありますよ」
そうでした!
こんなドキドキした気持ちのまま、ノア様の授業を受けられるかしら。
案の定、ノア様を見た瞬間、お昼のやり取りが頭によみがえって、授業どころではありませんでした………
でも、私ももう16歳。
学園を卒業するまであと数ヶ月。
ノア様と一緒にいられるのも後数ヶ月なのです。
他の王子様とは夜会で会う機会もあるでしょうけど、ノア様はお忍びの身。
これまでも夜会で拝見したことはございません。
私も卒業したら、お父様がいくつもお見合い話を持ち込むでしょう。
家督は弟のマシューが継ぎますし、公爵家の娘としては当たり前のこと。
そのことはいいのですが……
もうじきノア様にお会い出来なくなるということが、私の気分を重くしました。




