ヒロインの襲撃
「……これは、どうしたものかな」
公務の際、一通の手紙を見ていたノア様が眉を顰めました。
「どうなさいましたの?」
「それが……リリアン嬢がトリス国へ遊びに来たい、と」
「え?でも、ロード様との結婚に向けて、花嫁修業をしているはずでは?」
「ロード王子との婚約も解消した、とある」
リリアン様、何がしたいのでしょうか。
「トリスへ遊びに来るのはいいが、王族でもないし王城へは泊められないだろう?
勝手に遊びに来てホテルに泊まればいいと思うんだが、この書き方だと王城へ泊めてほしいと言わんばかりなんだ」
リリアン様……やはりノア様のことを?
「あら。そんなもの、トリスで一番いいホテルでも紹介して差し上げれば充分ですよ。
どうも、リリアン嬢は噂によるとあちこちの王子の間を行ったり来たりして、私、あまり好きになれませんわ」
いつからいらっしゃったのか、王妃様がピシャリと言い切りました。
確かに、あちこちの王子様の間をフラフラしてますわね。
それにしても人のものだからよく見えるのか、今頃ノア様の魅力に気づいたのか、ノア様に迫るのはやめて頂きたいですわね。
ただでさえリリアン様はこのゲームのヒロインなのですから、どこでゲーム補正がかかるかわかったものじゃありません。
「ふむ。とりあえず母上の言うように、トリスで一番いいホテルを紹介して、自由に楽しむように、とでも返事をするか」
そこで私をちらっと見ると、ノア様は優しく微笑みました。
「大丈夫。リリアン嬢をこの城へ招く気はないよ」
この話は、一旦ここで終わったのですが……
1ヶ月後、何故かリリアン様が王城を訪ねていらっしゃいました。
とはいっても、招待状もお持ちではなく、お約束もないので、入り口で止められているご様子。
こっそりティレーズに様子を見に行かせると、
「ノア殿下にリリアンが来たと伝えてくだされば、中へ通して頂けるはずですわ」
とか、仰っているようです。
いえ、通していただけないと思います。
性格はいい方でしたのに、学園でチヤホヤされ過ぎて、何か誤解されているのでしょうか。
自分が望めば王子様方は喜んで言うことを聞いてくださる、とか。
残念ながら、ノア様にその気はございません。
マルコを通して、ノア様は公務で忙しいのでお会い出来ない、と伝えてもらったようですが、それなら中で待たせてくれとおっしゃっているようで、騎士たちもドン引きしております。
「私に考えがあります」
王妃様の堪忍袋の緒が切れたご様子。
王妃様の指示で、私とノア様はわざと入り口付近を散歩致します。
リリアン様に見えるように。
「あっ、ノア殿下!」
リリアン様の声に、初めて気づいたような顔をする私達。
「せっかく遊びに来ましたのに、門兵がノア様に取り次いでくれませんの」
「それはそうだろう。約束もないのに取り次ぐような無能な門兵はうちにはいないよ」
「そ、そうですわね。あの、宜しければお茶でも……」
「どこで?」
「え?どこでって……」
ノア様は呆れたような顔でリリアン様を見下ろしました。
「悪いが、ただの昔の教え子に過ぎない君を城に入れる気はないよ。それに、見てわかる通り、私はジュリアとの二人きりの貴重な時間を過ごしているんだ。邪魔しないでくれないか」
「リリアン様?ロード様とは婚約解消されたと伺いましたけど、何かありましたの?」
「何かというか……少し物足りなくて」
「まぁ!そんな理由で?」
「私はノア様みたいな方じゃないと、駄目なんですわ」
ドストレートな告白キター!
「そう言って頂けるのは光栄だが、私がどんな人間かわかるほど、君とは一緒にいなかったと思うのだが。それに、私は君みたいに相手の都合を考えないタイプは苦手なんだ。暗くなる前に宿へ戻るといい」
そう言って、私の腰に手を回して、その場を後にしました。
これだけハッキリ言えば、さすがのリリアン様でも諦めるでしょう。
チラリと視線だけ入り口に投げると、しょんぼりと帰っていくリリアン様の後ろ姿が見えました。
「それにしても、今日はひと騒動だったな」
晩餐の席で国王陛下がおっしゃいます。
「これで、あの令嬢も諦めるでしょう。婚約者のいる方にアプローチするなんて恥知らずですし、そんなに簡単に王城に入れると思われていたなんて心外ですわ」
王妃様、だいぶ怒っていらっしゃるご様子。
「母上の作戦がうまくいって良かったです」
本当に。
伊達に長年このゲームの世界で王妃として暮らしてきていませんわね。
お見事な手腕でしたわ。
「王妃様のおかげで助かりました。ありがとうございます」
私からも申し上げると、王妃様は意味有りげにウインクなさいました。
ヒロインによるゲーム補正を防ぎましたよ、と言うところでしょうか。
数日後にはリリアン様が帰られたと知らせを受け、私達にもようやく平穏が戻ってきたのでございます。




