トリス国へ
甘い夜のおかげであまり眠れませんでしたが、翌日にはトリス国へ無事入国いたしました。
入国してしまえば、王城までは1日で着くとか。
私は馬車の中でチラチラとノア様をチラ見。
昨晩のこと、ノア様はもう引きずっていらっしゃらない様子。
ドキドキしているのは、私だけのようです。
「そんなに見つめられると、さすがに照れるな」
ノア様の言葉に、私は真っ赤になりました。
チラ見していること、気が付かれていたようです。
ノア様は窓の外を見ていたはずなのに、なぜでしょうか。
「昨夜はあまり眠れなかったのかい?」
そう言って、私の下瞼をそっとなぞります。
それだけで身体に電気が走ったみたいになって、私はフルリと身体を震わせました。
眠れなかったのは、ノア様のせいですのに。
「ノア様は、慣れていらっしゃるのですか?」
思わず本音が口から出てしまいました。
ノア様は目を丸くして、それからクスッと笑いました。
「マルコ。私は女の子と過ごすことに慣れているかな」
「いえ。ノア様は恋もしたことがなかったくらいですし、慣れているとは思えませんね」
中々に毒舌なマルコの言葉に、今度は私が目を見開きました。
ノア様が、恋もしたことがない?
「そういう恥ずかしいことは言わなくていいんだよ」
「失礼いたしました」
ノア様の言葉にも全然堪えている様子はありません。
マルコ。一筋縄ではいかない方ですね。
「私の初めては、全部ジュリアのものだよ」
な、なんだか、今すごいことを言われた気がします。
真っ赤になっていると、ノア様が心配そうに私を見つめました。
「この歳で何もかも初めてなんて、ひいちゃったかな」
「いえっ!そんなことは……手慣れてる方よりずっといいです」
私の初めてがノア様なら、ノア様の初めても私。
こんなに素敵なノア様が全部初めてなんて信じられませんが、嬉しくて頬が緩みます。
「ちょっとぎこちないところがあっても多めに見てもらえると嬉しいな」
昨日のキスを思い出します。
ノア様、全然ぎこちなくなかったです。
でもそんなこと言えませんし。
「ノア様、冬の離宮が見えて参りました」
空気を変えるように、マルコが言います。
この旅の最後の宿は、王族所有の「冬の離宮」。
「もう着くのか。早かったな。
ジュリア、冬の離宮についたら、少し二人でのんびりしよう」
「はい。ノア様」
冬の離宮につくと、私はノア様に離宮を案内されました。
「今は時期が違うから見えないけど、ここにも冬にはきれいな花が咲くんだよ」
「いつか、見てみたいですわ」
私がまだ固い蕾に触れると、蕾がフワッと広がり、一輪の花を芽吹かせました。
「これは……ジュリアは自然に好かれているとは思っていたけれど、もしかしたら精霊の祝福を受けているのかもしれないな」
「精霊?」
「ああ。私も見たことはないし、実際に存在するのかもわからない曖昧なものなのだけど、こんな現象は初めて見たからね」
なんと!
ただのモブキャラの私が精霊の祝福を受けているかもしれないなんて!
「魔法を使えるより、ずっと凄いことなんだよ」
「そうなんですね」
実感はわきませんし、本当に祝福を受けているのかも分からないですけれど、ノア様が嬉しそうだから、この際なんでもいいですわ。
「でもまだ眠っている花を起こすのも可哀想ですし、あまり触れないように致しますわ」
「ジュリアは優しいな」
そんな私達のもとへ、鳥たちが寄ってきます。
「ごめんなさい。餌になるものをもっていないの」
鳥たちに語りかけると、チイチイ鳴いて、パタパタと私達の周りを飛び回りました。
「まるで私達を祝福してくれているみたいだね。学園の裏庭で、君が鳥たちに囲まれているのを、いつも羨ましく見てたんだ」
「そうだったんですの?そう言えば、ノア様がいらっしゃる時はあまり鳥たちも来ませんでしたね」
「避けられているのかと思っていたけど」
「きっと、遠慮してくれていたのですわ」
指に止まった1羽に顔を近づけると、コツンと唇に嘴が当たりました。
「私のジュリアにキスをするなんて」
ノア様は苦笑していらっしゃいます。
やがて鳥たちも離れていき、庭園でノア様と二人きりになりました。
「ジュリア、もっとこっちへ」
ノア様に抱き寄せられて顔を上げると、チュッとリップ音を鳴らしてキスをされました。
「鳥たちに負けていられないからね」
「そんなことで勝負されなくても、私にはノア様だけですのに」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
ノア様は何度か唇を重ねるだけのキスをして、私をギュッと抱き締められました。
「今から、1年が待ちきれないよ。早く嫁いできてほしい」
「私も、早くノア様の妻になりたいですわ」
「ジュリアは可愛いことを言うね」
ノア様は本当に甘々です。
モブキャラに転生したと分かったときは、こんな日が来るなんて思ってもいませんでしたわ。
それに、大人の魅力満載のノア様がこんなに甘いってことも、ゲームをしている間も知らなかったことです。
なんだか急に心配になってまいりました。
どこかでゲーム補正がかかるような気が……
でも「セブプリ」に悪役令嬢は登場しませんし。
私の杞憂だといいのですけれど。




