流星群の夜
トリスへの旅は非常に順調です。
途中のカルーア国では、ノア様に銀細工の髪留めを買って頂きました。
国に戻っておられたヨハン王子とルカ王子からは王城に泊まるよう勧められたそうですが、堅苦しいのが苦手なノア様がお断りされたそうです。
私としても、王族でもないのに王城へ泊めて頂くのは心苦しいのでちょうど良かったです。
なので、カルーアでの宿泊先は、貴族などが宿泊する少し高級なホテル。
もちろんノア様とは別の部屋ですよ。
まだ結婚前ですからね。
これで同じ部屋なんてことになっていたら、私、たぶん気絶いたしますわ。
カルーアに泊まる最後の日、夜半にドアがノックされました。
私はもう寝るだけの態勢でしたので、ティレーズも首を傾げながら、返事を致しました。
「夜分に申し訳ない。少しジュリアを貸してほしいんだが」
ノア様の声。
慌てて夜着にガウンを羽織って、ティレーズにドアを開けてもらうと、ノア様がにこやかに立っていらっしゃいました。
マルコは一緒ではないようです。
「ほんの少しだけだから、いい?」
ノア様がティレーズに聞き、ティレーズも特には反対しませんでしたので、私はノア様と部屋を出ました。
「あの、どこへ向かわれますの?」
「夜空がきれいに見えるところ」
そう仰って、ラウンジからベランダに出ます。
この時間には流石に他の宿泊客の姿もありません。
ベランダに設置されたソファに二人で腰掛けると、ノア様がご自身のガウンを私に貸してくださいました。
「ノア様が風邪を引いてしまいます!」
「私は慣れているから平気。それより女の子は身体を冷やしちゃいけないからね。それでも心配してくれるなら、少し私に寄り添ってもらってもいいかな」
とても、とても恥ずかしいですけど、ノア様が風邪をひいたら大変なので、ノア様にピッタリと寄り添いました。
「そろそろ始まるな。空を見て?」
言われて空を見ると、流れ星が次々と流れていきます。
「わぁっ」
「今日は年に一度の流星群の見られる日なんだ」
「綺麗ですわね」
「よかった。ジュリアなら喜んでくれると思ったんだ」
パチンっと指を弾いて温かい紅茶を出すと、私に差し出されました。
「お菓子がないのが残念だけど」
「魔法は便利ですわね」
指パッチン1つで紅茶を出せるなんて。
私、指パッチンできないのですが、魔法を使えるのでしょうか。
トリスへ行ってからのお楽しみですわね。
それにしても、流星群、綺麗ですわ。
そう言えばイベントスチルで、ヨハン王子かルカ王子ルートでは、流星群を見るスチルがありましたわね。
ノア様とこうして見られるなんて、夢みたいです。
「ジュリア」
耳元で囁かれてそっとノア様を見上げると、すぐそばにノア様の顔がありました。
そっと目を閉じると、優しいキスをされました。
いつもなら、ここで終わりですけれど、一旦唇を離したノア様はもう一度口付けて、ペロリと私の唇を舐められました。
びっくりしてちょっとだけ開いた唇の間に、ノア様の舌が入り込んできます。
これは!
キスの中でも濃厚なキス!
前世でも恋からは遠ざかっていた私には、はじめての経験です。
身体がゾワゾワして……
「んっ……」
へっ、変な声が出てしまいました。
肩を抱かれて、キスに酔っているうちに、唇が離れていきます。
「ごめん。我慢できなかった」
私はと言えば、言葉を発することもできず、ただ首をフルフルと横に振るだけです。
ノア様の瞳に宿る熱が移ったみたいで、熱い顔のままノア様を見つめます。
「そんなかわいい顔をしないで?これでも必死に自制しているんだから」
頬に手を添えられて、またノア様の口づけを受け入れます。
クラクラしてきたところで、ノア様の顔が離れました。
「明日にはトリスに入る。早く、君を家族に紹介したいな。1年間の王太子妃教育の間、君に手を出さないよう我慢できるか自信がないよ」
ちょっと困った顔で仰られても、私としてもちょうどいい距離を保てるか自信がございません。
気がつけば、流星群は終わっていました。
「さ、身体が冷える前に返ろうか」
瞼と頬にキスをして、ノア様は私を抱き上げました。
お姫様抱っこです!
抱っこされたまま、部屋まで連れ帰って頂くと、私は慌ててノア様のガウンを返しました。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
パタン、とドアが閉じるなり、私はその場にへたり込みました。
「お嬢様。あとは寝るだけなのですから、余韻に浸るならベッドにしてください」
相変わらず冷静なティレーズに言われ、私はヨロヨロとベッドに潜り込みました。
今夜は眠れるかどうか、自信がございません。




