弟の初恋
ノエル視点です
クロちゃんがお母様の秘密のお茶会に来たその日の晩。
私はクロちゃんのことで落ち込んでいましたが、なぜか我が家の天使アルはご機嫌です。
何かあったのでしょうか。
「アル、どうかしたの?」
デザートをじぃっと見つめているアルに声をかけると、アルはニッコリ笑いました。
「コック長の作るデザートも美味しいけど、クロエ嬢の作ったデザートも美味しかったなって」
そう言えば、クロちゃんがお菓子作りに来た日は、その晩のデザートはお母様とクロちゃんのデザートが出されていましたね。
「お父様」
「なんだい?アル」
「私も婚約がしたいです」
その場の全員が固まりました。
「先日のお見合いパーティーで、気に入った令嬢でもいたのかい?」
「いえ。私が婚約したいのはお姉様のご友人のクロエ・オブライエン子爵令嬢です」
「えっ!」
お母様とお祖母様、それに私が驚きで声を上げました。
「アル。あなた、見る目があるわ。クロちゃんはとても素敵な令嬢よ」
「そうだな。確かにノエルの言う通り見る目がある。クロエ嬢はマナーもしっかりしているし、学業も頑張っているみたいだし、何より自分に嫌がらせをしていた令嬢を許して友人になるくらいだ。とてもいい子だと思うよ」
珍しくお兄様が女性を褒めています!
お兄様はエリザベス様を除いて、女性に対する目がとても厳しく、滅多にご令嬢を褒めることなどありませんのに。
でも、私もお兄様に同感です。
「クロエちゃん、ねぇ……」
複雑な顔をするお母様。
お母様もクロちゃんのことを気に入っているはずですが、失恋したばかりなので複雑な気持ちなのでしょう。
「子爵家の令嬢では、私の婚約者には相応しくありませんか?」
しょぼん、とアルが項垂れます。
とっても可愛いです。
しょんぼりしていても天使です!
アルは生まれたときから身体が大きく、今はお兄様に追いつこうという勢いで身長が伸びていますが、身体が大きいだけで中身はとてもいい子。
我が家の天使には変わりないのです。
「いや、子爵令嬢でも本人が努力すればアルのお嫁さんには出来るよ。花嫁教育には時間がかかるかもしれないけど」
「そうね。クロエちゃんなら問題ないと思うけど……クロエちゃんは今それどころじゃないかもしれないわね」
ええ。何しろ失恋したばかりなのですから。
それに、いくらアルが天使だとは言っても、クロちゃんの好みに合うかも分かりません。
「事情はある程度知っていますが、私は諦めるつもりはありませんよ」
アル……
ついこの間まで私達に甘えていたのに、いつの間にこんな、初恋をするまでに成長したのでしょう。
でも、クロちゃんとアルが結婚すれば、私とクロちゃんは義理とはいえ姉妹になります。
それって、とても素敵ですわ。
「そうねぇ。一応、クロエちゃんの気持ちも聞いてみましょうね。婚約も結婚も、強引に進めるのはあまりよくないですからね」
「はい。是非聞いてみてください。
でも私は、どんな答えが返ってきても、クロエ嬢を諦めるつもりはありませんけど」
「そんなところだけ、ノア様に似て……」
お母様がため息をつきました。
晩餐後、お母様の部屋を訪れると、お母様はニコニコしてらっしゃいました。
「クロエちゃんも、アルとの婚約には前向きみたいよ?」
いつの間にクロちゃんに聞いたのでしょうか。
でも、アルがクロちゃんの失恋の傷を癒やしてくれるのなら、それはとてもいいと思います。
「とりあえず、2ヶ月後のアルの誕生日パーティーまでに二人の気持ちが変わらなければ、その場で婚約発表をすることにしたわ」
2ヶ月後。
結構先ですね。
私としては、婚約発表より前に、アルが直接クロちゃんにプロポーズする姿をみたいのですが。
お母様にそう言うと、少し考えてからふんわり微笑みました。
「それもそうね。私もパーティーでノア様に突然プロポーズされて、とても嬉しかったし。
1ヶ月後にパーティーでも開きましょう。
そこで同じ色のリボンとタイを付けて、2度ダンスをするといいわね。私とお父様の時みたいに」
同じ色のリボンとタイを付けるのは、恋人同士の証。
2度続けてダンスを男性から申し込むのはプロポーズの証。
おとぎ話みたいでとても素敵です。
お母様は机に向かってサラサラと手紙を書くと、紙鷹でどこかへ飛ばしました。
「せっかくだから、誕生日パーティーの時のドレスやアクセサリーをプレゼントするつもりでいたのだけど、その前にパーティーを開くなら、それ用のドレスも必要でしょう?
アルとお揃いのリボンにするように、ワインレッドの色のリボンをあしらったドレスを作ってクロエちゃんに届けるように、手紙を出したのよ」
「アルにはワインレッドがよく似合いますものね」
「お母様はちょっとこの後、お祖母様とマリアンヌ様とお話があるのだけど、ノエルの用事は何だったの?」
「私がクロちゃんに出来ることが何かないかと思って」
「そうね……あなたはアルの良さを目一杯クロエちゃんにアピールして。
うまく行けば、みんなが幸せになれるわ」
お母様は確信を持っているようです。
縁結びの女神様には何か未来が見えているのかもしれません。
お母様がお祖母様の部屋へ向かった後、私は早速クロちゃんに手紙を書きました。
アルがどんなに優しくて、可愛らしくて、それでいて頼りになるか。
アルの可愛さについては、書き始めたらキリがなさそうだったので、可愛さについては便箋1枚程度に収めました。
クロちゃんも、みんなの前でアルの良さを聞くよりは、こっそり聞いた方がいいと思ったのです。
それに、他の令嬢がアルに興味を持っても困りますし。
便箋5枚を書き上げると、私は紙鷹でクロちゃんに飛ばしました。
きっと、明日の朝、登校前には読んで頂ける筈です。
それにしてもアル。
まさか年上の女性が好みだったなんて。
いえ、クロちゃんだから好みだったのかもしれません。
弟の初恋は、少し弟が離れていったようで寂しいですが、相手がクロちゃんなので構いません。
むしろ私の使えるものすべてを使って応援いたしますわ。
どこかの脳みそまで筋肉みたいな騎士を目指している人みたいに、他の女性にフラフラしないといいのですけれど。
まぁ、我が家はみんな好きになったら一途な家系のようなので、大丈夫でしょう。
私はクロちゃんの失恋で落ち込んでいた気分も軽くなって、その夜はぐっすり眠ることができました。
さすが、我が家の天使アルですね。
明日クロちゃんに会うのがとても楽しみです。




