全力でお断りします!
3時のお茶会の時間、私はお茶会をご遠慮して、バトン様の教室へ向かいました。
婚約者とはいえ、先輩方のいる教室へ行くのは緊張します。
ちなみに、バトン様とお兄様は同じクラスです。
私が教室の入り口に立っていた男性に声をおかけすると、とても驚いたように固まってしまいました。
「天使の姫君……」
何か聞こえた気がしますが、聞こえなかったことにしましょう。
とりあえず、バトン様を呼んで頂きます。
バトン様は嬉しそうにしながらも驚いた様子で私の元へやってきました。
手を繋いで、廊下の端までいきます。
「ノエルが来るなんて珍しいね。どうしたの?」
「実は……バース様から、私に話があるから出来れば二人で話したいと言われまして……
一応、バトン様のお許しがでたら、とお答えしたのですが」
「僕が婚約者だと知っているの?」
「はい。お話しましたから」
「うーん。どういう経緯でその話になったのか聞いてもいい?」
私は、新しい友人とともにいつものようにバース様に差し入れをする友人を離れたところから見守っていたのですが、声をかけられてみんな一緒に差し入れを食べることになり、帰りがけに、二人で話す機会が欲しいと言われたことをそのままお話しました。
「ご友人の前で言ったのか……
もしかしたら、王家に関わる話なのかもしれないし、なんとも言えないね。
この国にはカルーア国のヨハン王子もいらっしゃるし。
とりあえず、話だけ聞いてみようか。
王族に関する話なら僕は一緒にいられないけど、何かあったらすぐに逃げるんだよ?」
逃げなきゃいけないようなことなどあるのでしょうか。
私、あまり足が速くないので心配です。
「分かりましたわ。では、バース様にお返事を致します」
「終わったら、どんな話だったのか、言える範囲でいいから教えてね」
「はい」
私はそのまま、鍛錬場へ向かいました。
お昼休みにバース様が鍛錬をしていることは存じ上げていますが、今はいるでしょうか……
そっと鍛錬場を覗き込むと、真剣に鍛錬をしているバース様がいました。
「あの、バース様」
声をおかけすると、ビクッと動きが止まって、驚いたようなバース様がこちらへいらっしゃいました。
「どうしたの?もう、婚約者の返事がもらえたのかい?」
「はい。それで、どのようなご用件ですか?」
バース様は、ちょっと困ったような顔をして躊躇されていましたが、やがて口を開きました。
「その、こんなに早く話ができると思ってなかったから、何から話せばいいのかわからないんだけど……
私が騎士になったら、私を君の専属騎士に任命してもらえないかな」
騎士についてのお話のようです。
でも。
「騎士団の配属については、私には発言権がありませんし、私の一存ではお答え致しかねます」
「あー、いや。言い方が悪かった。
私は、君がまだ小さかった時にパーティーで見かけて、それ以来ずっと君のことが好きだったんだ。入学式で新入生代表挨拶をする君を見て、また好きになって、クロエ嬢と差し入れに来てくれるようになってから、どんどん好きになっていったんだ」
「ですが、私には婚約者がいますし、その方以外とお付き合いする気はありませんわ」
「政略結婚じゃなく、本当に好きなんだね。でも、それでもいいから、ノエル嬢、君のそばにいたいんだ」
困りました。
これは、バトン様の言っていた「逃げる」時なのでしょうか。
ですが、お返事もせずに逃げるのも失礼に当たりますし。
「あまり、私の妹をこまらせないでくれますか?」
「お兄様!」
なぜお兄様がここにいるのでしょうか。
シエルちゃんたちとお友達になったあの時もお兄様がいました。
お兄様は神出鬼没です。
「エドワード殿下。お久しぶりでございます」
「私の婚約発表パーティー以来ですね。
それより、聞こえてきた話だと、あなたはノエルのことが好きだということで間違いはないですか?」
「はい。私はノエル嬢を愛しています」
「たとえ報われなくてもそばにいたいと思うほどに?」
「はい」
お兄様はコテンと首を傾げました。
フェロモン出てます。
「好きな女性が、他の男性と結婚して仲良く過ごすのを見ているのも、やがて子供ができて幸せな家庭を築くのを見ているのも、きっとかなり辛いと思いますよ。
それに、ノエルが言ったように、騎士団の配属先は騎士団長が決めます。たとえノエルが自分の護衛騎士に、と望んでも聞き届けられる可能性は低いでしょう。
ノエルは学園卒業後すぐに降嫁するから、護衛騎士をつける必要性もないと判断されるでしょうし」
「やはり、無理ですか……
ノエル嬢、ほんの少しでもいい。私を好きになっては頂けませんか?」
「申し訳ありません。私がこの世で一番好きな男性は、婚約者のバトン様で、二番目がお兄様、三番目がお父様なんです。
弟のアルも大好きです。
今申し上げた方以外の男性には、興味ございませんわ」
クロちゃん、ごめんなさい。
私たちが差し入れに付いていったばっかりに、こんな結果になってしまって。
クロちゃんになんて謝ればいいんでしょう。
「ちなみに、クロエ嬢の気持ちには気がついていましたか?」
「……はい」
「気がついていて、それでも差し入れを受け取っていたのは、ノエルに会えるからですか?」
「はい……」
なんていうことでしょう。
本当に、クロちゃんにあわせる顔がありません。
「申し訳ありません、バース様。お気持ちはわかりましたが、お断りさせていただきます」
全力でお断りしますとも。
たとえバトン様がいなかったとしても、私は大切な親友の想い人を奪うようなことはしたくありません。
「わかった。ハッキリ断ってくれてありがとう。
ノエル嬢の幸せを、これからも祈っているよ。クロエ嬢には申し訳ないけど、今後は差し入れはいらないと、私から伝えておくよ。時間を取らせてしまって悪かったね。もう会えることは殆どない思うけど、幸せに」
「バース様も、早く素敵な方が見つかるといいですわね」
「そうだね」
バース様は苦笑いして、鍛錬場の中へ戻っていきました。
「お兄様、私、クロちゃんに何て伝えればいいのでしょう」
「うーん。きっとあの子なら、ノエルの様子で気が付くだろうから、特に何も言わなくていいよ」
「分かりましたわ」
それからお兄様に送ってもらって、教室へ戻りました。
ちょうどお茶会も終わったところのようで、教室の入り口でクロちゃんたちにバッタリ出会いました。
「ノエル様?何か元気がないような……」
うっ。
ティアちゃん鋭いです。
「お茶会でお菓子を食べられなかったからでしょうか」
うん。
安定のルディちゃん、違うからね?
でも、そうやって誤魔化したほうがいいのでしょうか。
クロちゃんは困った顔をして、私の手をギュッと握ってくれました。
お兄様の言う通り、クロちゃんは気づいたみたいです。
その後からはあまり授業に身が入らず、帰り道はバトン様に送っていただきました。
「ノエル。バース様との話の内容を聞いても?」
「幼い頃から私を好きだった、と」
「うん、それで?」
「婚約者がいてもいいから、専属の護衛騎士にしてほしいと言われましたわ。もちろん、お断りしましたけれど」
「納得してくれたかい?」
「お兄様が加勢してくれましたから」
「そうか。それなら、もう会うことも無いだろうし、あまり気にしちゃいけないよ」
「でも、クロちゃんには悪いことをしてしまいましたわ」
「大丈夫。クロエ嬢もわかってくれるよ。ノエルは何も悪くないよ。それとも、クロエ嬢から何か言われた?」
「いいえ。クロちゃんは、きっと気づいていたのに、私の手を握ってくれました」
「ほらね?クロエ嬢もノエルは悪くないってちゃんと分かってくれているんだよ」
涙目の私の額にキスを落とすと、バトン様は優しく微笑みました。
王城に帰ると、公務のはずのお母様が私を出迎えて、フワフワの体にそっと抱きしめてくれました。
お兄様もお母様も、どうして私のことをこんなに知っているのでしょう。
不思議です。
でも、お母様に抱きついて少し泣くと、私も落ち着きした。
きっと泣きたいのは、私よりクロちゃんの筈です。
次にあった時、もしクロちゃんが泣きそうだったら、お母様みたいに抱きしめてあげようと心に決めました。
既にノエルのストーカーと化しているエドワードはノエルについてほぼ把握してるという……




