他人を馬鹿にする人は嫌いです
ノエル視点続きます
クロちゃんが先輩にお菓子を渡した結果と、チョコレートケーキ作りを教えてほしいという内容の手紙は、できるだけ早く届いたほうがいいだろうと、私が紙鷹で飛ばしました。
お母様みたいに小鳥の姿にはならず、ふつうに紙で飛んでいきます。
魔法についても入学前にお母様に散々教えこまれています。
なのである程度の上級魔法までは使えるのですが……
紙鷹を小鳥の姿で飛ばしたり、新しい魔法を開発したり、お母様は何かにつけて規格外です。
私もお母様みたいに素敵な魔法を軽々と使えるようになりたいです。
勉強あるのみですね!
3時のお茶会の時間になると、お母様から返事が届きました。
開封せずにクロちゃんに渡します。
クロちゃんは読みながら赤くなったりしてとても可愛いです。
「ノエル様。今日、帰りに王城までご一緒してもいいですか?
早速今日、王妃様からチョコレートケーキの作り方を教えてくださるそうなので」
「もちろん構いませんわ!クロちゃんと一緒に帰れるなんて嬉しいですわ」
クロちゃんが作ってくれたマカロンをもぐもぐ食べながら、お返事します。
とても美味しいのですが、あまり食べすぎると太ってしまうので、適当なところでやめておかないと。
ああ、でも手が止まりません。
「ノエル様。そろそろ止めたほうが……」
「むぐ。……そうですわね」
ティアちゃんから言われて、私はようやく手を止めました。
いけません、夢中になってしまいましたわ。
放課後、クロちゃんと一緒に帰ると、お母様は既にエプロンを着てスタンバイしていました。
公務の方は大丈夫なのでしょうか。
毎日お忙しくしてらっしゃるのに。
「ノエル。あなたも一緒に作る?
晩餐のデザートに出したら、きっとみんな喜ぶわよ」
「はい!私も作ります」
「じゃあ、着替えてらっしゃい。それにエプロンもしなくては」
お母様に言われて、私は早速気軽な格好に着替えて、マリアンヌおばさまのものだというエプロンを着けました。
「クロエちゃんはせっかくだから、フォンダンショコラにしましょうか」
フォンダンショコラというのがどういうものかわかりませんが、クロちゃんは知っているようで、自分で作れるか不安そうです。
クロちゃんがフォンダンショコラを作っている間に、私には生チョコというものを教えてくださいました。
お母様からお料理を教えていただくのは初めてですが、とても丁寧にわかりやすく教えてくださいます。
「クロエちゃん、いい?このフォンダンショコラを渡したら、数日の間は鍛錬場へ行くのは我慢するのよ?」
お母様が手を動かしながら言います。
なぜでしょうか。
せっかく親しくなれましたのに。
「少しは不安にさせたほうがいいの。2日続けて差し入れをするのに、その翌日から来ないとなれば、何かあったのか、何かしてしまったのかと心配になるでしょう?
そうやって、少しは相手に自分のことを考えさせることも大切なのですよ」
お母様、さすがです。
縁結びお茶会を開くだけあって、駆け引きにもお詳しいです。
クロちゃんは真剣な顔で頷いています。
フォンダンショコラと私の生チョコは大成功でした。
特にフォンダンショコラは、見た目はチョコレートケーキなのに中からトロリとチョコが溢れてきてすごいです。
でも私の生チョコも口の中でとろけます。
今夜のデザートでみんなが喜んでくれるところを想像すると嬉しくなります。
クロちゃんはまたお母様特製の保冷バッグにフォンダンショコラを入れて帰っていきました。
……………………………………………………………………
翌日、保冷バッグをロッカーにしまったクロちゃんの元へ、以前嫌味を言ってきた令嬢方が近寄っていくのが見えました。
私も気づかれないようにそっと近づきます。
「クロエ様。あなた昨日もそれを持ってきて、3時のお茶会でノエル様達にお出ししていたでしょう?
仮にも貴族の令嬢がお菓子作りなんて、はしたないと思わなくて?」
「私は、皆さんが喜んでくだされば、別にはしたないと思われても平気ですわ」
「まぁ!やはり子爵家の令嬢は品がございませんわね。ノエル様達だってきっと仕方なく食べられているのでしょうに、それに気が付かないなんて」
黙って聞いていましたが、我慢の限界です。
他人を、しかも私の友達を悪く言う人は嫌いです。
「あら、これは私のお母様と作ったものですのよ。私のお母様はよくお菓子を作ってくださいますけれど、あなた方の言葉を借りると、はしたない王妃ということになりますわね」
「ノエル様……!」
「出来れば皆さんと仲良くしたいと思っていましたけれど、私の友人を悪く言うあなた方とは、仲良くできそうにありませんわね。
ええっと、アルディ伯爵令嬢のシエル様とローランサン伯爵令嬢のマリー様、でしたわよね?
お母様にはできるだけみんなと仲良く、と言われていますけれど、事情を話して許してもらいますわ」
「そんなっ、王妃様には言わないでください!」
「なぜですの?」
「私たちが父に怒られます」
「怒られるような真似をしたのだから、仕方ないのではなくて?」
「ノエル様!」
私は令嬢方の言葉を無視して、クロちゃんの手を引いて席につきました。
「クロちゃん?あなたは堂々としていればいいですわ。何も間違ったことはしていないし、身分で差別するような人の言葉なんて、気にしてはいけませんわ」
「ありがとうございます、ノエル様」
クロちゃんは少し涙目になって言いました。
でもこのことが引き金になって、後々面倒なことになるなんて、この時は思ってもいなかったのです。
クロちゃんは、今日もお昼休みに鍛錬場へ行きます。
もちろん私達も昨日と同じ場所で様子をうかがいます。
鍛錬場から出てくるバース先輩。
昨日と同じようにベンチに腰掛けて、フォンダンショコラを食べます
中からチョコレートが溢れてくるのに驚いているようです。
「これも、王妃様から?」
「はい。昨日教えていただきました」
「私の予想を遥かに上回るケーキだよ。本当に美味しい。ありがとう」
うふふ。
いい雰囲気です。
これなら、クロちゃんがバース先輩と婚約なさるのも時間の問題かもしれません。
フォンダンショコラを食べ終わって先輩が鍛錬場へ戻ると、私たちの所へクロちゃんが走ってきました。
「いい雰囲気でしたわよ」
「そ、そうでしょうか」
「お母様の作戦通りにやってみましょう」
「あら、王妃様の作戦って?」
私は昨日聞いたばかりの駆け引きについて、ティアちゃんとルディちゃんに説明しました。
「王妃様、さすがですわ!」
「縁結びの女神と言われているだけありますわね」
なんでしょう、縁結びの女神って。
お母様、ついに人ではなくなってしまったようです。
とりあえず、私たちはハイタッチをして教室に戻りました。
全く気が付かなかったのです。
今日も鍛錬場から、先輩が私達を見ていたなんて。




