全力で応援します!
ノエル視点です。
クロちゃんがお母様に呼ばれた翌日。
クロちゃんはお母様特製の保冷バッグを持って登校してきました。
きっと、あの中にバース様への差し入れが入っているのでしょう。
クロちゃんは、モジモジしながら私達のところへ来ると、恥ずかしそうに口を開きました。
「あ、あの……今日、バース様に差し入れを持って行きたいのですわ。それで、出来れば皆さんにもついてきてほしくて……」
「あら、駄目ですわ。私たちがいたらお邪魔じゃない」
私はちょっと渡すときの様子を見てみたかったのですが、ティアちゃんの言う通りです。
「お願いしますわ。一人で行くなんて勇気が出ないのです。代わりに、3時のティータイムには皆さんにも昨日作ったマカロンをお出ししますから」
ルディちゃんの目がキランと光りました。
「それなら、鍛錬場まではご一緒しますわ。
その代わり、渡す時には私たちは離れていますから、ちゃんとクロちゃん一人でお渡しするのよ?」
「うぅ……一人で………分かりました、頑張ります」
どうやらクロちゃんは覚悟を決めたようです。
ルディちゃんは、お菓子に釣られたようです。
でもこれで、少し離れたところで様子を見られるので満足です。
ティアちゃんの言う通り、私たちがそばにいたらあまり意味がありませんものね。
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お昼時間、私たちはまたもや早く食事を切り上げて、鍛錬場へ向かいました。
本来なら、淑女らしくゆっくり食事をしなければいけないのですが、お友達の恋のためです。
この際、そんなことは気にしていられません。
これまで鍛錬場にいるのはバース様だけでしたが、今日に限って他の方もいたら嫌だな、と思いつつ鍛錬場に着きましたが、どうやらお昼に稽古をしているのはバース様だけのようで、今日も鍛錬場にはバース様しかいらっしゃいませんでした。
一安心です。
クロちゃんが鍛錬場の窓際に行くのと同時に、私たちは少し離れた目立たない場所に移動します。
「あのっ、バース様」
おお、クロちゃんが声をかけましたわ。
「君は、昨日の……」
「鍛練のお邪魔をして申し訳ございません。
どうしてもバース様にお礼をしたくて、今日はお菓子を持ってまいりましたの。
甘さは控えめにしてありますが、食べていただけますか?」
「わざわざお菓子を?別に良かったのに」
バース様、女心に疎いですわね。
お兄様ならすぐに気が付きますのに。
「あの、手作りですのであまり気になさらないでください。
あっ、もし手作りということを警戒してらっしゃるなら、私も同じものを食べますので」
必死なクロちゃんに、バース様は優しく微笑みました。
「そこまで言うなら、頂こうかな。
君の分もあるなら、一緒に食べよう」
「ひゃい!」
あ、クロちゃんが噛みました。
それだけ緊張してるのと、嬉しいのと両方なのでしょう。
真っ赤なクロちゃん、可愛いです。
バース様とクロちゃんは、鍛錬場の外にあるベンチに腰掛けました。
クロちゃんが、保冷バッグからお菓子を出します。
あれは、プリンでしょうか。
茶色いので、チョコレート味かもしれません。
「バース様は甘いものは苦手ですか?」
「いや。こう見えて結構好きなんだ。騎士を目指している私が甘い物好きなんて、恥ずかしくて誰にも言えないけど」
「騎士の方でもきっと甘いものがお好きな方はいらっしゃいますわ。
でも、今日はとりあえず秘密にしておきますわね」
「ありがとう。……これは、甘いのにスパイスが効いていて美味しいね」
「スパイシーチョコプリンと言いますの。
実は私、恥ずかしながらお菓子や料理を作ったことがなくて、王妃様に教えていただいたんです」
「ああ、ご友人のノエル嬢は王女様だから、その繋がりか。王妃様のお菓子はとても美味しいと有名だし、いい方に教われて良かったね。
殆どの令嬢は、お菓子や料理なんて作れないだろう?
それなのに、私の為に練習してくれたなんて、嬉しいな」
バース様が、優しく優しく微笑んでいます。
これはいいムードなのではないでしょうか。
プリンを食べ終わると、クロちゃんはマカロンを取り出しました。
「甘いものがお好きなら、こちらも如何ですか?」
「マカロン!ありがとう、頂くよ」
「あの、バース様はなぜ騎士を目指してらっしゃるのですか?」
「私は貴族ならではの職務や社交は苦手だし、国を守る仕事につきたかったから、かな。
昔、まだ幼い頃に護衛騎士に守ってもらったことがあって、とてもカッコイイと思ったんだ」
「カルーアに戻って騎士になりますの?それともこの国で?」
「カルーアは、私にはあまり住み心地が良くなくてね。この国にはヨハン殿下もいるし、この国で騎士になりたいと思っているよ」
「応援いたしますわ。でも、バース様が騎士になったら、今みたいにはお会い出来なくなりますのね」
「そうだね。でも、まだ何年も先の話だよ」
少しションボリしたクロちゃんの頭を、バース様がポンポンと撫でます。
「美味しかった。今日はありがとう」
「いえ、こちらこそ。あの、もしご迷惑でなければ、また差し入れを持ってきてもよろしいでしょうか」
「また食べさせてくれるのかい?嬉しいな」
「バース様は、お菓子では何がお好きですか?次はバース様のお好きなお菓子を作って参りますわ」
「んー、そうだな。………笑わない?」
「笑いませんわ!」
バース様、少し恥ずかしそうです。
「チョコレートケーキが好きだな。基本的に、チョコレートが好きなんだ」
「わかりました!では、また王妃様に教えていただいて作って参りますわ」
「ん。楽しみにしてる」
ああ、バース様からフェロモンが出ています。
お兄様程ではないですが、あの笑顔で頭をポンポンされたら卒倒する令嬢も多いのではないでしょうか。
現に、クロちゃんは今にも爆発しそうです。
「そっ、それでは私は教室に戻りますわ。鍛練のお邪魔をしてしまって申し訳ありませんでした」
「いや。こんな邪魔なら大歓迎だよ」
バース様、今日はそこまでにしてあげて下さい!
クロちゃんが卒倒しそうになってます!
「じゃ、教室まで気をつけて戻るんだよ」
「はい。ありがとうございます」
バース様は鍛錬に戻り、クロちゃんはフラフラと覚束ない足取りで私達のところへ来ました。
「親しくなれて良かったですわね!」
「私、バース様はもっとお固い方かと思っていましたわ」
「クロちゃん限定で優しいのではないかしら」
「もっ、もうからかうのは止めてください……」
3人でクロちゃんを囲んでからかって遊びます。
「チョコレートケーキの件は、私からもお母様にお伝えしておきますわ。
また二人きりで甘いものを召し上がるのね。うふふ」
「今日の結果を王妃様にお知らせすることになっているので、私からもしっかりチョコレートケーキの作り方を教えていただけるようお願い致しますわ」
まだ真っ赤な顔のクロちゃん。
とても可愛いです。持って帰りたいくらいです。
安心して、クロちゃん。
私たち3人、全力でクロちゃんを応援しますからね!
私たちは気づいていなかったのです。
そんな私達の様子を、バース様が見ていたなんて。




