楽しいお菓子作り
ジュリア視点です。
初めて、第3部公式ヒロインのクロエ・オブライエン令嬢をノエルのお茶会に誘ったのは、もう何年も前のこと。
思惑通りにクロエちゃんはノエルのいいお友達になり、ノエルが悪役令嬢になるルートは回避できそうです。
ノエルから、クロエちゃんが攻略対象のバース様に恋をしたと聞いた時は、ゲームのシナリオ通り過ぎて、ノエルの悪役令嬢ルートをまた心配しましたけど、バース様に会ったあとでも、ノエルは婚約者のバトン様に夢中。
ブラコンのノエルはバトン様の次に好きなのはエドワードだとハッキリ言い切りました。
一安心です。
その後、ノエルの頼みで久しぶりに縁結びお茶会を開くことになりました。
私にはもちろんそんな縁結びの力なんてないのですが、縁結びお茶会に参加された方の9割が早い段階で婚期が訪れているというのは、本当にどうしてでしょう。
それはともかく、緊張でガチガチのクロエちゃんと、それを宥めるようなエリザベスちゃんとノエルでお茶をしていたら、急にノア様が訪れました。
子供たちにとって国王なんて神様みたいな存在なのですから、急に来られると困ります。
ですが、私はその時聞いてしまったのです。
クロエちゃんが、「イケおじ…!」と小声で呟いたのを。
クロエちゃん、まさかの転生者なのでしょうか。
とりあえず、バース様に差し入れするお菓子について話し合うという名目で、お義母様の秘密のお茶会にお誘いしました。
緊張で強張った顔のクロエちゃんを私の自室にお招きします。
お義母様とマリアンヌ様と私。
身分の高い大人たちに囲まれて、クロエちゃんは恐縮しています。
「ねぇ、クロエちゃん。あなた、転生者なの?」
お義母様、空気を読まずにのっけからブチ込みました。
クロエちゃんはどう答えたものか、と言う様子で思案しています。
そうですよね。
ヒロインであってもバッドエンドルートでは死が待つ可能性もあるこのゲーム。
選択肢をまちがえれば危険です。
きっと、これがゲームの中の選択肢だと思っているのではないでしょうか。
私は安心させるように、この場の全員が転生者であることを明かしました。
お義母様もマリアンヌ様も、自分の前世についても話します。
クロエちゃんはようやく安心した様子で、前世では「セブプリ」をプレイしていたのは親友で、自分は話を聞いたことがあるだけで、プレイしていないことを話してくれました。
これは……良かったのか悪かったのか。
つまりは誰も第3部の詳細を知らないのです。
ウジウジしていても仕方ありません。
分からないのならぶっつけ本番で行くしかないのです。
私はクロエちゃんが帰るとすぐに、レシピブックを取り出して、初心者でも作りやすく、甘いものが苦手な男性でも食べやすいお菓子を探しました。
翌日の早朝にクロエちゃんのご自宅である子爵家へ手紙を出し、学園の帰りに寄ってもらいたいということを知らせました。
クロエちゃんからは、必ず伺います、とお返事が来ました。
緊張した様子のクロエちゃんに、私はまずエプロンを貸します。
今日作るのは、以前お義母様がバレンタインに作った、スパイシーチョコプリンです。
クロエちゃんは、お菓子作りなどやったことはないと言っていましたが、結構筋がいいです。
1つ目を作り終わり、ドキドキしながら2人で試食します。
「うん!」
「おいしい……です」
「大成功よ!クロエちゃん」
そのまま2個作り、トッピングをすると、携帯型の冷蔵庫にしまいました。
魔法陣で温度管理をしているのですが、冷蔵庫というより、保冷バッグの強化版、と言ったところです。
クロエちゃんはまだ時間があるということだったので、マカロンを大量に作りました。
我が家の分と、クロエちゃんからノエルを始めとしたお友達にあげる分、そして、もしバース様が甘いものがお好きなら一緒に食べることができるように。
私には難易度が高いですぅ……とクロエちゃんが泣き言を言っていましたが、聞くところによるとこれからも鍛錬場へ行ってもいいとバース様から言われたとのこと。
単純接触効果はクリア出来そうなので、あとは恒例のパーソナルスペース狭めよう作戦ですわね!
とはいえ、知り合ったばかりなのに近い距離で話していたらさすがに警戒されかねません。
そこで、差し入れです!
毒味、と称して一緒に食べればいいのです。
ノエルが悪役令嬢にならない為に、また、クロエちゃんがバッドエンドルートに入らない為に、全力を尽くしますわよ!
「お母様」
ふとキッチンの入り口で声をかけられて見てみると、アルがジィっとこちらを見ていました。
そう言えば、アルも攻略対象でしたわね。
「アル。ノエルお姉様のご友人のクロエ・オブライエン子爵家令嬢ですよ。ご挨拶なさい」
「はじめまして。アルフォンス・トリスと申します。
良い匂いがしたので、思わず来てしまいました」
アルの笑顔がキラランと光ります。
アル、あなたもなの?!
あなたもその若さでフェロモンダダ漏れにして女の子泣かせの男になるの?
お母様、とても心配よ?
「王妃様からお菓子作りを教わっていたのです。
アルフォンス様、もしお嫌でなければマカロンをお食べになりますか?」
「是非お願いします!」
これは……食い意地が張っているというより、クロエちゃんの手作りだから食べたいという感じですわね。
「アル。あなたの分はちゃんととってあるから、クロエちゃんのマカロンをそんなに食べてはいけません」
「そうだったのですね。知らずに申し訳ありませんでした」
「いえ。こちらこそアルフォンス様に食べていただけたなんて光栄です」
「これで、バース様にも堂々と渡せる自信が少しはついたんじゃない?」
「そうかもしれません。早速明日、バース様に差し入れにいきます!」
「無理をしないで、あなたらしく渡せばいいのよ?」
「はい。ありがとうございます!」
「バースって、誰?」
あらあら。
不機嫌モード全開のアル。
余程クロエちゃんを気に入ったのですね。
これも、ゲーム補正でしょうか。
「バース様というのはね、クロエちゃんの初恋のお相手よ。
アルもクロエちゃんが好きなら、応援してあげて」
息子の恋より他人の恋を優先。
ここだけ見たらひどい母親のようですが。ノエルを悪役令嬢にしないためです。
それに、同じ転生者とわかった今、純粋に応援したい気持ちもあります。
「はい。クロエ嬢、頑張ってください」
「ありがとうございます、殿下」
「明日の結果は、また手紙で教えてちょうだいね」
「ありがとうございます!必ずご報告いたします!」
クロエちゃんは私にエプロンを返すと、保冷バッグを持って帰っていきました。
心なしかしょんぼりしているアル。
「アルフォンス。あなたにもいつかきっと、この人しかいない、と思える相手に、出会えますからね」
「早く、そんな相手にお会いしたいです」
「あら、それならお見合いパーティーでも開く?」
少し早いかな?と思いつつも聞いてみます。
「ぜひ、開いてください。それから僕をお母様の縁組みお茶会に参加させてください!」
私にはそんな力はないと、何度も言っていますのに。
「わかりました。お見合いパーティーの前に、縁組みお茶会を開きましょう」
「ありがとうございます!楽しみだなぁ」
いえいえ、お茶会は普通のお茶会ですし、パーティーも沢山の女性の中からピンと来る方を探さなくてはならないので、大変だと思いますよ?
まぁ、盛り上がっているところに水をさすのも無粋なので、私は黙って後片付けを始めました。




