初夢の誰か
見えている世界は本当は全て作られたものじゃないのかなんて思う時がある。
自分の脳を通して見る世界なのだから、結局は自分に都合のいいことしか見えていないことだって。
現に私は、まるで映画の主人公のように堂々とこの街を歩いている。
古い街並みが見えたと思ったらすぐ後ろには高くそびえ立つ高層ビルがあったり、おしゃれなカフェや高級ブランドのお店が至る所に。
この街は世界で一番大きくて、世界の中心で、世界を回している。
それも、結局は自分の都合でそう思えているだけなのかもしれない。
でも、それでも私はこの街が好きなのだ。
コツコツと音が鳴る自分の靴はまるで自分だけの世界を歩いている足音に聞こえる。
空から舞い落ちる雪だって全て自分のために舞っている。
世界は私を受け入れてくれている、そう思える私はこの物語の主人公なのだろう。
空も、雪も、街も、通り過ぎる人ですら全て私の物語の演出であり、結局この世界に存在する魂は私ひとりでしかないのだ。
それぐらいの気持ちがないとこの街じゃ、この世界じゃ生きてはいけない。
対して大きなことを今まで成してきたことはなかった。
大した言葉を言ってきたわけでもない。
くだらないことで笑い合い、くだらないことで自分を傷つけて、小さな失敗も、大きな失敗も数え切れないほど犯してきて、自分がどれほど小さく、そして才能のない人間なのか痛感し、自分の存在を認めたくなくて、消したかったこともあった。
でも、それでも
「それを全部含めて自分なのよね。どうせなら自分に酔うくらいが人生楽しいと思わない?」
「うわあ!」
私は思わず、ものすごい勢いで目を開けて、布団から起き上がった。
「な、なんて・・・」
チュンチュンと鳴き声がしたので、窓を見つめるとすっかり陽が昇った太陽と目が合った。
そのまま窓を開けると、近くの木にとまっていた雀がバサバサと翼をはためかせて空へと羽ばたいていった。
私はふうっと息を吐いた。
「なんか・・・すごい初夢見たな」
(でも)
そうなのだ。
なぜか私の気持ちは軽かった。
大きく伸びをして、私が住むこの街を見つめた。
夢の中のような街とは全然ちがう。
でも、この街が私は好きだ。
夢の中の私?それとも出会ったことのない誰かと同じように。
飛び立った雀も、真新しい太陽の光も全部私のための演出だと思うこともその人と同じ気持ちだ。
風が私の髪を優しくなでた。
「いい一年を、どうか」
そう言って私の一年は再びここから始まるのだ。