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Small world  作者: 十八谷 瑠南
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完璧な世界

その言葉を、その姿を聞かなければ、見なければ私の世界は完璧だったのになんてことありませんか?

私はいつも聞かないことに、見ないことにしてやり過ごしていました。

そうやって自分の世界を作っていたのです。

でも、それじゃずっと何も変わらない。

とりあえず、目の前で起こった出来事は受け止めましょう。

なんて話を書きました。

あなたたちのうるさい話し声すら聞こえなかったら

あなたの耳元から聞こえるその音楽が聞こえなかったら

あなたがそのリュックを背中から下ろしてくれたら


私の世界は完璧だったのに。



「何?その辛気臭い顔」

「・・・」

あなたのその一言さえなければ私の世界は完璧だったのに。

私の世界はいつも完璧じゃない。

何ひとつ共感できない笑い声も、目の前から聞こえる不快なBGMも、私の存在すら気がついていない男も。

「あんたって本当暗いよね。じゃ、私ここで降りるから」

「うるさいな」

と私がそう言った言葉とかぶるくらいの速さでちっと舌打ちが左横から聞こえた。

その舌打ちが聞こえなければ・・・

『お降りの方はお忘れ物のないように~』

私の左腕がうしろから殴れたような衝撃を受けた。

私の横に居たあの子が肩からカバンを担いでこっちを睨みつけていた。

まるで汚いものでも見つめるかのように。

(ああ、あのカバンをぶつけたのか)

そのまま私から視線をそらすとあの子はそっぽを向いてさっさと去っていった。

そしてまたここには私の完璧ではない世界が残された。

私の左横は空いたままだが、目の前では相変わらず音漏れをしているイヤホンをつけた男。

その男の横にはぎゃあぎゃあと騒ぐ女の子たち。

しかも、私たちのやりとりを見て楽しんでいるようだった。

それから私の右横は手すりになっている。

だから誰もいないはずなのだが、こういう日はそんな訳にはいかない。

手すりにもたれた男の背中からはみ出たリュックがずっと私の右肩、右頬にぶつかっている。

なんて日だ!・・・なんて思わず立ち上がって叫んでやろうかと思った。

それぐらい私の今日の世界は完璧じゃない。

この車両を見るだけでそれがわかる。

ということは、ここにいる私の世界に完璧じゃない人間がいなくなれば私の世界は少しでも完璧になるのだろうか?

思わずひとり、鼻で笑った。

「んなわけないわ」

なんてひとり言までつけたものだから斜め前にいた女の子たちは私をチラチラ見て笑い出す始末。

私は、はあっと大きなため息をついた。

完璧な世界。

それは、斜め前にいる子たちの会話も、目の前で音漏れしている男も、手すりからはみ出しているリュックにも気がつかないくらい、親友と仲良く笑う帰り道の電車。

それをしなかったのは自分。

完璧な世界は、誰かを排除したり、見なかったり、聞かなかったことにしたりして作るものじゃない。

とそこまで考えている最中もずっと私の右頬にリュックがワンパンを食らわしてくる。

とりあえず・・・

車両を変えよう。

そして駅についたらあの子に電話しよう。

完璧な世界はそうやって作る。

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