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Small world  作者: 十八谷 瑠南
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思い出はもう思い出じゃない。



大きなデスクトップの画面に流れるのは広くて明るい大きな青空の下に広がる家々の写真。

全くどこの街なのか知らないが、時に懐かしさを感じるときがあるのだ。



それを見ているといつでもあの頃に帰れる。

あの街に何度も帰れる。

私はまだ戻りたいと感じるのだろうか。

それはまだ今に満足していないから?


いや、違う。

ただ思い出に浸りたいだけなのだ。

きっと、思い出に浸っている時だけ自分がこの世に存在出来ていると強く感じるから。





ホットコーヒーのカップに触れるとそのまま口に運んだ。

コーヒーの苦味をもう苦いと感じなくなった舌を通り、喉へとコーヒーが流れていく。

ふうっと自然にため息が出たのは体があったまったから。


椅子の背にもたれるとぎしっと音が聞こえた。

黒い瞳を左に動かし、それから右に動かしてよく見ると私以外もう誰もいなかった。

一列にPCが姿勢を正して整列している、私の前に、後ろに。


ここにいる私は私でないように感じるのはここにいる私が嫌いだからだ。


何一つ尊敬できない奴にぺこぺこ頭を下げては媚び、面白くもない話に笑顔を作り、優しさのかけらの微塵もない攻撃的な光を浴び続けカタカタカタカタ音を鳴らし、いつになれば終わるのかと時計を見つめ、終わりがまだだと分かるとまたカタカタカタカタ。


ずっと同じ毎日、ずっと、繰り返す毎日。


だが、そうでもしなければ生きていけないのだからそれはしょうがない。


いつも通りの自分でなんてここでは生きてはいけはない。


ありのままで、なんて人はよくいうけどありのままにここで過ごしたら言い訳のいの字も言う前にここを追い出されるに決まっている。


だから、私はここにいる私が嫌いでいいのだ。


それが正しいから。


ここにいる私を私が好きなってはいけない。


あってはならない。


それがありのままで生きるというとではないだろうか。


「なんて、ね」なんて独り言が思わず出た。



誰にも聞かれてはいないがなんだか少しそんなことを考えた自分が恥ずかしくて思わずカップに触れて口に運んだ。


私は今の現状から逃げ出したいわけではない。


ただ、ただ、私は不安になるときがある。

このまま毎日を流されて流されて生きていいのか。

同じ毎日の繰り返しはわたしにとってそれでいいのか。



あの頃、あの街にいた頃、私は毎日が違った。

同じ日なんてなかったのだ。

あんな風に毎日が生きられればどんなにいいだろう。


私はわかったような気がする。

過去のあの思い出。

きっと私の行きつきたいところはあの頃なのだ。


私は戻りたい?


だからそうじゃない。


私はまた、あの頃のように暮らしたい。

そのために私は今ここにいる。

ここでこうして生きている。

そう思えたら私は私の目に光が戻ってきたような気持ちになった。

ふたたび椅子がぎしっと音を立てたのは私が姿勢を正したから、ここのPCのように。

そして、またカタカタカタカタ音が鳴る。




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