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Small world  作者: 十八谷 瑠南
10/24

その日が来るその時までに

ふとした時に足元が大きく揺れて、叫び声が聞こえたと思ったら真っ暗になる。

ふとした時に私は吹き飛ばされるように流されて、そのまま飲み込まれていく。

ふとした時に知らない人間が殺意を持った目でこちらを見つめて、立っている。

ふとした時に大切な人が危機に直面していることを知る。

がくんっと私は大きく頷いた。

もちろん自分で意識して頷いたはずはない。

今目が覚めたところなのだから。

どうやらつり革につかまったまま眠っていたようだ。

きょろきょろと辺りを見回した。

手元の携帯をじっと見つめている人が大半を占めている。

この狭い車両の中では音を立ててはいけない。

そんな暗黙のルールでもあるかのように静かだった。

(あれ?)

よく見ると外の景色は動いていない。

(ああ。そうか)

どうやら電車が急ブレーキをかけたようだ。

ガガガと雑音が車内に響いたかと思うと、男の低い声が車内の沈黙を破った。

『え~、ただいま線路内にて発煙が発生したためしばらく運転を見合わせております。え~繰り返します』 

そのアナウンスは暗黙のルールの崩壊を意味する。

「嘘だろ」

「勘弁してくれよ」

「ああ、くそ」

この狭い車内の中でさっきまでは生まれるはずのなかった妙な一体感が出来上がっていた。

私も思わず大きなため息をついてその一体感に便乗してみる。

しかし、本当に早く電車を降りたかった。

退屈な時間は私に余計なことをいつも考えさせる。

それはきっと自分とは無縁だと思っていた災害や事件を身近に感じるようになったからだ。

自分がもし・・・

そんなことを考えたらきりがないのはわかっている。

だが、考えずにはいられない。

いつか必ずくると言われているこの国を滅ぼしかねない大きな災害は私を、私の大切な人たちを殺すのだろうか。

日常に潜む誰かの殺意は一体いつ誰に向けられるのだろうか。

(だから、だからこそ)

私はグチグチときりのないことを考えて考えて思ったことがある。

ふとした時にその日はやってくる。

だからその日が来るまでに私は今まで生きてきた中で知らなかった自分を知りたい。

誰かに優しく、素直な感情を表す自分を。

ずっと鋭く尖って生きて来たから。

自分の運命を変えることも持って生まれた性格を変えることもできるはずがない。

演技でもいい。

内心と食い違っていても構わない。

ただ今までとは違う自分と出会いたい。

そのための第一歩がこの電車。

私は仕事を休んで実家に帰る途中だったのだ。

大昔に勘当された両親に会うために。

できの良い子供ではなかった。

今でもそれは変わらない。

ただ一言謝りたい、そして感謝をしたい。

そんな自分と出会いたくなったのだ。

だからどうかいつか訪れるその日がいまこの時ではないことと一刻も早く電車が動き出すことを私は祈る。



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