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いずれ来る病災的終末から、人類が種を繋いでいくために かくして始まる俺のラブコメ

 その少女は、紛うことなき“天使”であった。

純白の翼から光の粒子を撒き散らしながら、天衣無縫たるその声で、言葉を紡ぐ。

「あなたには、人類のためにラブコメをしてもらいます」



「時間がありません」

「お前がそれを言うか……」

 

 今日は月曜日。

学生なら登校日であるし、社会に出ても同様に出社などせねばならないだろう。

つまるところ、遅刻ギリギリの状況で押しかけ天使と悠長に話しているような時間は無いのである。ましてや、彼女はこのような状況に陥るに至った元凶である。


昨日(さくじつ)午後10時35分の奇妙な邂逅(かいこう)は、今現在、安芸(あき)陽斗(ようと)という一人の人族の日常に小さな歪みを確かに生じさせていた。

「なぜ、こんな事になったんだ……」

 突然告げられた、この俺の奇異なる天命。

登校の仕度と同時並行に、思い出す。



「あなたには、人類のためにラブコメをしてもらいます」

 深夜、前触れもなく俺の部屋に降臨した、見る人を圧倒する神々しいオーラを(まと)い、幼い美貌に慈愛と憂いを湛える少女は、しかしそれに似つかわしくない、「なぜそうなる」としか言えないようなセリフを大真面目に言ってのけた。


「えっと……なぜそうなるんだ?」


 実際に言った。それはそうだろう、この珍妙な言葉だけを聞いて「はい、そうですか」と返せるほど思考停止で生きている訳では無いし、即座に理解できるほど察しがいい訳でも無い。


 それに対する彼女の行動は、首を傾げて不思議そうな表情になることであった。

「あれ? 神様はこう言っておけばどうにかなるって言っていたのに。完璧なプランが早くも破綻してしまいました。」

「俺は敬虔(けいけん)な信仰者でもなんでもない。理解できないことはきちんと説明してもらわないと」

 神の言うことが全て正しいと思い込んでいる盲信者にでも見えるのだろうか?

「そうですね。それでは説明させていただきます。えー、おほん」

咳払いしてから、お使い天使は何とも無しに、


「まず、近い未来にヒトという種は絶滅します」

 割とすごいことを仰ってくれやがった。

「いやいや、なんじゃそりゃ」

当然、そんな情報をすぐに脳で処理できようはずもない。

「地球温暖化? 氷河期の到来? 太陽の終焉か、はたまた高次生命体の襲撃か? おいおい、勘弁してくれよ」

馬鹿馬鹿しいとばかりに首を振る。天使や神がいるならば高次生命体云々は有り得るかもしれないが。

「いえ、それは人類史上最悪のパンデミックによってもたらされます」


「既存のウイルスの異常な進化により、冗談のように地球上の人類が死滅します」


 それこそ冗談のような話だったが、彼女の瞳は全く笑っていなかった。

「それで、なぜ俺がラブコメをするという話に?」

そうだ。例えこの話が本当だとして、どうやってこう繋がるのかが分からない。

「えっと、“突然変異”って知ってますか?」

「まあ、何となくはな。生物の遺伝子異常による状態の変化、みたいな感じか?」

 俗に言うミュータントである。アルビノやオッドアイ、赤毛や青目などもこれにあたるそうな。


「あなたは、件のウイルスに対して唯一耐性を持つ人類であり、突然変異体(ミュータント)です」


なるほど、話が読めてきた。……ん?


「あなたの性質は次世代にも受け継がれます。人類が終末を超えて種を繋ぐにはこれしかありません」


「という訳で、これからどんどんラブコメっちゃってください。ゆくゆく先は女の子たくさんのハーレムで、子どもをいっぱい作っちゃう感じで」


「……えっ、おい! そんなこといきなり言われたって、もうちょっと説明がっ」


「これ以上は読者が飽きちゃいますし、尺が無いです。そして私はすごく眠いです。会話の継続は不可能。すやぁ」

 読者? 尺? ってマジか。こやつ、俺のベッドに潜り込んで寝る気まんまんである。

「明日は学校でしょう。遅くまで起きてるのは感心しません。」

部屋の電気をパチリ。仕方ないので俺もベッドに入る。

昔、妹と共用で使っていたダブルベッドは、成長した今でもちゃんと二人分の収容力を有していた。

 初めての(異種族とはいえ)異性との共寝は、しかし何の情動や感慨をももたらすことは無かった。


 怒涛の急展開に脳の処理が追いつかず、考え事をしていて眠るのが遅くなった俺は、結局起きるのが遅くなってしまった。


 回想終了。そして準備も完了。

玄関を出て、急ぎ足で登校。

「……何でお前も来てるの?」

「そりゃ、いい感じの攻略対象を見繕うためですよ」

「攻略対象言うなし。お前輪っかあるし、羽生えてるし、滅茶苦茶目立つだろ」

「ふふん、普通の人には見えないご都合仕様です」

 ご都合とかも言うなし。まあ、それならいいのだけれど。

「誰かいい感じに気になってる娘とかいないのです? 隣の席の女の子とか鉄板じゃないですか?」

「そんなのいないっての」

 隣の席、ねぇ。そこにいるやつといったら……



「陽斗ぉぉぉう!会いたかったぞ!」

 ホームルームが終わるなり、隣の席から飛び出してきて抱きつこうとしてくるヤツを、両手で押し止める。

「野郎とイチャつく趣味は無い。それでどうしたんだ二郎、また振られたから慰めろと?」

「よく分かったな! お前エスパーか!?」

もはや恒例行事だからだよ。

 

 こいつは麦田(むぎた)二郎(じろう)。一郎という兄がいるとかいないとか。惚れっぽい性格の男で、学園に来て以来の友人であり、()()()()()()だ。

そして。

「そっかー、陽斗はそっちだったんだー……」

 見たくないものを見る目でこちらを眺める、()()()()()()であり、俺の幼なじみである桐野(きりの)(はるか)

「そっちってどっちだよ。俺は普通に女の子が好きだよ」

「ふーん」

 ニヤニヤしながらこちらを見る遥。後ろで「……ふーん」とどこか気落ちした声で呟く二郎は無視する。


「遥さん? 結構可愛いし、どうです?」

「どうです? じゃないわアホ天使。こいつとは付き合い長いんだ。今更どうこうは無いよ」

「そうですか? 意外と脈アリそうな感じしますけど」

ふん、分かってないな。あいつとは倦怠期の夫婦みたいな感じなんだよ。年頃の幼なじみなんてそんなものだろ?



「分からない」

 移動教室の合間、俺はお子様天使に問う。

「神なら原因を絶ったり、人を新たに生み出したり出来るんじゃないのか?」

「うーん、それが少々複雑でしてね……。」

 その言の通り、かなり複雑な話になっていたため、要点を掻い摘むと、

「・そもそも、神とは有り体に言えば『たまに奇跡を意図的に起こすことが出来る存在』であり、信仰によって神という存在を生み出したのは人間。信仰の結晶である神は、人間が完全に死滅すると消滅する。

・パンデミックの被害を留めることが出来る神も存在する。ただし現在奇跡はクールタイム中(訳が分からない)、あと百数年は発動出来ない。クールタイムには個神差がある。」

関係があまり無いところを省けば大筋はこんな感じ。

「これで文字数が少なくて済む。ぐっじょぶ」

「はあ……。」

 意味が分からん。

「それにしても、実にタイミングが良い……いや、悪いですね。()()()()()()()()()()()()()()()……。」

 意味不明天使がボソッと呟く。その言葉は何故か、耳に残り続けた……。



「これは仕組まれているッ!!」

 二郎の悲痛な叫びが響き渡る。

事件は数分前、ホームルーム中の教室で起きた。


「転校生を紹介する」

 先生の一言に、どこか弛緩した放課近くの空気、それが瞬時にして強張るのを感じた。

そわそわとしたクラスの雰囲気が、触覚となって肌を撫ぜる。

二郎なんかは「美少女!?」と期待を隠そうともしない。

 事実、転校生は美少女であった。

整った顔立ちにスレンダーながらも出るところは出る見事なプロポーション。燃えるような赤髪が目を引く。

(そういえば、この学園って服装や髪色とかかなり自由だよな)

青髪とか白髪(はくはつ)も居たはずだし。


御神楽(みかぐら)奈月(なつき)です。よろしくお願いします!」


 はつらつとした声で、人懐っこい笑顔で、太陽のように輝く彼女。

ふと目が合う。

たったの一瞬、彼女の笑顔が変質した気がした。


「それでは席は、二郎君の左が……」

 二郎の表情からは彼の欲望が滲み出ているように感じた。うわぁ。

「と、思ったが二郎は授業態度が悪い。この際だから前に来い」

あっ、一気に絶望が。

「そうだな、じゃあ奈月は陽斗の隣へ」

やめろ、そんなドナドナされる子牛みたいな顔するな、夢に出そうだ。

「これからよろしくね、陽斗くん」

抵抗空しく、先生に引っ張られていく二郎。

「これは仕組まれているッ!!」

誰に何を仕組まれたのか。それは分からないが、遠ざかる彼の表情はブルトゥスに裏切られたカエサルさながらであった。

「わぁ、陽斗さん両手に花じゃないですか」

 割とマイペースな天使さんに、俺はただ頭を抱えるのであった。



 夕陽射す教室に、御神楽奈月は独り。

「ついに見つけた」

隣の席の“天使連れ”の彼。彼こそが───────


「私の計画、その唯一の障害」


禍々しい色のカプセルを弄ぶその笑顔は、酷く愉快げで。


「さて、彼をどうやって排除しようかな」

夕焼けに照らされ伸びる影、それはまさしく悪魔のシルエットであった。

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