パーティ追放された問題児達でパーティを組みましたが、多分弱いです。
「はぁ……」
ここは冒険者たちが集まる酒場。
俺はそこでため息を吐きながら、履歴書をテーブルに置いた。
そんな俺の態度に面接を受けに来た相手はビクリと体を震わせる。
目の前には絵に描いたような僧侶の見習いの格好をした一人の美女。
見た目は麗しいが、履歴書にはしっかりと書かれている、『34歳』。
名前 ミカエル=プセマ
スキルレベル 1
使える魔法 『ヒール』のみ
「ミカエルさん、流石にこれは……」
「あの……やっぱり即戦力採用ですか……?」
長所 『前向きなところ』
「……まぁ、前向きなのは良いことだと思いますよ」
「ですよねっ!」
短所 『ありません!』
「…………」
「…………」
いや、可愛いよ。
スタイル抜群だし、声も癒やし系でずっと聞いていたくなる。
凄くおしとやかな大人の女性って感じ。
でも、年齢とか残念すぎる中身とかが──。
いや、今はそういう話じゃなかった。
俺はパーティの新メンバーの面接をしているんだった。
重要なのは強さとか将来性だ。
「……経歴をみると、実に多くのパーティに所属されていたのですね」
「はい! 『ヘッドハンティング』ってやつですね!」
「『たらい回し』ってやつですね……」
そう言うと、ミカエルは両手で耳を塞いで「あ~あ~聞こえな~い!」と半泣きで叫んだ。
「ババァ無理すんな……」と小声で言ったら殴られてしまった。
バッチリ聞こえてるので長所に『耳が良い』と書き加える。
「ミカエルさん、残念ながら採用は厳しいですよ」
「そんなっ!? 私のお祈りの力を見れば、きっと考えが変わるはずです! お願いします! もう行く場所がないんです!」
年甲斐もなくわんわん泣き出す彼女は意地汚く俺の足にしがみついてきた。
34歳にもなってこうはなりたくない。
「……それなら私も持っていますよ、お祈りの力をね……なんならお見せしましょうか?」
あまりにしつこくひっついてくるので、俺はもう全てを終わらせる魔法を放つことにした。
呪文を詠唱するためにたらふく空気を吸い込む。
「本日は、当パーティのメンバー採用試験にお越しいただきありがとうございました。厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回は採用を見合わせていただくことになりました。ミカエル様の、より一層のご活躍をお祈り申し上げます」
「うわぁ~ん! そんな~!」
俺の息継ぎなしのお祈り詠唱にミカエルさんは泣きながら酒場の空席へと移動した。
「次の方~」
「……御免」
今度は立派なあごひげを蓄えた無骨な男が目の前に座った。
腰には二本の刀を差し、頬にある大きな十時傷が『ただ者ではない』ことを示している。
「あ、あの……お間違えではないですか? ここは『にゃんにゃん、猫大好きだニャン』という最低ランクのパーティでして、BやAランクのパーティ募集はもっと上の階で──」
「間違えてなどござらん。其れがしもこの『にゃんにゃん、猫大好きだニャン』パーティに入れていただきたく馳せ参じたゆえ」
「……そ、そうですか。ではとりあえず履歴書を……」
おそるおそる履歴書を受け取ると、目を通す。
名前 五十嵐 五右衛門(40)
職業 剣士
「剣士だったのですね……! てっきり上級職のサムライかと思いました。これでは確かにCランクやBランクのパーティは厳しいかもしれません」
「あぁ……」
「それから──っ!? 伝説の剣豪パーティ『斬り捨て御免、ほんとゴメン』に入っていたのですか! す、凄すぎる! な、なぜ抜けられてしまわれたのでしょうか!?」
「追放されてな……」
「もしかして仲間同士での争いが、決闘とかですか……?」
「いや、剣を使わずに素手で敵を倒してるのがバレた」
「…………」
「Sランクパーティの『斬り捨て御免、ほんとゴメン』は剣技にこだわるパーティだったから、凄い怒られた」
「……そうですか」
確かに、剣士のスキルレベルは0と書かれている。
っていうかゼロなんて初めて見た……。
「怒って斬りかかってきた団長も殴り倒しちゃったから……仲間にもずっとサムライだと思われてたし、なんか雰囲気だけで入れてもらってたみたい」
「あぁ、大ニュースになってましたね。『最強の剣豪が緊急入院』って、あれ貴方のせいだったんですね」
そこまで聞くと、俺は大きなため息とともに履歴書を返した。
「五十嵐さん、残念ながら貴方は我がパーティでは活躍の場がありません。残念ながら見送らせていただきます」
「……そうか。さっきの娘と、この酒場で飲んでるから、また縁があったら声をかけてくれ」
「貴方も意外と諦めが悪いんですね。分かりました、ではご退席ください」
俺はこの爆弾物件をなんとか処理することに成功すると、安堵のため息とともに額の汗を拭った。
「次の方~」
「……zzz」
次の方は英語三文字で返事をしてきた。
外国の方かな?
「あの、呼ばれてますよ」
ミカエルさんが次の受験者を揺さぶって起こした。
「私、役に立ちますよ!」みたいな笑顔を向けてくるが、無視をする。
「ん~、僕の番か~」
気の抜けた声で起きると、眠そうな目をこすって俺の目の前の椅子に座る。
羊みたいなモコモコした水色の髪の毛を持った美少女である。
「……では、履歴書をお渡しください」
「はい~」
寝ているときに下敷きにしていたんだろう、履歴書にはよだれが垂れたようなシミが付いていた。
「……では拝見させていただきますね」
「お~~……zzz」
また、寝ちゃったよ……。
しかも、この履歴書、文字が汚すぎて読めない。
職業だけでも確認したいが、『ま玉』という謎の文字が書かれているだけ。
周りに『ま主』とか『ま応』とか書かれて消された後があるが、せめて新しい履歴書を使って欲しかった。
年齢も500歳とかふざけてるし。
「残念ながら不採用です」
「……zzz」
目の前で机に突っ伏したまま寝ている彼女にそう告げる。
ミカエルさんが彼女をおぶってどかしてくれた。
「私、子守もできますよ!」みたいなドヤ顔を見せてくるが無視をする。
「次の方~……って今の子で最後か」
ため息を吐いて、一人も決まらなかったことに思わず天を仰ぐ。
ミカエルさんが「お疲れ様です」と秘書ヅラでお茶を持ってきたが、無視をする。
「お~い、調子はどうだ」
「あっ、マルク先輩! 今、面接が終わりました! 残念ながら今日は採用者は一人もいなくて……」
俺のパーティ、『にゃんにゃん、猫大好きだにゃん』の先輩であるマルク先輩が様子を見に来てくれたので俺は立ち上がって頭を下げた。
「そうか、『君の代わり』は見つからないのか……」
「…………はい?」
マルク先輩の不可解な言葉に思わず気の抜けた声で聞き返した。
「君、『ワンワン、猫カスまじで害悪だワン』というパーティに入ってただろ。うちは生粋の猫好きしか入れないんだ。というわけで──」
マルク先輩は俺に一枚の紙を渡した。
『パーティ追放を言い渡す』と書かれたシンプルな紙だった。
「君は、追放だ」
マルク先輩の言葉に思わず膝から崩れ落ちる。
やっと入ったパーティ、猫好きを装って入ったパーティ……。
(終わった、もうこの世界滅べ……)
そんな俺の思いが通じてしまったのだろうか。
突然の地響きとともに酒場の入り口が巨大な角で破壊された。
「き、キングベヒーモスだ! は、早く! 誰かSランクの冒険者を呼んでくれ!」
そんな声とともに逃げ惑う冒険者たちの中に、一人逆方向へと走る者がいた。
「剣技、『剣豪パンチ』!」
先ほど不採用を受けた五右衛門が左手で抜刀すると、右腕でベヒーモスを殴りつけた。
巨大なベヒーモスの爪が破壊され、こちらへと吹き飛んでくる。
(あっ……死んだな)
鋭利な爪が自分の体を真っ二つにすると確信すると、俺は目を閉じる。
だが、目を開いてみると、俺の体は無事だった。
服すらも切れておらず、俺の背後には先ほど吹き飛んできた巨大な爪が落ちている。
「な、なんで生きてるんだ……?」
そうつぶやくと、ミカエルさんがそばで嬉しそうに声を上げた。
「私の『ヒール』でお助けしました!」
「で、ですが、『ヒール』くらいでは治らないはず……」
「はい、なのでヒールを272回、貴方にかけました!」
「……はい?」
ミカエルさんの言葉はよく分からなかったが、そんなやりとりをしている間にキングベヒーモスがふらふらと立ち上がった。
「帰ってくださらんか……拙者は動物好きゆえ、これ以上我が剣技で傷つけたくはない」
五右衛門が再び無意味に刀を構える。
多分一回も使われたことがないのだろう、刀は新品同様だった。
「ん~、うるさいなぁ~」
水色の髪の女の子がこの騒動で目を覚ました。
「静かにしてよ……」
女の子がそうつぶやくと、キングベヒーモスは口をパクパクとさせた後に泡を吹いて倒れた。
恐怖ゆえに言葉にできなかったのだ、「魔王様」と。
この騒動はこうして幕を閉じた。
キングベヒーモスは突っ込んできた末に泡を吹いて倒れたということで、病気だったと判断されたようだ。
「私、貴方の命を助けましたよね!? 採用ですよね!?」
ミカエルさんがしつこく迫るが、俺はもうパーティ追放されている。
パーティが組めるのは4人以上から。
ここにいる問題児は俺含めて4人。
……冗談だろう?




