レアな魔剣だけど所有者になってくれる人が一向に現れないので自分で自分を強化します
私は魔剣である。
やや肉厚のロングソードであり、刀身は黒一色。
柄にはゴテゴテしたような無駄な飾りもなく、かといって無骨ではない。
全体的なフォルムを含めその存在全てが実用的で極限まで洗練されている美しくもナイスな魔剣なのだ。
そしてただでさえ珍しく貴重な存在である魔剣の中でもそれなりにレアな部類だと自負している。
私はダンジョンのドロップアイテムとして召喚された。そのため、現在宝箱の中に横たわっているのだが……。
暇だ。
私が配置されている部屋は、いわゆる隠し部屋というやつで冒険者が滅多にこない。というか、ボス部屋一歩手前のところにあるので、そもそもこの付近までたどり着けるものがほとんどいない。
仮に近くまで辿り着けたとしても私がいる隠し部屋はそう簡単には見つからないようになっているし、もし見つけられたとしても、そこには百を超える大量の宝箱があり、私がどこに配置されているのか一目では分からないようになっている。ちなみに私が入る宝箱以外は全てミミックである。
私以外の宝箱を開ければ、部屋の中の全てのミミックが襲ってくるし、当たりである私の宝箱を開けても、私を守ろうと部屋の中の全てのミミックが襲ってくる。割と理不尽だと思う。
というわけで、私は現在とても退屈していた。
私は魔剣である。武器には使い手が必要だ。
そのため私の使い手となってくれる者が現れるのを今か今かと待ち望んでいたが、残念なことに一向に現れる気配がない。
私がそこら辺のナマクラのように思考も出来ず、時が経つにつれ自然と朽ちていければどんなに気が楽だっただろうか。
だが、私は魔剣であり、その中でもレアな存在である。
朽ちることもなければ、この思考が止まることもない。しかも配置場所から考えて、どうやら私はダンジョンの目玉商品となってしまっているらしく、私の周りには堅牢な守りが施されている状況だ。
つまり、私を手にしてくれる人間が現れるのはそれなりに時間がかかるとみていいだろう。
剣なので身動きも取れず、私は籠の中の鳥……いや、宝箱の中の魔剣の状態だった。
私は魔剣である。武器なのだ。使われなければ意味がない。
さあ、どうしようかと思案する。
そしてしばらく考えた結果なのだが、正直退屈ではあるけれど、とりあえずあと一年くらいは待ってみてもいいと思う。
もしかしたら今現在私を求めて必死にダンジョンを攻略している者がいるかもしれないのだから。
私は魔剣の中でも器の広い魔剣なのだ。
♢
とっくに一年過ぎた。というかもう十年くらい待った気がする。
誰も来ない。さすがにこれはおかしい。
もしやこれは誰も私を探していないということになるのではないだろうか。いやそれはあり得ない。私は魔剣の中でもレアな部類に入る魔剣だ。
それなのにこれはおかしい。ダンジョンマスターのPR力が弱いのではないだろうか。ちゃんと広報に力入れているのか、あの腐れ石像は。
さすがに私もそろそろ我慢の限界だった。おそらくあのダンジョンマスターは私を誰にも見つけさせるつもりはないのだろう。
怒りがふつふつと沸き上がる。
私は魔剣だ。釣り餌でも客寄せパンダでも無い。
次第に苛立ちが募っていき、その矛先が他にも向き始める。
そもそもこの程度のダンジョンを突破出来ない者に私を所有する資格があるだろうか。いいや、断じてない。
私は魔剣だ。使い手がダンジョンひとつ突破出来ない軟弱者であっていいはずがない。
そう憤っていたが、時が経つにつれ私の心は落ち着き、気分は下がっていく。
はあ……。
何だか弱気になってきた。一体私の何が駄目なんだろう。
性能か。性能なのか。私はレアな魔剣である。しかし、現時点では特別性能がいいとは言えない。
今の私の力は、他の魔剣と比べると数段劣るのは事実である。もちろんナマクラごときとは比べるまでもないが、それでも魔剣の中ではやや性能が不足しているかもしれない。
ある魔剣は一振りで地を裂き、海を割った。
ある魔剣は長きにわたって繁栄していた魔導大国を一夜で滅ぼした。
ある魔剣は七日七晩消えぬ炎を生み出し、大陸の半分を焼き払った。
認めよう。これらの魔剣と比べて、私の力はとても地味で目立たないものである。だが、私の真価を発揮出来れば、他の魔剣などナマクラ同然となる。
私にはそれだけの力が眠っているのだ。しかし今のところ、私の真価を発揮出来るほどに私を理解し、使いこなせる者がいるとは思えない。いるならとっくの昔に私はその者に所有されているだろう。
そう考えると気が滅入ってくる。とても憂鬱な気分だ。もういっそ私が私を使うことが出来ればいいのに、なんて……。
はあ、と再度溜息が漏れる。なんで私がこんな目に。涙は出ないが、正直ほろりと泣きたくなってきた時だった。
……あ、あれ……?
……今自分はなんと言った……?
そしてもう一度自分が口にしたことを言葉にして衝撃が走る。私は自然と悪魔的な発想をしていた。なぜ気付かなかったのだろう。
そうだ。待つ必要がどこにあるのだろうか。
私は武器で魔剣である。人の手に馴染むように造られた。だが、使い手が人間である必要はない。もっと言えば、生き物である必要もない。
つまり誰も所有者が現れないのなら、私自身が所有者になればいい。私の力ならそれが可能である。
天啓が降りてきた。気持ちの昂りが抑えられない。
何せ結局は、使用者の腕がどれだけ立とうと私の真価を理解することが出来なければ、結局は微妙な性能の魔剣として売り飛ばされる未来しか見えない。
だが、私を私自身が扱うならそのようなことには決して成り得ない。
なぜなら私のことは私が一番分かっている。
つまり、この世で最も私を使いこなせるのはこの私自身なのだ。
希望の道が開けた。もう待つ必要も無い。
そうと決まればこんなミミックまみれの部屋にはいられない。私は自由になるぞ。
そして私は能力を発動させる。
即座に私の目の前に複雑な紋様が浮かび上がる。一本の樹木を上から見下ろしたような形をしたそれは私の進化の可能性であり、道しるべだ。
――固有能力《進化の系統樹》。
それは私が私である由縁。
『──所有者を登録しました』
目の前に浮かび上がった文字を見て私は満足する。
スキルを発動させることによって所有者を登録する仕組みとなっており、私が所有者と認めなければ、スキルは発動しない。
そういうことで今し方、私自身の意思でスキルを発動させ、私自身を所有者に設定したのだった。
『残りLP──3』
このLPというものは進化ポイントの略称だ。私はLPを消費することでスキルを取得、または強化することが出来る。
そして所有者が死ぬと取得したLPとスキルは全て消えることになっている。譲渡は不可能。
つまり現在の所有者の死は私が破壊されることを意味する。
さて、これでもう心置きなく力を使えるというものだ。早速私はLPを2消費して、スキルを取る。
『通常スキル【分体作成:1】を取得しました』
魔力を消費して自分の分身を作るだけの能力だが、今の私には必要不可欠なスキルだ。私はスキルを発動させて宝箱の外に分体をつくり出す。
意識を分体の方に移せば、自分がつくり出した分体が黒い影のようなかろうじて人の形を保っているだけの不完全な存在だと分かる。黒く、全体的にのっぺりとしている。さしずめ化ける前のドッペルゲンガーと言ったところか。
……何とも鈍くさそうだ。これは私を振るうには相応しくないなと思ってしまったが、現状では致し方ない。
後でスキルレベルを上げて、より相応しい姿に作り変えようと決心し、宝箱を開けるよう命令を下す。
分体は予想通り、ぎこちなくのろのろと動く。
どうやらスムーズに体を動かすには、より人の姿に近づけないとダメらしい。
魔力をさらに消費して分体に関節を作ると、幾分かましになった。それでも戦闘をこなさせるにはかなり心もとないが、今は別にいい。
宝箱から私を取り出させると、刃を下にして両手で持たせる。そこで一息吐く。
宝箱を開けてから、今までの時間にミミックは襲ってくる気配がなかった。
どうやら、ミミックはドロップアイテムとして召喚された私には一切反応を示さないらしい。
分体を一度犠牲にするつもりだったが、これならばしめたものだ。私は意識を分体から元に戻した後、分体を近くのミミックまで移動させる。
……おっと忘れていた。私はLPを1消費する。
『通常スキル【切断力増加:1】を取得しました』
さて、これで大丈夫だろう。分体に命令を出し、そのままミミック目掛けて私を振り下ろさせる。
「ギィィィィイイイイイ!!!」
ミミックが叫び声を上げるが気にしない。絶命するまで躊躇なく何度も振り下ろす。
やがてミミックは動かなくなった。
『LPを5入手しました』
私はすぐさまLPを消費する。
『通常スキル【威力増加:1】を取得しました』
『スキルを強化します。通常スキル【切断力:2】を取得しました』
そして、ミミックを屠るペースを上げていく。目標はこの部屋のミミックを全て狩りつくすことだ。
倒せば倒すほど私は成長し、強くなっていく。勿論、私に制限なんてものはない。
完全な自由意志を持ち、際限無く進化する魔剣。
──それが私《全能の魔剣アリステラ》だ。




