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ランドゥ家は末っ子が一番ヤバイ

 イケガニア王国とは、巨大な領土を持つ大国である。

 その王国には、有名な公爵家が居る。ランドゥ公爵。ランドゥ公爵とは、国内でも大きな権力を持つ家だ。

 当主であるイグザニ・ランドゥは、この国の宰相にして国内最強の英雄。そう呼ばれている鬼才である。元々戦争で活躍した英雄であるが、勉学にも興味を持った結果宰相になったという人物で、現在は温厚な性格で知られているが、当時を知る者達は絶対に彼に逆らおうとしないのである。

 さて、そんな頭脳明晰で、最強とも名高い男には美しい妻と、五人の子供が居る。美しき妻―――ダーニ・ランドゥは、その美しい見目にも関わらず歴戦の戦士である。

 そしてその二人の子供たちがまた凄い。

 長男であるベラド・ランドゥは精霊として最高位である精霊王と契約を結んでいる。雷属性の最強の王と共に戦うもの。

 長女であるリノア・ランドゥは天性の剣技の才能を持つ。その振るわれる剣は全てを切り裂くといわれている。

 次男であるカイサイ・ランドゥは父親をしのぐ頭脳を持つといわれている。その圧倒的な頭脳を用いてあらゆる魔法具を解析し、使いこなす次代の宰相候補である。

 次女であるキッサ・ランドゥはあらゆる属性の魔法を感覚で使いこなす魔法使いである。その魔力量は国内随一である。

 そして、三男であるノック・ランドゥはといえば、そう言った噂は広まっていない。兄妹の中でただ一人平凡なのではないかと噂されていた。



 そしてただ一人、そういった噂のないノック・ランドゥはランドゥ家にとっての弱点であると周りには認識されている。―――ただし、それはあくまでノック・ランドゥを知らないものの認識である。




 さて、そんな弱点として噂されているノック・ランドゥはその日、ランドゥ家の領地のすぐ隣にある森へと来ていた。齢、十四歳。この国では珍しくもない栗色の髪と、母親から受け継いだ藍色の美しい瞳を持つ少年だ。見た目は他の兄姉たちのように整っているわけでもない。どこにでもまぎれる事が出来そうな、そんな少年だ。

 腰には剣が下げられている。腰に下げられている鞄には、よく使っている魔法具などが入れられている。

 ノック・ランドゥは、単独行動を好んでいる。よくランドゥ家周辺の魔物が出現する地帯に顔をだしたりしている。

 ノックは、今日は何をしようかなどと考えながらもノックの存在に気づいて襲い掛かってくる魔物を剣で両断する。それをその場で解体して、マジックボックスの中へと放り込む。

 眠たそうにノックは大きな欠伸をする。でも、警戒心は一切解いていない。襲ってくる魔物には即座に対処をする。

 ノックは慣れた様子である。こうして領地のすぐそばの森によく来るのだろう。

 さて、いつも通りの日常を過ごしているノックであるが、そんなノックの事を影から見ている集団が居る。それは、ランドゥ家を蹴落とそうと考えている勢力によって手配された者達である。

 ランドゥ家で唯一目立った噂が出回っておらず、それでいて家族から愛されているというランドゥ家の末っ子。その末っ子を人質に出来ることが出来ればランドゥ家を自由に動かす事が出来ると噂している者も多くいるぐらい、末っ子であるノックは家族に可愛がられていた。

「あれが、ランドゥ家の末っ子か」

「一人で出歩くとは不用心な奴だ。あれならすぐにとらえる事が出来るだろう」

 様子を窺いながら、彼らはそんな会話を交わす。ノックの事を捕えるという使命を持っている彼らは口を動かしながらも、ノックの事を用心深く観察している。十四歳の少年相手に、警戒心を一切怠らないのは一流の証であると言えよう。どんな相手であろうとも、警戒を怠れば失敗する可能性もあることを理解しているのだ。

 ノックを捕まえるために彼らが動き出そうとした時、

「あいつ、こっちを見なかったか?」

「気のせいだろう、俺達に気づくわけがない」

「それより、やるぞ」

 一瞬だけ、彼らの方をノックが見たように一人には見えた。だけど、他の者はその可能性を即座に否定する。

 そして、彼らは動き出す。

 ノックへと一人が襲い掛かる。だけど、それでノックが意識を失うことはなかった。

 襲い掛かられ、それを避けたあともノックは焦りを見せていない。自然な様子で、面倒そうに息を吐いて、何かを口にする。

 魔法だ。

 そう襲い掛かったものたちが気づいた時にはもう遅かった。

 炎が舞う。

 一人の体が燃え上がり、その命を散らす。

 ノックは狼狽し始めている彼らに対して、相変わらずの平然とした様子である。

 バックの中から取り出した魔法陣の描かれた石を投げつけ、風の魔法を出現させる。それに対する対処で動けなくなっているものを、長剣で両断する。

「な、ななな……」

 仲間が一瞬にして命を散らされた事に残りの者たちは慌てた様子でノックにとびかかる。

 それに対して、ノックははぁとため息を吐いて、一つの存在を呼び出す。魔力を込め、自身の契約している存在を呼び出す。

「サラーナ」

 呼び出されたのは、炎を思わせる赤い髪を持つ少女———精霊王のすぐ下に位置する高位の精霊であるサラーナ。

 彼女は、ノックの呼びかけにそれはもう嬉しそうに笑みを零す。

「敵を倒したらいいんだね」

 にっこりとほほ笑んだサラーナは、その力を放出した。


 ―――そして、襲い掛かった者達は一人残らず命を散らした。


「これ、またノックの家狙った奴なの?」

「多分」

「ノック、弱くないのにね。寧ろ強いのに」

「兄さん姉さんたちみたいに一番出来るわけではないからな」

 残されたノックとサラーナはそんな会話を交わし、その後はまた森の中で魔物退治を行い、家へと帰宅するのであった。






 ランドゥ家の末っ子、ノック・ランドゥの事を知る者は彼が弱いなどとは間違っても言わない。

「ノック、また襲われたらしい」

「ノックの事を襲うなんて、愚かだわ」

 そんな会話を交わすのは、先ほど帰宅したノックから”また”襲われた事を聞いた長男であるベラド・ランドゥと長女であるリノア・ランドゥである。

 ベラドは美しい真っ白な髪を持つ男だ。美しい見目から彼に対して熱を上げる者は男女問わずに多い。

 リノアは力強い瞳を持つ赤髪の女性だ。大きな胸が特徴的で、その見た目からはとても剣を扱うとは思えないが、剣技の才能は誰よりも持っている。

「ノックの事をどうにか出来るはずもないのににね。あの子、何でも出来るもの」

 ふふっと嬉しそうに笑いながら、リノアはノックの事を語る。

「俺達が一番出来るから噂になってるけど、あいつは全部がいうなれば二番目だからな。ある意味俺達よりやばいだろ」

 上の四人はいうなればそれぞれが特化している。一つの事が一番出来る。そういう存在である。―――だけどノック・ランドゥはいうなればすべてを二番目に出来る少年である。

「精霊王に次ぐ、高位精霊と契約を結んで」

「剣技はリノアの次には出来るだろ?」

「ええ。魔法具の扱いもカイサイの次には出来るわ。少なくとも私や兄様よりもね」

「それで、魔法はキッサほどではないけれども使いこなしているからな」

「ええ。やっぱ私たちの弟凄いわ。兄様も他の二人も剣の打ち合いとか付き合ってくれないのだもの」

「……仕方ないだろ。俺じゃ相手にならない。リノア達だって精霊魔法の話とかあんましてくれないだろ」

「……だって私じゃ相手にならないもの。うん、やっぱりノックは最高ね。私たち全てに付き合ってくれるもの。カイサイも魔法具についての研究をノックとできて楽しそうだし、キッサも私たちには理解出来ない部分をノックに理解してもらえてうれしそうだもの」

 ベラドとリノアが言うとおり、ノックは最高位に次ぐ高位精霊と契約を結び、剣技は剣神の申し子と呼ばれているリノアの次に出来て、魔法具を使いこなす才能もカイサイの次にはあって、魔法は魔神の申し子と呼ばれるキッサの次に使いこなす。

「全てが二番手って、総合して最強ってことだよな。俺、全力のノックに勝てる自信ないし」

「私も、剣ならともかくそれ以外は無理ね」

「やっぱ俺の弟最高だな」

「ええ。私の弟最高だわ。でももちろん兄様やカイサイ、キッサも大好きよ」

「もちろん、俺にとってはリノアもカイサイもキッサも可愛い弟と妹だけどな」

 ベラドとリノアはそんなシスコンブラコンな会話を交わすのだった。

 ―――ノック・ランドゥ。上の四人がそれぞれ一番に出来、それゆえにそればかりが噂されて広まっているが、彼は全てが二番手である。それぞれの分野では兄姉に勝つ事は出来ないが、何でもありでの戦闘ならば彼は最強と名高い兄姉に勝つ事が出来るだろう。



 ―――要するに、知られていない事実だが、ランドゥ家は末っ子が一番ヤバイ。

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