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百鬼の懸想、一鬼の思案

 

「やっとここまで来れた、これで落ち着けるわ……」



 桜が散りだした日の朝、私は、少し明るめの夜明け前のような紺色をしたブレザーを着て「私立陽明高等学校」と書いてある校門の前に立っていた。


 校門には、「入学式」という看板が立てかけてある。

 看板の横で写真を撮っている人がいたり、いかにも高校デビューしました、と顔に書いてあるような人がいたり。

 背が高くて2メートル近くあるのではないかという子もいれば、130センチぐらいしかない子もいる。


 今日は私たちの入学式なのだ。

 全国各地からここを受験した中のほんのひとにぎりが、ここに入学することを許された。

 それには理由があってーー



「あの、すみません、すみません、頭に花びらついてますよ、その、桜の花びら……」



 女の子、至って普通の女の子が話しかけてきた。……あれ? なんか違う、変な気がする。でもそれが何かわからない。

 ここにいる者達とは何かが違うんだけど、なんだろうか。



「あ、あ、あの失礼ひまふっ!」


「へ? は、あ、ありがとう」



 女の子は全力ダッシュで逃げていった。

「ひまふっ」って噛みまくって可愛い。

 あの子はなん(・・)なのかな……?



「そろそろ、体育館に、入場してください。席は自由なので空いているところに座ってください」



 指示をしているのは、高校の先生らしい。スーツを着ている。紺色なのは陽明カラーで揃えてるとかそういうことなのかな。その他の先生らしき人も紺色だ。


 目がたぬきみたいな垂れ目で……って、あ、たぶんそうだ。


 ここで考えていると、周りの人に置いていかれるぞ、あたし。席をさっさと取らないと。

 というわけで、とりあえず思考をストップ。教室に向かうことにした。



 .+*:゜+。.☆.+*:゜+。.☆



「学校長、式辞」


 式典に付き物の、長ったるーいお話だ。

 この学校を作り上げていく者の1人として頑張って下さいだのなんだの。ほんとうに長いなあ。


 暇なので、周りの人を観察して見ることにする。

 あ、さっきの女の子。おどおどしてるなぁ。周りの個性の強そうな見た目からすると、とても普通の人間らしい見た目。


 ふんわりボブカット、いいわねぇ。

 私の髪は直毛すぎてあんなふうにふわっとカール、なんてしてくれないからね。

 腰まで伸ばしているからカールなんて関係ないんですけどね。


 しかし、こうやって見るとこの学校の制服、本当にバリエーションが豊かだね。


 普通の形のブレザーなのだけれど、リボンかネクタイか選べる。色は、学年ごとに違う。私たちの学年は鬼灯色。赤みの強い橙で、ブレザーの紺色に映える色だ。スカート丈は特に決まっていない。女子でもズボンありというのも珍しいのではないかな。いろいろな生徒がいるからね、ここには。


 だから、私やさっきの女の子みたいにただ標準形を着ている生徒もいれば、なかなかとんがった格好を初日からしている生徒もいるわけだ。金髪もいるし、赤髪もいるし,青とかも、いるし。

 青って言っても真っ青なわけじゃなくて、ブルーブラックみたいな感じなんだけどね。


 本当にバラバラ。今揃っているのはブレザーの紺色ぐらいね。



 .+*:゜+。.☆.+*:゜+。.☆


 ほんとに話が長かった。

 ホームルームが癒しになるぐらいにね。時計の長針が半分ぐらい回ってしまったよ。

 学校の最初につきものの自己紹介。話すことがないのだけれど。



「では、自己紹介をしていきましょうねえ。名前、種族、好きなこと、あとなんか一言ぐらいで良いかなあ。出席番号1番からどうぞお」



 担任の先生は、さっきのタレ目の先生。名前は、なんだっけな。

 1番の子は、「ひまふっ」の女の子だ。



「藍澤真美です。種族……? 種族? ほ、ホモ・サピエンスです? これでいいのかな?」


 え、


「「えええええええええ!?」」



 クラス全員が大合唱。本当にバラバラなのにこういうところだけはまとまるのねぇ。


 そうなるのも仕方がないのだけれど。

 ここの学校は、「あやかし」の子供が通う学校なのだ。

 この日本に、普通の人間として暮らしているあやかし達の唯一姿を晒せる場所。今は人間の姿に近い格好でいるけど。


 人間の子が入ることはまずないのだ。

 人間に気づかれてはならない、そうしないと駆逐されてしまうというのは、この世の悲しいところ、集団の中の少ないもの達の宿命なのかもしれないね。



「とするとさ、あの子相当な妖力だぞ。いままで僕気づかなかったし」


「だよなあ、俺も。……かわいいなあ」



「え、どうすれば……とりあえず、うん。好きなことは読書です。よろしくお願いします」



 混乱しつつも、ぺこりとお辞儀する女の子、いえ、真美ちゃん。


 これからあの子大変よ、多分他のクラスから、学年からたくさんの人が見に来る。関わりにくる。


 妖力の多い女の子。


 今この世界で生きるには人化は必要不可欠。それを楽にするのは人間の血を家系に入れるのが一番。でもそこで妖力が小さいと、あやかしとしてだめ。

 だから妖力が強いってのは、狙われるのよね……



「荻原瑛斗です。種族は妖狐ですね、得意なことは……」



 一応他の子も自己紹介をするのだけれど、みんな聞いていない。

 最初にインパクトが大きいことを持ってきてはいけないわねえ。みんな真面目に聞いてない。


 さあ、私の番ね。



「夜沙紅葉よ。種族は鬼。よろしく」



 そう言うと、周りの人はまたまたざわっとした。さっきの真美ちゃんには及ばないけどね。


 鬼は少ない少ないあやかし達の中でもとっても少ないからねえ。この中でも浮くかなぁ。浮くような行動するのが悪いんですけどね。でもどうしてもしちゃうのよね。今の自己紹介もかなりつっけんどん……はあ。



「はい、終わりましたかねえ。私は佐藤永一郎。見たとおり狸ですねえ。一年間このクラスで頑張っていきましょう」



 やっぱり狸だったのね。

 そこは当たっていてよかったわ。



 .+*:゜+。.☆.+*:゜+。.☆



「真美ちゃん、で良いのかしら。私は紅葉。さっき花びらついてるって言ってくれてありがとね」


「ああああ! さっきの方ですね!! あの、私、どうすれば良いんでしょうか。普通の学校だと思って入ったのですれど、いじめがない、いろいろな人がいる高校って聞いて入ったのです。えっと、その、中学でいじめられてたから」



弱く見える女の子はいじめられやすいのかしら。

もしかしたら人間も妖力が強いのを何かが自分たちと違うって気づいたのかもしれないわね。

自分と違うものを虐げる、怖いことよ。



「ここで良いと思うわよ、みんないい人達だと思うから、ね。そうそう、一緒にいてくれないかな、あたし、鬼だから、みんなが近寄ってこないのよね。よろしくしてもいいかな?」


「もちろんです! さっきからみんな私の方見てくるのに、話しかけてこないから怖くて……」


「みんな、話しかけようか迷ってるのよね。中学までは人間と普通にいたけどここにはいないと思ってたから、動揺しちゃってる」


「そうなのですね〜」



話していても本当に普通の子。変な人ばかりのここでは魔力と種族の話を別にしてもかなり目立つわ。



「ねぇ、真美さん、だっけ。僕は荻原瑛斗!良かったら話さない?」


「え、ど、今はちょっと」



 あ、さっきの妖狐。

 銀髪で人が良さそうな顔をしているけど、腹黒そうよねぇ。何考えてるのか。



「あたしが先に話してたのよ〜 ちょっと待ってくれるかな?」


「や、夜沙さん。ちょっと話したかっただけですよ」


「あとじゃだめかな? あたし達、楽しく話してたのにちょっと冷めちゃったじゃない」


 そう言いつつ、ぴっ、と睨みつける。

 こうすればだいたい引き下がるんだけど、そこはさすが陽明高校、全然ね。肝が座ってる。


 「では、また後で話に来るとしましょう。真美さん、また後で」


 「は、はい」


 こういう奴がたくさん来るんだろうなぁ。一応真美ちゃんにも注意しとかないと、だね。


 「真美ちゃん、さっきみたいにあなたにはたくさんの人が関わろうとくっついてくるから。あたしから離れちゃダメだからね」


 「うん。話しかけてくる人、中学の時いなかったからどうやって話せばいいかわかんないから、助かります」



 ちょっとズレてる……? 大丈夫かしらね。

私が、守らなきゃ。この子(人間の娘)はとても男子(あやかし)に好かれるのだから。

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