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どうも、悪役にされた令嬢ですけれど  作者: 奏多


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彼の記憶

 シャーロットの修道院での部屋は、鉄格子の扉で隔てられた反省房にある。

 女性以外との接触を防ぐためだ。もともとは修道院で暴れたり、誰かを傷つけたりした者を一時的に収用しておく場所なので、逃亡防止にも監視にも都合がよかったのだろう。


「ねぇ、出してよ……」


 何度も叫んで暴れたのだろう、疲れ切った声が聞こえた。それでも声を出し続けるあたり、彼女はあきらめが悪いんだろう。


「諦めが悪いのはどちらも同じ、か」


 つい独り言をもらして、案内をしてきた修道女に振り向かれる。


「なんでもありません。入っても?」

「ええ、時間は30分までです。わたくしは、こちらから見守っておりますので」


 修道女は鉄格子の扉を開けると、近くに置いてあった椅子を引き寄せて座った。

 彼女が見守るのは、万が一にもシャーロットが脱走した場合に備えることと、セリアンが激昂してシャーロットを傷つけないためだろう。


「よろしくお願いします」


 セリアンは一礼して、鉄格子の扉の向こうに続く廊下へ踏み出した。

 カツカツという足音に、シャーロットの声が途切れる。


 彼女がいたのは、奥の部屋だった。

 鉄格子になっている扉に、シャーロットはしがみつくようにしてセリアンを見ていた。修道女の黒い長衣を身に着けていたが、血走った目のせいで修道女らしさが欠片もない。


「なんの用よこの悪魔!」

「君に言いたいことを言うために来た、シャーロット・オーリック」


 淡々とセリアンは続けた。


「君はもう二度と、過去に戻ることなどできない。そして君は僕への復讐にこだわったあまりに、大事なマクシミリアン王子とのつながりさえ途切れさせたんだ。残念だったね」

「ど、どういうこと……」

「ちなみに探そうとしても、とある特殊な祝福を持つ商家の奥方は見つからないよ。二度と君は、元へ戻ることさえできない」


 セリアンの言葉を聞いたシャーロットは、声を振るわせた。


「あなた……まさか。あなたも記憶を送ってもらったの!?」

「君に見つけることができた相手を、ディオアール侯爵家が探せないとでも思ったのかな」


 肯定はしなかったが、もちろんシャーロットはこちらの言いたいことを理解できているだろう。


「そんな……そんな」


 絶望の表情を浮かべたシャーロットを見て、セリアンは微笑む。

 彼女はなんとか脱走して、もう一度やり直すつもりだったのだろう。それが不可能だと知った以上、もう彼女に打つ手は何もない。


「君は祝福の力を明かした上で、事を起こしたんだ。修道院から出されることは一生ないよ。そして脱走しても、もう昔に戻ることなどできない。残念だったね」


 セリアンは言うだけ言って、シャーロットの前から立ち去った。

 反省房からは、すすり泣く声と怨嗟の言葉が聞こえたが、綺麗に無視する。


 見張りの修道女に案内されて、大聖堂から出る。

 馬車を待ちながら日の光を照り返す、大聖堂の白い石畳の上に立ち、セリアンはふと思う。


「……どうして彼女は、復讐を先にしようとするんだろうね。結局は僕に潰されて、王子とは別れることになるだけなのに」


 ――前回のセリアンは、リヴィアを失った。

 あの時のリヴィアは、セリアンにとって時々サロンで会える友達であり、珍しくも自分が惹かれた女性でもあった。


 聖職者から一貴族に戻ることが決まった時は、彼女にこれで告白ができると考えた。

 結婚もできない状況で告白しても、彼女の迷惑になってしまうと考えたから、その時を待っていたのだ。

 しかも彼女は、婚約者から別れを一方的に告げられ、評判に傷がついた。結婚相手が見つからないと悩んでいたので、まず間違いなく断られることはないと思っていたのに。


 彼がディオアール侯爵家に戻ったとたんのことだった。

 サロンのレンルード伯爵夫人から「リヴィアさん、急にご結婚されることになって……」と聞いたのは。


 相手は悪名高いマルグレット伯爵。

 しかも何週間も前から結婚の申請を王家に出していたので、セリアンが気づいた時には彼女は伯爵のものになっていた。

 無理に取り返すことはできない。けれど結婚相手が悪すぎる。だから様々な伝手を使って取り戻そうとした。でもその前に、リヴィアは発狂した伯爵に刺し殺されてしまうのだ。


 この時は、まだ何が起こったのかはわからなかった。

 ただセリアンは絶望した。

 誰も娶らないまま、けれど兄の体が回復せずに次期侯爵となった。


 その後、セリアンは隣国にかかわることとなった。

 アレクシア王女の輿入れ先になっていたためだ。王女の結婚相手であるマクシミリアン王子には、親しく交際している女性がいて、その女性を排除するのが、王家から依頼されたセリアンの仕事だった。


 ……王家の守護者の役目は、今でも連綿と受け継がれている。

 毒に精通し、人を密かに殺す技も伝えられた家。分家の者達は配下として暗躍していた。兄は水面下で争われた王家内の跡継ぎ争いの結果、毒を受けて体を壊した。次兄はそうした家のやりかたが性格に合わないからこそ、早々に騎士の道を志したのだ。


 隣国へ入ったセリアンは、すぐにマクシミリアン王子が執心しているシャーロットについて調べ上げた。

 彼女の周囲の人物の動きの異常さから、祝福を持っていることはすぐにわかる。だからといってマクシミリアン王子が操られているかというと、そういうわけではなかった。


 だからシャーロットが心の底からマクシミリアン王子に恋しているのかと思ったのだ。最初は。

 祝福は愛する人には通じない。

 それは高位の聖職者であれば知っていることだ。一時は司祭位にいたセリアンもその知識を持っていた。


 けれど観察してみれば、彼女は恋に恋している様子だ。

 やがて恋に恋するシャーロットを、マクシミリアン王子が言葉巧みに利用していたことがわかる。


 だからセリアンは、彼と交渉することにした。

 隣国は、こちらの王家との関係をどうするつもりなのか、と。アレクシア王女以外の女を側に置き、王女の面目を潰すつもりならば、こちらの王家を軽んじているとみなさなければならない。

 シャーロットを利用したかっただけのマクシミリアン王子は、あっさりと国同士の結びつきの方を選んだ。


 シャーロットの祝福には欠陥が多いのだ。それをわかっていたマクシミリアン王子は、彼女を利用するのも潮時だと思ったのだろう。

 後はシャーロットが教会から破門にされてしまえば終わりだった。

 けれど隣国の枢機卿と一緒にその場に立ち会ったセリアンを見て、シャーロットは言ったのだ。


「また殿下との仲を引き裂くのね、この悪魔! 妻にするはずの女を奪ってやったのに、まだ壊れていないなんて!」


 八つ当たりのように叫ぶシャーロットの言葉から、セリアンは悟った。

 リヴィアを死なせたのは、彼女だということを。

 どうやらシャーロットは、何らかの形で二度目の人生を送っているらしいことも。


 そんな不可思議なことができるのは、祝福を持つ者だけだ。

 セリアンはシャーロットが隔離されたのをいいことに、彼女を尋問して吐かせた。誰のどういう祝福を使って、二度目の人生を送ったのかを。

 そうしてセリアンは、シャーロットが二度と外へ出られないようにしたうえで、その祝福を持つ相手を突き止めて願ったのだ。


 ――自分の記憶を、過去に送ってくれるようにと。



「思い出したのが、けっこう遅かったのは痛かったな」


 記憶を過去に送るにしてもそれが正確にいつになるかはわからない。祝福の持ち主がそう言っていた通り、その点が一番うまくいかなかった。

 幼いうちに今の記憶を受け継ぎたいと思っていたけれど、セリアンが未来の記憶を得たのは、司祭となり、リヴィアと出会った後のことだった。


 すぐさまセリアンは、還俗の手配をした。

 おかげで貴族に戻ることが早くでき、マルグレット伯爵とリヴィアが結婚させられるのを阻止できた。


 その後、シャーロットがどういう手に出るのかがわからなかった。

 しかも直接的にリヴィアに害を及ぼしたわけではなかったので、彼女を潰す方法を模索していたのだ。

 そんな時、セリアンの古巣である教会で聖女として認定させようとしているとわかった。

 おかげで後手には回ったものの、セリアンは自分の人脈を使ってそれを覆すことができたのだ。


 予想外だったのは、リヴィアもまた祝福を持っていることぐらいだ。

 そのおかげで予定よりも早くシャーロットを排除できたのだけど。


「これでたぶん、リヴィアを失う可能性は少なくなった」


 祝福を持っていると知れたおかげで、教会もリヴィアが助けを求めれば保護するはず。

 それでも予想外のことは、いくらでも起こるだろう。でも二度と失わずにいてみせる。

 シャーロットが過去を変えようとする前までは、妻として側にいたのだから、できるはずだ。



 そう誓ったセリアンは、後日とても嬉しいことを知る。

 彼女がセリアンに祝福の力を使えないようなのだ。

 心の中で何度も彼女が好きだと思っていたのに、伝わっていなかったのだから、間違いない。


 婚約したので、これから少しずつ心を傾けてもらおうと思ったけれど、ほしいものは自分の手の中にあったのだ。

 セリアンは満たされた気持ちでリヴィアを抱きしめた。

 恥ずかしがってリヴィアが逃れようとしたけれど、面白いのでわざとそのままでいたことは、彼女には内緒だ。

※質問が複数あったのでこちらで……シャーロットの過去に戻る回数等について。

 シャーロットが一回、その後セリアンが一回です。


・シャーロットがセリアンに恨みを抱き、過去へw

・シャーロット、恨みを晴らすためにリヴィア殺害、その後隣国でセリアンにまたも邪魔される

 (この時はシャーロットは過去に戻れないようにされています)

・セリアンがシャーロットに変えられそうになっている過去へ。(ここからが今回のお話です)


 セリアンが戻ったのは、シャーロットがこれからリヴィアを殺害しようとしていた過去です。

 先にシャーロットが記憶を送ったことは変更できないので、初期状態の過去には戻れません。

 最初の状態に戻るには、シャーロットがもう一度過去に戻って「最初のとおりに行動する」ことが必要になります。

(ちなみに記憶を過去に送る祝福持ちの奥さんは、セリアンの援助で商店ごと転居してもらい、祝福のことを知っている人にも、口外しないようにセリアンが手配しました)


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