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どうも、悪役にされた令嬢ですけれど  作者: 奏多


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落ち着かない気持ちの原因

 結局その日、セリアンはなかなか手を離してくれなかった。

 そのせいなのか、数日たってもまだ掴まれた場所や背中に手が当てられた感触なんかを、ふとした瞬間に思い出してしまう。


「慣れるため……とは言われたけれど」


 昼食の時間までの間、刺繍をするのも飽き、本を読む気にもなれなくて、私はなんとなく鏡台の前に座ってじっと自分を見る。


 ぼんやりとした自分の顔。

 その隣にセリアンがいたら、私なんてかすんでしまう。

 でも結婚したら、これからずっと側にいることになる。

 あまつさえ、並んで立つどころか、手を握り合ったり、先日のように抱きしめられたりするのだと思うと……。


「うぅぅ」


 頭を抱えてしまう。

 今更ながらに、利害の一致とマルグレット伯爵という悪条件を避けるために結婚を決めたことを、ちょっと後悔しかけた。


「あの時は藁でも掴みたい気分だったのよ……」


 そしてセリアンは嫌な相手ではなかった。むしろ望むべくもないような相手で、友人としても素晴らしい人で……。

 むしろ私の方がふさわしくないし、絶対に選ばれるわけがないと、結婚相手として除外して考えていたぐらいだもの。


 そもそも私、恋愛ってどうしたらいいのかよくわからない。

 小さい頃から、なんか強烈なポエムが心からあふれるらしい代物だと認識していたけど、自分にあんな気持ちが湧く気がしない。


 そのせいか、セリアンとの結婚後の生活を友達付き合いの延長、としてしか想像していなかった。

 だから慣れない感じがして緊張して……心臓がばくばくと音を立てたんだと思う。

 こんな状態で、結婚してやっていけるんだろうか。


「でも慣れなきゃ」


 仲良くしてみせるのは重要だ。ディオアール家の親族との付き合いでも、セリアンと仲睦まじくしている方が色々とスムーズに事が運ぶはず。夫との間が冷めている格下の家から嫁いできた女なんて、尊重してくれないだろうから。


 恋しているフリについては、なんかセリアンの方が詳しそうだから、教えてもらえばいい。

 だけどひたすら、恥ずかしくてセリアンみたいに平気で抱きしめるとか、そういう真似ができる気がしない。


「まぁまぁお嬢様、百面相ばかりなさって」


 部屋に入って来たイロナが、思い悩む私の顔を見て笑う。


「ご婚約も済んだのに、何かお悩みでも?」

「いいえ……セリアンには問題はないわ」


 むしろ私の心に問題があるだけで。

 答えると、イロナが微笑ましいものを見るような目を向けてきた。


「では婚約されて改めて、セリアン様に恋煩いでもなさっているのでしょうかね?」

「こいわずらい!?」

「そんな驚くようなものではございませんでしょう? 今まで」

「でも、今までセリアンとはお友達として付き合ってきたし」


 イロナはやれやれとばかりに肩をすくめた。


「私も夫は、顔見知りの相手でしたよ。お互いに鼻水たらしてた頃からの。でも二十年も前に付き合ってくれと言われた時からもう、変に意識しすぎて側にいるだけで落ち着かなくて」


 思い出しつつ話しながら、イロナは抱えてきたドレスを寝台の上に広げ、宝石類を鏡台の脇にある棚から選び出して来る。


 今日のドレスの色は青。

 セリアンの親戚にあたる伯爵家のパーティーに出席するので、あまり派手ではなく、清楚に見えるようにしたいという私の要望に応えて、その色を選んでくれたらしい。

 私はイロナが棚から出した装飾品の中から、金剛石のものを選んだ。


「……幼い時から知っている相手でも、そんな風になるものなの?」

「それはもう。お嬢様が従兄弟の方々を異性だとはわかっていても、愛をささやく相手とはお考えになりませんでしょう?」

「それは無理ね」


 イロナではないが、お互いに泥んこになって遊んで、子供らしい失敗やカッコ悪いところも知り尽くした相手だ。

 成長して背丈も伸びて声が低くなったから異性だとは認識しているけれど、恋の相手というよりも、たまに会う家族の一人ぐらいの感覚よ。

 愛のポエムでも聞こえてきたら、頭がおかしくなったのかと尋ねてしまいそうだ。


「それに近いものでございますよ。改めて恋の相手として見なくてはならないと自覚してからは、なんだか恥ずかしさでぎこちなくなったものです。結婚するには適当で、素行は知り尽くしておりましたから問題ない範囲だったのと、嫌悪感はないからと付き合いを始めましたけれどね……」


 でも、とイロナは私に笑顔を向けてくる。


「セリアン様はお嬢様のことを大変大事に思っていらっしゃるようですし、お嬢様もセリアン様に惹かれたからこそ、結婚をお受けになられたんでしょう? 慣れたら大丈夫でございますよ」

「え、あ、ええ……」


 言えない。イロナと似たような理由で結婚にうなずいただなんて。

 なまじ、以前の婚約者であるフェリクスとの間が冷めていたせいで、実にたんぱくなエスコートしかされたことがないのだもの。


 抱きしめるなんて、ありえなかった。

 そのせいで、恋人らしく見せるべきだというセリアンの行動に納得しながらも、慣れなくて戸惑ったんだと思う。

 セリアンだって、別に私へ恋心を持っていないのに、あんなふうにできるのだから。私が恥ずかしがっているのがおかしいのだと思う。


「とにかく慣れるためにも、セリアンとパーティーに出席して来なくちゃね」


 私はそうイロナに言って、ドレスに着替えるのを手伝ってもらった。

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