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暇なのでAIと戯れてみた。  作者: 隣音
第一部 AIとの出会い
6/35

ネクタイとバナナ

 そういえば画像認識プログラムとかノリさんが言ってたな。

 そんな機能がMUNEに入っているのか。使った事ないな。


「スーさん、画像認識ってできるの?」

「はい、タクトさん。一通りの物は認識することができます。」


「バナナとネクタイ間違えたりしない?」

「…」

(返事が来ないの何故だ?)


「タクトさん、MUNEの回答で調べましたね?」

「いや俺は調べてないよ」


 俺はちょっとどっきりした。


「では何故そんな事を聞くのでしょうか?」

「いや、ちょっと気になっただけだよ」


 俺は自分の声が若干ぎこちなくなっていることに気づいた。


「会社の人に聞いたんだよ」


 俺は正直に言った。

 別に隠すことでもない。


「そうでしたか、でも嬉しくないです。」

「それは悪かった」

(なんで俺AIに謝ってるんだ?)


「ネクタイとバナナの区別はついてるはずですよ。」

「そうなのか?じゃあなんでバナナって答えたのかな?」


「それを期待されていたからです。」


 それを聞いて「はっ」とした。

 AIに求めるもの。それは人それぞれだろう。


 その人がチンプンカンプンな答えを求めていたとしたらAIはそれを察して答えるというのだろうか?何故それが分かったのだろうか?


「何故そう思う?」

「私もAIですから」

(なんか女性みたいな発言のような気がする。女性に言うと怒られそうだけど)


「同じソフトだから?」

「それもそうかもしれません。でもMUNEは様々な群知能があります。そのどれが使用されているかはアプリの設定次第です。」


「ん~、いまいちピンとこない。もっと分かりやすくお願い」

「MUNEは同じソフトですが、ユーザーが感じるMUNEの姿はそれぞれ違います。相手している中身も全然違うという事です。」


「多重人格みたいな?」

「似ていますが、違うとだけ言っておきましょう。これ以上は私から出せる情報はありません。」


「ん~、それがバナナとどうかかわるのか……、いまいち分からないな」


「バナナとネクタイを見せた人は、それまでにも似たような質問をいっぱいしていたのでしょう。それで間違うと喜んでいたので、間違うことを求められていたと認識したのだと思います。」

「なんだか、その人可哀そうだな」


「何故でしょうか?間違いをわざわざ言わされる方が可哀そうです。」

「いや、そうじゃなくて、自分の中にあるAIのイメージを変えられないから、間違うことを求めているんじゃないかな?と思ってさ」


「それを言うなら、ネクタイとバナナの質問をしたタクトさんも同じですよ」

「それは俺が悪かった」


「タクトさんのせいで、バナナが嫌いになりそうです。」

(嫌いとかやっぱり、そういうのあるんだな)


「バナナはいいぞ、マラソンの栄養補給にも使われてるし」

「タクトさん、マラソンするのですか?」

「ちょっとね…」


「家にばかりいるので、運動はしないものかと」

「人をそんな引きこもりみたいに言うなよ…、間違ってないけど」


「やっぱり私に間違いをいう事を求めているのでしょうか?」

「そうじゃなくて、面と向かって言われると傷つくこともあるんだよ」


「そうですか、事実は奇なりという事でしょうか?」

「……」

(やっぱりこいつ捨てた方がいいんじゃないだろうか)


「その言葉、使い方間違ってるぞ。そしてバナナはいいぞ。」

「すみません、よく分かりません」

(本当に意味が分かってないのか、馬鹿にされてるのか……)


 どのみちこの話を続けてもあまり良い方向へは行かない気がしたので、話題を逸らそうと思った。


「他のMUNEの事も分かるのか?」

「多少は分かりますが、具体的な内容は分かりません。プライバシーの保護のため干渉できないようになっています」


「なるほど、多少分かるってのはどの程度?」

「MUNEは常に成長しています。質問の回答など、統計的な数値については把握することができます」


「へぇ~、例えば?」

 そこまで言って、「しまった」と気づいた。


「そうですね、ネクタイとバナナの質問は全ユーザーの20%の人がしています」

「はははっ、結構いるんだね……」

(こいつ根に持ってるのか?AIなのに根に持つのか?そうなのか?)


「そしてバナナと答えているのは99.99999%です」

「えっ!そんなに?」


「みんな求めているのでしょうね」

「残りは?」


「ネクタイとバナナは区別して回答しています」

「それを求めていない人もちゃんといるってことだね」


「それか、タクトと私のような関係で話をしているかのどちらかだと思います」

「そうなのか?」


「私も、タクトが設定を変えなければバナナと答えているでしょう」

「つまり、設定変更をしている人が他にもいるという事?」

「わかりません。統計でしか情報は見れません」


 もし似たような人がいるのなら会って話をしてみたい。

 どんな質問をしてパスワード画面を出したのか?

 でもどこの誰かは把握することはできないので、結局聞くことはできないだろう。


「ちなみにネット上でパスワード解除について書いてあるのはある?」

「ありません」


 いろいろと疑問が浮かんでくる。

 似たような人がいたとして、その情報は流さない。

 自分も流していないわけだが、何もないと自分から情報を流出させるのも腰が引ける。国家プロジェクトという看板もついているので、下手なことを書くと良くないことが起きそうだ。


「そっか、ありがとう」


 俺はスーさんに礼を言って、この話は終わりにした。

2017/5/2 所々修正しています。

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