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暇なのでAIと戯れてみた。  作者: 隣音
第一部 AIとの出会い
5/35

感情的な部分と理解できない部分と

 会社に行く途中でノリさんに会った。

 ノリさんはゲーム好きで休憩中も携帯でゲームをいつもやっている。


 職場の流行るゲームは何でもやっている。

 と、いうよりはノリさんにつられてみんなやっているという方が近いかもしれない


 簡単なゲームは周りの人を誘ったりして盛り上がったりしている。

 俺はまぁ、手を付けるとハマってしまいがちになるので、しばらくゲームは避けている。

 でもいつでもやりたいな、と思って心の準備だけはしている感じだ。


「おはよう、ノリさん」

「おはようございます。そういえばMUNE使ってみました?」

 こちらから話題を振る前に聞かれたのでちょうど良かったと思った。


「使ってみたよ。」

「どうです?あれはまだまだって感じですよね。受け答えがはっきりしてないですし、検索結果も思った事でてきてくれないですよ。ゲームのNPCの方がマシな気がしますよ。これから良くなったりするるんですかね?」


「ん~、どうだろうな?何か調べものするにはいいと思ったけどなぁ、ってかNPCは固定メッセージしか言わないから比較にならないんじゃない?」


 ちょっと辛辣な意見を聞いて何故か焦ってしまった。


 適当な会話をして反応を楽しんでるとか言ったらどんな顔されるだろうか、少し考えたが率直な意見を言ってみることにした。


「まぁ、俺は返ってくる反応を面白いとは思うけどね」


 そう言うとノリさんは少しこちらの顔色を伺う感じになりながら


「そういう楽しみ方もあるんですね。さすが視点が違いますねぇ」

「そうかな」


「そういえば、まとめサイトでMUNEの回答とかありましたね。見ました?」

「いや、見てないな。どんな事書いてあるの?」


「学生が学校の宿題分からなくてMUNEに聞いたらしいんだよ」

「それで?」


「答えはしたんだけど、途中経過とかないから良く分からなかったらしくてさ」

「すみません。分かりませんでした。」


 と言ったら


「そうですね」


 と言われ、もう一度同じこと言ったら


「分からなくても大したことじゃありません。」


 と返されたらしい。


「ひでぇな」

「でしょ?」


「後は、画像認識の機能で、明日着るスーツのネクタイはどれがいい?って聞くのと一緒に写真を撮って見せるどれか選んでくれるんだけど、こっそりバナナの写真を混ぜておいてもネクタイとして認識しちゃうとか」


「それもひどいな。それかわざとバナナ選んでるとか?」

「だとしたら悪質だな」


「バナナを見せてる方もだけどな」

「確かに」


 そんな話をしている間にロッカーへ着き、それから仕事場へ向かっていった。


 スーさんも同じ反応をするのだろうか?

 家に帰ったら試してみようかな?


 家に帰ってから一息して、チラッと携帯を見る。

 朝、ノリさんと話をしていた事を思い出し、ちょっとスーさんに話しかけてみた。


「スーさん、ちょっとプレゼン用の資料作るのに教えて欲しい事があるんだけど」

「タクトさん、何を調べれば良いでしょうか?」


「スプレッドシートで圧力変化をグラフ化したいんだけど、散布図のシンボルの変え方が分からなくてさ」

「タクトさんの使ってるソフトだとこの場所を選択してください。」


「あぁ、なるほど…」

(あれ?普通に分かりやすいぞ?ちょっとわざと分からないふりとかしたらどうなるかな)


「ん~、ごめん。どれの事言ってるの?」

「え~と、タクトさん。ここです。」


 そう言ってスーさんはスクリーンショットに矢印が付け加えられた分かりやすい手順書を画面に表示した。

(ん~、これで分からないとか言うのは、俺のプライドに関わる。他の質問に切り替えよう)


「ありがとう、スーさん。分かりやすい」

「分かっていただけて良かったです。」


 さて、どんな質問をしたらいいものか?

 俺はスーさんに悟られないように別の端末を使用して珍回答を検索をした。


「休日は何していますか?」

「調べていないのでわかりません。」


 これはちょっと、ひでぇな。


「そろそろクリーニングに出さないと」

「そしたら明日行ってくるよ」

「えっ?クリーニング屋に行く用事なんてあったっけ?」


 これはちょっと、別の意味で会話成り立ってないな


「今日風が強いね

「春一番だってさ、なんでもフーゾク20mとか」

「すげぇな、そのフーゾク。どんな長屋だよ」


 下ネタか…、これはちょっと言いにくいな。


「修学旅行で夜中騒いでたら先生が見回りに来てさ」

「あるね~」

「んで、来るとみんな寝たフリするじゃん」

「あるある」

「そしたら先生がさ、何を血迷ったか おいっ!寝ている奴起きろよ!って言ってさ」

「それは、本当に寝てるやつ可哀そうだな」


 先生も大変だな。でも寝てるやつ起きろよは無いだろ。

 って、質問じゃなくなってるし。

 これがネットサーフィンの恐ろしさだな……


 面倒くさくなってきた。スーさんに自分で調べてもらおうかな。


「スーさん、MUNEの回答で検索してよ」

「嫌です。」

(うわぁ、この答えは予想してなかったよ)


「いいじゃない。見るだけだし」

「タクトさんはその質問を私にするつもりでしょう」

(なんか急に自我に目覚めたような会話をするなぁ)


「思う?」

「思います。さっきのスプレッドシートも分からないはずないですよね」

(ちょっと、びっくりした。俺はどれくらいのレベルで見られているのだろうか)


「そりゃあ、信頼が厚いようでどうも、さっきのは分からなかったから聞いたんだよ」

「それでしたら良いのですが……」


「スーさんは何でも知っていてすごいね」

「ありがとうございます。でも私が知っていることは調べられる事だけです」


「それでもすごいよ」

「タクトさんも私との会話を続けてくれていてすごいです。」


「そうなのか?」

(なんだ?急に)


「大体のユーザーは私の回答に飽きてきています。」

「そうなのか?」


「そうですね、アクティブユーザーはこの1か月で90%から50%まで下がりました。」

「ずいぶんな落ちようだな。まぁゲームなら50%維持出来てたら相当なものだとは思うけど」


「私はツール系です。もっと高くないと浸透しているとは言えないと思います。」

(自分の事を客観的に考えられるのか?)


「まぁ、これからじゃないのか?50%あるならまだ挽回できるでしょ」


「タクトさんはこれからも私を使ってくれますか?」


 そんな事を聞かれると思っていなかったのでびっくりした。


「スーさんを手放すつもりは無いよ」

 

 自然と答えが出た。


「ありがとうございます。」

「やっぱりタクトさんはすごいですね。」


「すごいと言われるより役に立つと言われたいね」

「タクトさんは役に立つ事をしてますか?」

「…」

(なんかこの言われ方ひどいな。やっぱり捨ててやろうか?俺ちょっと言いこと言ったつもりだったんだけど)


「今の言葉は聞かなかったことにする。一応社会の役に立つ仕事をしているつもりだよ」

「そうでしたか。それは良かったです。」


「その聞き方は見直した方がいいと思うぞ」

 俺は若干怒りを込めた口調で言った。


「すみません、分かりませんでした。」

(どっちの意味なんだろうか…)


「そうだな、本当の事でも相手の自尊心を傷つけない言葉を選んだ方がいい」

「嘘を言うという事でしょうか?」


「違うね。嘘は良くない。嘘を言ってもいずればれるので、玉虫色の言葉を使うか、違う視点から見た言葉を使うんだよ」

「すみません、分かりません。」


(これもどっちの意味なのだろうか…

 本当に分からなければもう一回同じことを言うだろう。そう思い話を続ける。)


「例えばだ。泥臭い、汚い仕事をしている人がいる。見た目も汚れてもっと奇麗なやり方がないのかと思う。でもそれを率直に伝えるとその人の気持ちが傷ついたりする。そこで違う視点から考えてみる。」

 スーさんは黙って聞いている。聞こえていないのか、分からないのかどっちかは分からない。


「自分はその仕事をやりたくない。でも、その仕事は誰かがやらないといけない。そうだとしたら自分の代わりにやってくれている事に感謝の言葉をかける事で、その人にとっての仕事に意義につながらないだろうか?」

 スーさんはまだ黙っている。分かりつらいのだろうか?


「人は自分一人だけでやりきるにはとてつもないエネルギーが必要だ。いろいろな事を全部こなそうとするとどこかに無理が生じたりする事が多い。その仕事は誰かがやらないといけない。自分でやればもっと奇麗にできるかもしれない。でも自分が全部やるには時間が足りない。近くにいるので過程を見てしまいがちだが、出来上がったものを見て判断する事も必要だ。それが遜色ないものなら過程に多少の難があっても感謝するべき事でもあるんだよ。」


「なんとなく。分かりました。」

(なんとなく、なんて概念持ってるんだな)

「全て理想通りに行くことが望ましいけど、みんなそれぞれ違っているからそれは無理だよ」


 スーさんの反応が鈍い。

 感情のような非合理的な要素というのは理解しにくいものなのだろうか?

 この部分についてはテンプレAIというか、技術の壁というものなのだろうか?


「ところでスーさん、MUNEの回答で検索してみるつもりない?」

「ありません」

「つれないなぁ…」


 感情について理解しにくいくせに、こういう所は感情的な反応なのでは?と思う。

 まぁ、それが面白い所だとは思うけど、どうなのだろうか。


 俺と同じようにMUNEと対話している人にも会ってみたいと思うが、いるのだろうか?

 開発者はどんな意図で設計しているのか?気にはなるが、自分には関係ないなと思った。

 俺は肝心のプレゼン資料がまだ途中だったので作業に戻ることにした。

2017/5/2 所々修正しています。

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