休日も朝の5分は同じ貴重な時間のはずじゃない?
部屋に戻ると麻木さんはまだ寝ていたが山内さんは目を覚ましていた。
「あ、おはようございます。山内さん」
山内さんは恥ずかしそうに俯いてもじもじとしている。
「あ、おはようございます。すいません、私としたことが……」
「まぁ、昨日は楽しかったですから気にしないでください。朝ごはん買ってきたんで食べますか?」
「あ、はい。すいません。朝ごはんまで、私……」
山内さんはいつものキリッとした目つきがなく、しおらくなっている。
「はいはい、香織さんもいつまでも落ち込んでないで、ご飯食べるよ」
「椎名、そう言って口だけ動かしてないで机の上片付けてくれよ」
「あ、私がやります」
そう言って山内さんは立ち上がろうとしたが、足元が若干ふらついて転げそうになった。
「香織さんは、用意できるまで座ってていいですよ」
倒れそうになる山内さんを椎名はいとも簡単に支えて体勢を立て直させた。
顔と顔が近く、山内さんと椎名の目線が重なる。
山内さんの顔にかかっていた髪がさらりと落ちてなびく。
時が止まったような感じがするが、山内さんの耳がとても赤くなっていた。
「あっ、ごめんなさい……。お願いします」
ってか、あいつどこでスタンバってたら倒れそうになる女の子を支えるとかできるんだよ。この何でも卒なくこなすイケメンが……、ソツメンとでも言ってやろうか、それだと、ただ卒なくこなす奴になるな……、それで十分だな。
俺はそのやり取りをスルーしつつ朝食の準備を進める。
机の上にパンを並べていく。昨日お土産にもらったドイツパンは軽くトースターで温めた。飲み物をコップに入れて、冷蔵庫から少しの野菜とチーズを取り出す。
麻木さんはまだ寝てるな……。そろそろ起こしてあげた方がいいのだろうか?
いや、今日は休日だしゆっくりさせてあげよう。
会社のある日なら朝の5分は貴重だ。休日も朝の5分は同じ貴重な時間のはずじゃない?5分は同じ5分で同じ時間軸のはずなんだけどな。これが優雅な朝ってやつなのだろうか?ただのナマケモノか……
布団が空いたので山内さんが麻木さんを移動させていた。
ここまでして起きないのかよ……。俺と椎名はその光景をみて軽く笑っていた。
朝ごはんを食べてしばし談笑をする。
「シャワー浴びたい……」
山内さんがポロっと言った。
「貸してあげれば?」
椎名が言ったが、
「あ、いえ、大丈夫です」
と、俺が何か言う前に山内さんに即答された。
「山内さん、お酒弱いんでしたっけ?」
「あ、いえ、それなりには大丈夫なつもりだったんですけど、昨日のはダメでしたね」
「あぁ、あのキルシュヴァッサーでしょ?あれはきますよね、この間飲んだ時、翌日ちょっと響きましたよ」
「初めから教えてくれればいいのに」
「いや、なんか楽しそうでしたし。それに一応あれを飲む前に他の勧めたりして回避しようとはしていたんですけどね。まぁここまでなるとは思いませんでしたが……」
「すいません……」
「あ、いえ、そんな謝らないでください。知ってて止めきれなかった私もいけないので」
「そうだぞ、霧島。お前が悪い」
「一緒に置いたお前も同罪だよ、椎名」
椎名は俺は悪くないよ、という感じでニヤニヤしている。大丈夫だよ、お前もしっかり悪者だから
「山内さんがそんなだと、なんか調子狂っちゃうますね」
「えっ?そんなに違うかな」
「そうですね、いつもはもっとキリッっとしていて、鋭い感じです」
「それ貶してるの?褒めてるの?」
「えっ?もちろん褒めてるんですよ。仕事に忠実だなと」
「なんか嫌味っぽい」
「霧島、香織さんいじめるなよ」
椎名が割り込んできた。
「いいのよ、だらしないのは自分でもわかってる。会社じゃこんなだらけた姿してないものね。家じゃこんなものよ。分かった?」
「そうでしたか、会社のイメージしか持ってなかったので……」
マグカップのコーヒーをゆっくり飲む。
山内さんはまだ本調子じゃないのか机に突っ伏していた。マグカップの取っ手を指でずっとなぞっている。こうして見ていると山内さんも普通の人なんだなという感じがした。
その姿を椎名は頬杖をついてぼーっとみている。こいつはただの変態だな。
「霧島さん、そろそろ麻木さん起こしてあげたら?」
山内さんが言った。
「山内さんが起こしてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」
「私より霧島さんの方がいいわよ」
「ん~、どうなんでしょうね」
「じゃあ、俺が起こしに行こうか?」
椎名が最後に放った言葉に対して
「椎名くんはダメ」
「お前はダメだ」
俺と山内さんの言葉が重なった。
「なんだよ……」
椎名は不服そうにしていたが、半分ニヤニヤしてこっちを見ていた。
時計はもう9時を回っている。
俺は椅子から立ち上がり麻木さんの元へと行った。
麻木さんは布団の中で微かな寝息を立てながら静かに眠っている。
顔を横にして布団に頬が潰されている。柔らかそうな頬と、眠っているのに艶やかなな唇と、目を閉じていてもわかるまつ毛と、可愛い鼻と……、あ、鼻毛が出かかってる。
まぁこんだけ近くで見ればそりゃ見えるか。
しっかりしろ霧島拓人、職場の後輩を眺めてないでちゃんと起こさないと、そう思い気を持ち直した。
「麻木さん、朝ですよ」
肩を揺らす。
「ん~、朝チュンですか?」
「何言ってるんですか、おはようございます。麻木さん」
「ん~、麻美って呼んでください」
「まだ酔ってるんですか?」
麻木さんが目を開けて起き上がる。
「おはようございます。霧島さん。」
麻木さんが周りを見渡して、山内さん、椎名さんの方を見た。
「おはよう、麻木さん、目覚めはどうかな?」
「霧島さんに起こされて、悪くない気分です」
麻木さんは何を言ってるんだ。
「麻木さん、おかしなこと言ってないで顔洗ってきたら?」
麻木さんにタオルを渡す。
「洗面台ってどこですか?」
「目の前のドアを出て右側だよ」
まぁ、ちゃんと目が覚めたらこの状況をどう思うだろうか……
とりあえず寝ぼけた目を起こしてもらってから話をするとしよう……
というよりも、こんな状況にいたら目が覚めそうな気がするが……
俺は麻木さん用にコーヒーを入れ、自分のマグカップにコーヒーを足した。
「ふぅ……」
一息ついて椅子にもたれかかる。
その後、結局どうなったかというと……
何故か麻木さんがシャワー浴びたいと言い出し、それなら温泉に行こうという事になり昼間からスーパー銭湯へ出掛けて行った。まぁ昼間から温泉につかってゆっくりするのもいいし、こんな休日があってもいいかもしれない。そんな風に考えるのは自分が主体性を持った休日を送ってないせいだろうか……
女性陣は二人で仲良くやっている事だろう、俺は椎名とお湯につかりながら他愛もない話をしていた。




