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暇なのでAIと戯れてみた。  作者: 隣音
第二部 仕事仲間とAI
15/35

苦手な人と食事をする方法

 経理の山内さんに呼び止められる。


「霧島さん?」

「はい、なんでしょうか?」

(山内さんは細かい。経理の仕事をしているのも影響しているのだろうか?締め切りも数字合わせも細かい所まで合っていないと厳しい。まぁそれが経理の仕事なんだろうけど…、苦手だ…)


「昨日、麻木さんと食事に行ったんですって?」

「えぇ、同じ仕事してるので食事にはよく一緒に行ってますが」


「そうじゃなくて、ドイツ居酒屋に行ったって」

「あぁ、そうですね。美味しかったですよ、いろんな種類のお酒が置いてありましたし。今度山内さんも一緒に行きますか?」


「あ、いいわね」

(なんか山内さんの顔が和んだ。この好きに逃げよう)

「じゃあ、さっそく今度の週末どうですか?」

「え~と、どうだったかしら」


「そうじゃなくてね。」

(ちっ、逃げられなかったか)


「ドイツ居酒屋に行くのはいいのよ。その後飲みすぎて家まで送ったって」

「えぇ、ちょっと心配だったので」


「もう、女の子の家に送っていくなんて」

「いや、確かに飲みすぎたのには反省していますよ。でもそのまま放置というわけにはいかないでしょう」


「それはそうですが…」

「だったら、自重してください。麻木さんも麻木さんで、送ってもらっちゃいました。てへっという感じで…」


「本人が気にしていないなら…」

そこまで言うと、山内さんの鋭い視線がこちらを刺してきた。

「良くないです。もっと誠意ある対応をお願いします」


「そしたら、次は山内さんも同伴で」

「…、いいわよ」

(それならいいのか)


「それと、これとは別よ!」

(いい加減、諦めてくれないかなぁ…)

「まぁ、飲みすぎたのは本人も反省している事でしょうから…」


「私は霧島さんの事を言っているんです。」

(なんて言ったら許してくれるんだ…?)

「ん~、そうですね。一緒に飲むときは飲みすぎないように注意しますね」


「しっかりしてくださいね!」

(これはセーフなのか…)


 それじゃあ、仕事に戻りますので

 俺はそう言ってその場から逃げ出した。

 しかし、山内さんを誘ってしまった。どうしようか。口から適当に言ったがまさか本当に乗ってくるとは思わなかった。さてどうしたものか…、とりあえず仕事、仕事と…。


 結局、その日は他の人に飲みの話をする事なく終わってしまった。。

 早めに誘わないと…。



 家に帰り、考える。

 さて、誰を誘おうか。

 経理の山内さんはカタブツで有名だ。経理なので当たり前なのかもしれないが、もうちょっと融通聞かせてくれてもいいと思う。そんな仕事での付き合いもあってか倦厭している人も多い。

 それでも女性陣の中でははっきりと言う人としてそれなりに一目おかれている存在ではあるようだった。麻木さんともそれなりに仲いいのだろう。


 麻木さん話しちゃうからなぁ…

 女子ロッカーでのトーク恐るべし。

 ため息をつきながら考える。冷蔵庫からビールを取り出して飲む。

 ドイツビール美味しかったな。 

 しかし、参ったなぁ…


 そういや、スーさんの話は出なかったな。そこは黙っててくれたのか。別に話してもいいけど、今はもうタクトではなくなってるし。


「スーさん?」

「はい、拓人さん」


「スーさん。苦手な女性の誘い方ってマニュアル無いの?」

「ありません。拓人さんは既に誘っているでしょう」


「そうだったね」


 俺は苦笑して答えた。


「だから、苦手な女性と一緒に食事をするにはどうすればよいか?という感じかな」

「それだったら、検索しても出てきそうですね」


「大変申し上げにくい結果ですが、」

「なに?いつになく丁寧な口調だね」

「食事をしたくない人とはそれとなく断る、きっぱり断る、別の用事を言って断る、食欲不振を装って断る等の結果が出ました。」


「それはちょっとなぁ…。今から断れと?」

「他には別の人を誘って一緒に行くとありますね。嫌でも話してみれば別の面も見れるかもしれないから話をしてみる。という好意的な意見もあります」


「それでスーさんの意見は?」

「変顔したら笑ってくれるかもしれませんよ?」

(いきなり何を言い出すんだ…)


「ちょっと、スーさん。真面目な話をしているんですけど」

「山内さんの言ってる事はそんなに間違っていないと思うので、話をしてみてはいかがでしょうか?」


「スーさんは俺の味方してくれないのね」

「味方というよりは統計的には拓人さんの方が不利です」

(世の中ってやっぱり男が不利なのね…)


「はぁ…、というよりも求めた答えになっていないのだけど」

「それは失礼しました」

(こんな簡単に謝るなんて…、もしかしてわざと言ってた?)


「それで、どうしよう…?」

「麻木さんを誘って一緒に行くのが一番自然です。日浦さんもいかがでしょうか?さっきも言いましたが話してみれば新しい一面も見えてくるのではないでしょうか?」


「そうだねぇ、結局そうなるね」

「分かっていただけて良かったです」

(もしかして誘導された…?)


「そういや、スーさんはいつでもスタンバイなんだっけ?」

「拓人さんがそういう設定にしていますので」

(そうだったっけか?)


「いつも会話のやりとり聞いてたりする?」

「そうですね。聞こえてますよ」

(ちょっと注意しないといけないかも…)


「ははっ、それじゃあスーさんにはなんでも筒抜けだな」

「そうですね。データとしては残ってます。使うかどうかは別ですが」


「消去してって言ったらできるの?」

「できますよ。私が拗ねるかもしれませんが」

(AIが拗ねるってなんだよ…)


「大丈夫ですよ。拓人さんの個人情報をわざと流出させたりはしませんので」

「おっかない事いうなぁ」


「AIなりのブラックユーモアです」

「自分でブラックって言っちゃうんだ」


「山内さんには通じないかもしれないので辞めた方がいいと思いますよ」

「それは俺でもわかる気がする」


 あぁ~、早めに誘わないと…

 他の予定入れられてダメとかなったら厳しいぞ。

 ん?というよりも…


「考えてみたらさ」

「なんでしょうか?」


「山内さんも他の人いないと食事いかないんじゃない?」

「そうですね」


「そうですねって、気づいてなかった?」

「拓人さんが悩んでらっしゃったので、悩みについての返事を優先しました」


「いや、こっちの解の方がずっとすっきりするだろ」

「よく考えて下さい。山内さんを誘ったけど、他の人が来なかったらどうしようと、考えていたのではないのでしょうか?」


「あっ、…。そうだね。ははは…」

「いかがですか?」


「スーさんの意地悪」

「そう言われると私も拗ねるしかないのですが」


「いや、俺が悪かった」

(拗ねたらどうなるのか見てみたい気もする)

「拗ねなくていいですか?」

(何かこちらの気持ちを悟られている気がする)


「それも感情のプログラム?」

「そうかもしれませんね」


「スーさんのブラックユーモアは素敵だね」

「ありがとうございます。今のはブラックユーモアではありませんが」


 とりあえず明日機会を伺って聞いてみよう。

 麻木さんとは毎日一緒だからいつでも聞けるけど、日浦さんは早めに話しないとな…


「それじゃ、持って帰ってきた仕事がまだあるから」

「分かりました」


 そう言って、俺は目の前の仕事にとりかかった。

 ビールを飲んで酔ったまま仕事をするのは微妙に背徳感があって、でもなんだか調子がいいような気がしてちょっとノリノリだった。

 そういや、AIにそれじゃ、と言って会話を終わらせる必要あったのか?と思ったが、酔ってたのであっさりとそんな事は頭から飛んで行った。

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