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暇なのでAIと戯れてみた。  作者: 隣音
第二部 仕事仲間とAI
13/35

塩鮭 と しーちゃん

 会社に着いてメールのチェックを始める。

 始業時間ぎりぎりになって麻木さんが入ってくるのが見えた。


「おはようございます」

「おっ、来たね」

(急いでやってきたのか、髪の毛にアホ毛が混ざってる。)


「昨日はありがとうございました。しかも朝、電話で起こしてもらっちゃって」

「いやいや、気にしないで。たまには先輩らしいことしないとね」


 麻木さんは軽く頭を下げた後、自分の席へ行く。端末を操作しながら髪の毛を手串で直していた。


「おっ、おはよう、霧島くん。昨日はどうだったんだい?」

「日浦さん、おはようございます」


「ドイツ居酒屋おいしかったですよ。見たこと無いメニューもいっぱいでしたけど」

「そうかぁ、いいなぁ」


「日浦さんも今度行きましょう。ゲッテの愛したビールとか美味しかったですよ。他にもいっぱい種類ありました。」

「ゲッテの愛したビール?」


「なんか興味湧きませんか?」

「いや、気にはなるけど、ゲッテって詩人でしょ?」


「言われてみると、確かに……。でも美味しかったですよ。他にも飲んでないビールあったからまた行きたいですね。」

「次はいけるといいなぁ、嫁さんの許可を取らないとね。前もって言っておかないと」


「そうですね。誘う時は早めにしますね」

「ご飯作っておいて、今日はいらないとか、それは寂しいからねぇ。頼むよ」



 仕事を始める。麻木さんは昨晩の事は無かったかのように元気だった。

 でもポンコツさは変わらずで……


「麻木さん、前に言っていたと思うけど、10時から取引先のF社が来て打ち合わせするから部屋に資料用意しておいて貰っていいかな?」

「分かりました。B会議室でいいですか?」


「いや、B会議室は改装中だから他の所でお願いできるかな?」

「あっ、はい。そうでした。え~と、ちょっと大きいですがA商談室が空いていますので、そこにしますね。A商談室は朝礼で研修用に使うって言ってなかったっけ?」


「あれ!あぁ!そうでした。ちゃんと予約に入れておいて欲しいですね」

「ん?」


 予約票を確認する。


「ちゃんと入ってるよ」

「えっ?なんで?あっ、昨日出したまま更新してませんでした」


「はははっ、毎日閉じて朝開き直した方がいいんじゃないかな?」

「すいません。C会議室は大丈夫なのでそっちにします!」

「よろしくね。資料もよろしくね。4人で来るって言ってたから」


 麻木さんは若くて元気ではつらつと喋る。めげないでいつも笑顔をしているので中身をよく知らない人には人気が高い。取引先と話をしている時も物怖じせずに答えるので、そういう面では一緒に取引先と話をしていても安心できる部分はあった。ただ、うっかり間違った事を言わないかはいつもハラハラしていたが……


「そろそろご飯にしようか」

「そうですね。今日は外食にしませんか?今日は寝坊しちゃってお弁当無いので」


「そっか。じゃあB丸堂に行かない?」

「いいですね」


「もう出ますか?」

「こっちはいつでも行けるよ」


「すぐ用意します」


 B丸堂はいわゆる定食屋さんだ。

 ここの近辺では手頃な値段で味も美味しくすぐに出てくるためサラリーマン達には人気の店だった。


「結構混んでますね」

「まぁ、人はいるけどみんなすぐに出ていくから回転は早いよ」


「そういえば、麻木さんもAI入れたいって昨日言ってたね。」

「そうですね。スーさん以外で」


「はははっ、スーさん嫌われちゃったか?」

「いえ、嫌いではないですけど。なんとなく霧島さんのサポートとして対抗してるだけです」

(あぁ、そういう事なのか。)


「そしたらさ、FECTっていうAIが公開されてるみたいだからどうかな?」

「FECTですか?」


「そうそう、大学の研究室で開発されてるのが公開されてるんだ」

「じゃあ、それにします」


「決断早いな」

「霧島さんが探してくれましたので、大丈夫でしょう」

(スーさんに頼んだとか言えないな…)


「そっか、じゃあアドレス送るから」


 そう話している間に食事が運ばれてきた。

 俺はカツ煮定食、麻木さんは塩鮭定食を頼んでいる。


「カツ煮おいしそうですね」

「思ったよりボリュームあるね」


「鮭もおいしそうじゃない」


 そう言うと、麻木さんはにっこり笑った。

 そして、「FECT入れましたよ」と言った。


「早っ!もういれたの?」

「はい。これで設定完了。しーちゃんよろしくね」


「はい、麻美さん。よろしくお願いします」

「しーちゃん?」


「はい、塩鮭食べてるときにインストールしたのでしーちゃんで」

「なんかAI可哀そうだな」


「それで目の前にいる人が霧島さんだよ。覚えておいてね、しーちゃん」

「はい、よろしくお願いします。霧島さん」


「あっ、あぁ、えと、よろしく。しーさん」


 急に携帯の画面を前に見せられて少し鈍い反応をしてしまった。


「霧島さんはスーさんの名前はどうやって付けたんですか?」

「ん…?なんだったけな」

("すだちうどん"からとったとか言えないな……)


「もう忘れちゃったよ」

「それ回答はずるいですね。でも忘れちゃうなんてスーさん可哀そうですね」


「大丈夫、ちゃんと覚えてるから」

「えっ!覚えてるんですか、やっぱずるいです」


「まぁ、スーさんとの内緒ってことで」

「なんですか?それ?そういえばカタカナでタクトさんって呼ばせてましたよね。若干キモイのでちゃんと漢字の方が良いですよ」


 麻木さんの視線が幾ばくか冷たい。


「しゃべってばっかで、早く食べないと、置いてくよ」

「あぁ、待ってください」

 

 麻木さんは慌てて箸を進める。

 でも結局普通のスピードでご飯を食べて、店を後にした。

 麻木さんの行動力は短絡的とも言えるかもしれないがすごいと思う。

 その決断力は尊敬できるような気がする。


「さて、午後も仕事はいっぱいあるよ」

「張り切って、いきましょう」

(半分、あなたが仕事増やしてるんだけどね…)


「何笑ってるんですか?」

「なんでもないよ。午後も頑張っていこう!」


「ちょっと、霧島さん、なんですか、もう」

「別に何でもないって」

「あぁ~、もう。一人だけ笑ってるなんてずるいですよ。何があったんですか?」


 麻木さんはこっちの笑いを不満そうにしていたが、言ったらダメだろう。

 笑ったまま会社へ戻っていった。

2017/5/2 所々修正しています。

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