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#73 生の代償

予約投稿したつもりができてませんでした…

ちょっと遅れて申し訳ありません。

 救出した冒険者と共にダンジョン内を引き返すグエインたちは、先ほどのT字路へと辿りつこうとしていた。

 曲線を描く通路を超えると、先頭を進むアリーシャの視界へとT字路が映る。通路の先を確認した彼女の表情が険しいものへと変わる。


「T字路の奥に新種の群れ! 数は10体!」

「クソッ、ここまで来て新種の群れかよ!」

「グエイン! どうする、このまま進むか?」


 アリーシャの後ろへと続くメンバーもそれを確認する。煌びやかな武具と黒い甲殻を纏ったアントレディアの群れは、T字路の奥から彼らの方へと向かって進んでいた。

 剣や槍、弓の他に杖を持ち、武装したアントレディアの中にはオリハルコンの剣を持った上位個体も一体含まれている。


 救出した冒険者の話では、先ほどの小部屋の先にもアントレディアの集団がいたはずである。

 このまま来た道を引き返し、遠回りのルートで出口を目指した場合は挟み撃ちにされてしまう可能性もある。もしも前後を挟まれてしまえば勝ち目はないだろう。

 しかし、正面のアントレディアたちとこのままぶつかれば、T字路の中央付近で戦うことになる。前衛が時間を稼いでいるうちに、後衛がT字路の先へ逃げることは不可能ではない。


「このまま突破するぞ! ここから引き返して挟み撃ちにされるのは避けたい!」

「わかった! 俺とグエインが敵を抑える! その間に駆け抜けろ!」


 グエインとルークの二人が集団の先頭に躍り出る。

 彼らが射程に入ったのか、アントレディアの集団から火球や矢が放たれ始める。


「ヒルダ! 撃ち落とせ!」

「まかせて! 『ロックカノン』!」


 グエインが叫ぶと同時にその後方から放たれた岩の砲弾が、数本の矢を弾き、炎をかき消す。だが、そのまま敵に迫るはずだった砲弾は、続けてアントレディアが放った岩石の槍に砕かれてしまった。

 ヒルダの放ったロックカノンと衝突したことで、大きく勢いはそがれたものの、その原形を保っていた槍をグエインが盾で受け流す。


「魔法の威力が聞いていたものとは段違いだぞ! 情報が間違っていたのか!?」

「そんな……私の魔法が――」


 グエインたちが事前に手に入れた情報では、アントレディアの使う魔法はヒルダのものよりも威力では劣っているはずだった。しかし、先ほどの火球や岩の槍を見る限り、彼女の使える魔法よりも威力が高くなっている。


 彼らが知るはずもないが、魔法を放ったアントレディアたちが持っているのは世界樹の枝によって作られた杖だった。ほんの少し前にようやく実用化に至った杖はすぐに量産され、前線で戦うアントレディアたちへと渡されていたのだ。

 装備が更新されてからまだ間もないために、それらの情報はほとんど広まってはいなかった。


「火球を優先して防いでくれ! 距離を詰めれば威力の高い魔法は使いにくいはずだ!」

「わかった!」


 杖を持ったアントレディアの数は3体、魔法の威力を見てもヒルダだけでは防ぎきることはできない。比較的打ち消しやすく、着弾した場合の危険性が高い火球を優先的に防ぎ、岩の弾丸や槍を回避しながら距離を詰めていく。

 目の前に迫っていた矢を弾いたグエインが、ついに前衛のアントレディアと衝突する。さらにルークが後に続き、T字路の中央部分で押し合いが始まる。


「そんなに長くは耐えられない! 急いで駆け抜けろ!」


 振り下ろされた剣を、手にした盾で受け止めたグエインが叫ぶ。

 たった二人で抑える彼らに対して前衛のアントレディアは上位個体を含めて5体。振るわれる刃が盾の表面を滑りながら火花を散らし、防御の合間を狙って突きこまれる槍がグエインたちの付けた鎧を削り、その表面にいくつもの傷跡を残していく。

 何とか攻撃の隙を見つけようとするグエインたちだが、剣を防げばもう一方の槍が、槍を受け流せばすでに剣が目の前に迫っている。やっとできた小さな隙すら魔法で埋められてしまい、防戦一方に追い込まれていた。


 流れるような連携が攻撃の機会を奪い、人外の膂力が強引に彼らの体勢を崩そうとする。前衛のアントレディアの隙間を縫うように放たれた矢が、顔のすぐ横を掠めるように通り過ぎ、グエインは冷や汗を浮かべた。

 反射的に回避することに成功したが、ほんの少しのミスも許されない状況が続いている。このまま戦いが長引けば、そう遠くないうちに取り返しのつかない事態に陥りかねない。


 グエインたちが奮闘している間に、他の冒険者たちもT字路を超えようと急ぐ。

 後衛のアントレディアたちの妨害はあったが、多少のダメージを覚悟した彼らは一人、また一人とグエインたちの後ろを駆け抜けていく。

 先に通り抜けたアリーシャが、手持ちのナイフを投げて援護しようとしたが、グエインとの戦闘に参加していない上位個体によってすべて弾き落とされてしまう。


「っ、聞いていた通り、まるで人間みたいな戦い方ね……あと少しよ! 頑張って!」


 ナイフのお返しだとばかりに迫る矢を弾いたアリーシャが歯噛みする。

 遠距離攻撃の手段に乏しい彼女では、有効な手助けをすることはできない。さらに、近接戦闘を挑めば今攻撃を必死に耐えているグエインたちの足を引っ張ることになる。

 今彼女が攻撃に参加したとしても、防御の手段が乏しいままでは格好の的になるだけだ。


 アリーシャに続き、未だ気を失ったままの仲間を背負ったディナンドが、さらにハロルドが攻撃を掻い潜ってT字路を駆け抜ける。


「私で最後だよ! 今隙を作るから――っ!?」


 グエインたちが逃げる隙を作ろうと魔法を放とうとしたヒルダだったが、妨害のためにアントレディアが投げたナイフが足へと突き刺さり、その体勢を崩してしまう。魔法も不発に終わり、その場へと倒れ込んだ彼女に向かって、槍が突き出される。

 地面に倒れ、起き上がることができなかった彼女は、目の前に迫る槍をただ見つめる以外にはなかった。


「あっ――」

「ヒルダッ!」


 間一髪。


 ヒルダの前へと滑り込んだグエインがギリギリのタイミングで間に合い、アントレディアの振るった槍が彼女の命を奪うことは無かった。

 攻撃を受け流す余裕すらなかったのか、掲げた盾には槍の穂先が深々と突き刺さっている。盾の表面にはいくつもの傷が付き、既にその役割を十分に果たせる状態では無かった。


 突き刺さった槍が抜けなくなった盾を手放したグエインは、手にしていた剣と、腕を守っている鎧で敵の攻撃を防ぐ。

 地面に膝をつき、攻撃を防ぎ続けるグエインの背中には、強引にアントレディアを振り切った際に、背後から切り裂かれた傷跡ができていた。

 身に着けていた鎧のおかげで致命傷にはならなかったが、傷口からは赤々とした血が流れ出ている。傷だらけになった鎧が、激しい攻撃にさらされ続けていたことを物語っていた。


「グエイン――」

「ぼさっとするな! さっさと逃げるぞ!」

「わかった! 『アースニードル』!」


 地面から突き出た棘が、アントレディアたちの足元から生え、その体勢を崩して僅かな隙を作る。

 それに合わせてアントレディアの剣を弾いたルークが駆け出し、グエインたちもそれに続こうとする。

 足を怪我して走れそうにないヒルダを片腕で抱きかかえ、立ち上がるグエインだが、いち早く体勢を立て直すことに成功した上位個体のアントレディアが攻撃を仕掛ける。


 オリハルコンの刃が、彼らに向けて振り下ろされる。

 手にしていた剣でそれを弾こうとしたグエインだが、激しい攻撃にさらされボロボロになっていた剣は、アントレディアの振るった剣と打ち合った瞬間に折れてしまった。

 そのまま振り下ろされた刃は鎧ごと肉を切り裂き、傷口から血が噴き出す。

 剣と盾を失った彼へと、追い打ちをかけるように返す刀で刃が迫る――


「う、おおぉおお!」


 気合を込めた声と共に、折れた剣を投げつけ、空いた腕を振るうグエイン。

 金属同士がぶつかる甲高い音が響き、軌道をずらされた刃が彼の鎧の表面を削りながら滑っていく。

 さらに追撃をしようとしたアントレディアだったが、すかさずアリーシャが投げつけたナイフを弾いた隙を使って、既にグエインは背を向けて走りだしていた。


「グ、グエイン……」

「落ちないようにしっかり捕まってろ!」

「で、でも、手が――」


 真っ青な顔で震える声を紡ぐヒルダの視線の先、グエインの右腕は肘の先から無くなっていた。アントレディアの攻撃をそらすことには成功したが、その代償として彼は利き腕を失うことになった。


「腕一本で二人助かったんだ。安いもんだろ?」

「グエイン……」


 背中、胸、そして切り落とされた腕から大量の血を流しながらも、グエインは気丈に笑う。

 出血によるめまいを感じながらも、それをおくびにも出さずに走る彼の元へと仲間が駆けつけた。

 グエインへと近づいたハロルドが、回復魔法で彼の傷を塞いでいく。

 全力で走りながらの治療のため少々手間取ったが、何とか出血を押さえることには成功した。


「『ハイヒール』! なんて無茶をしたんだ!」

「へっ、利き腕をやっちまったな。これで冒険者も引退かね……ルーク、ヒルダを頼む。このまま抱えて走るにはちょいと重いんでな」

「冗談を言ってる場合かよ! 早くしろ!」


 グエインからヒルダを受け取ったルークが、彼女を背負う。

 その間にも、背後のアントレディアたちからの攻撃は続く。ルークに背負われたヒルダが土の壁を作り、アリーシャが飛来する矢を弾いてはいるものの、未だに危険な状態だ。


「急いで! 後ろから追いかけて来てるわよ!」

「グエイン、肩を貸す。血は止まったが立っているのが不思議なくらいだぞ」

「助かるぜ。ちょっとふらついて来てたところだ」


 ハロルドに肩を貸りてグエインが走りだすが、怪我人がいる分そのスピードは遅い。

 何度もヒルダが土の壁を作り、その行く手を阻んではいるが、じりじりとその距離が縮まっていく。


「もう魔力が残ってない! このままじゃ――」

「クソッ! あと少し、あと少しで出口なのに!」


 魔力の切れかかったヒルダが悲鳴を上げ、それを聞いたルークが叫ぶ。

 もしも、ヒルダの張る土の壁が無くなれば、すぐにアントレディアに追いつかれてしまうことになるだろう。そうなれば、もはや戦う力の残されていない彼らは終わりだ。


 ヒルダの魔力が底をつき、最後に張った土の壁が壊される。行く手を阻むものがなくなったアントレディアたちが、もう少しでグエインたちに追いつこうかという時だった。


「『アイスウォール』!」


 ディナンドが背負っていた魔法使いが目を覚まし、氷でできた壁を作り上げる。

 彼らの元へ迫っていた火球が氷の壁へとぶつかり、激しい音を立てて蒸気が立ち昇る。


「アルマ!? やっと目が覚めたのか!」

「状況はよく分からないけど――あれを足止めすればいいのよね? 『アイスウォール』、『アクアミスト』!」


 ディナンドに背負われていた魔法使いは、後ろから迫るアントレディアの群れを見て状況を察したようだ。

 氷の壁と共に彼らの背後を真っ白な霧が覆う。さらに何枚もの氷の壁を作りだし、アントレディアの追撃を遅らせていく。


「ここが正念場だ! このまま振り切るぞ!」

「前から敵が来るわよ!」

「間一髪ってところだな! 強行突破だ!」


 ようやくアントレディアから逃げきれると思った彼らだが、正面からジャイアントアントの群れが近づく。

 ディナンドの背中からアルマが飛び降りると、すぐさま氷の槍を放つ。前衛が怯んだところへディナンドが盾を構えて突撃し、その後ろにアリーシャが続く。

 攻撃を受けたジャイアントアントたちに隙ができたところで、グエインたちがその横を駆け抜けることに成功した。

 ペースを落とさずに駆け抜けたグエインたちは、ついに冒険者たちが休憩のために使っている大部屋へと滑り込んだ。


「追手は――引き返したみたいだな」

「何とか助かったが……」

「なに、腕はなくなったが、命があっただけましだ。生きてさえいれば、どうにかなるさ」


 地面に横たわり、鳴り響く鼓動で生きていることを噛みしめた彼らは、息を整えるとダンジョンから脱出する。多くの代償を支払うことになった彼らだったが、脱出に成功した彼らの顔には生への喜びが浮かんでいた。

ちょっとここから先はダンジョンとはあまり関係ない話になりそうなので、グエインたちの話はここで終わりです。

グエインたちのその後は、もしかしたら閑話で出てくるかもしれません。

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