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#70 迷宮での再会

 ダンジョンへと入ったグエインたちは、すれ違った冒険者と挨拶を交わしながら奥へと進む。

 ダンジョン内で同業者とすれ違う時は、軽く挨拶を交わし情報を交換するのが一般的だ。今日はどこで何を見たか、他の冒険者はどこにいるか、それら情報を手に入れるだけでも生存率は大きく上昇する。

 大金が絡むようなものだと秘匿する冒険者も多いが、危険なモンスターの目撃情報や他の冒険者がどこで戦っているかを知ることで、余計なトラブルや危険を未然に防ぐことができる。加えて、お互いに情報交換をすることで、相手の顔を覚えることもできるため一石二鳥である。

 顔見知りの冒険者が増えれば、どこかで出会ったときにちょっとした情報を手に入れられる可能性が増える。常に危険が付きまとう仕事である以上、そのほんの少しの情報で命を拾うということもある。


 入り口からしばらく進み、一行はかつて拠点が作られていた場所に到着した。

 冒険者たちのベースキャンプとして使われていた大部屋だが、今では冒険者が寝泊まりするために張ったテントはどこにも見当たらない。

 入り口に近い大部屋ということもあって、いくつかのパーティーが休憩のために滞在してはいるものの、遠征隊からもたらされた情報によって、ダンジョン内で夜を明かす冒険者はほとんどいなくなっている。


 まずは先ほどすれ違った冒険者から手に入れた情報を元に打ち合わせをしようと、足を止めたグエインたちだが、そこへ休憩していた冒険者の一人が声をかける。


「おーい! お前グエインじゃないか? 久しぶりだな!」

「んん? おお! ジャスター! ジャスターじゃねえか! 何年ぶりだ?」

「えーっと……ありゃあ俺がイルメンにいた頃だったから――10年以上も前だな。だいたい12年ぶりくらいか?それにしてもお前老けたなあ!」

「馬鹿言え、お前ももうおっさんだろうが。よく俺が分かったな!」


 グエインとジャスターはお互いに再会を喜ぶ。

 冒険者は危険の多い職業だ。10年も経てば今までに知り合った冒険者のいくらかは命を落としている。

 町から町へと移動を繰り返し、一所に留まって活動しない流れの冒険者などになれば、かつての知り合いの死をずっと後になってから知る。もしくはそれすら知らずに人生を終えるということも少なくはない。

 こんな危険なダンジョンといえど、かつて一緒に冒険をした仲間と出会えば喜ばずにはいられないだろう。


「まあなんにせよ、お互い生き残ってて何よりだな」

「まったくだ。あれからも何度か死にそうな目に遭ってるからな。そういやヒルダもまだ一緒に組んでるぜ」

「おお!? ほんとじゃねえか! ヒルダもだいぶ老けて――いや、なんでも無いからその振り上げた杖を降ろしてくれ!」

「私はまだ20代だからね! グエインやジャスターと違ってまだ若いから!」

「いてっ、魔法使いなら杖は大事にしろよ……その杖で相手を叩く癖も変わってないな!」


 うっかりとそのままの感想を言いそうになったジャスターだが、ヒルダが杖を振り上げるのを見て慌てて訂正する。振り上げた杖をジャスターの頭に軽くぶつけてから降ろしたヒルダだが、やはりどこか嬉しそうな顔をしていた。


 ヒルダとジャスターが思い出話に花を咲かせ始めたところで、ハロルドがグエインへと近づく。


「グエイン、知り合いか?」

「ああ、まだ俺がCランクの頃のパーティーメンバーだよ。こいつの親父が病気になって、そのまま抜けることになったんだ。そういやジャスター、親父さんはどうなった?」

「今はもう病気も治ってぴんぴんしてるよ。最近は家に帰って家業を継げって催促の手紙が来るけどな。親父も心配してるんだろうよ」

「そうだな、俺もお前ももういい歳だからな。そろそろ引退も見え始めてくる頃だな」


 危険なモンスターと戦い、過酷な環境で仕事をする冒険者という職業は体への負担が大きい。

 大抵の冒険者は、30代後半から40代になる頃には限界を感じて引退していく。ただし、中には40代を超えても最前線で戦う冒険者もいるうえに、寿命の長い種族であればさらに長い間、冒険者としての活動を続けることができる。

 引退した冒険者のその後は、ギルドの教官や冒険者向けの道場を開く者、またあるものは今までに稼いだ金で商売を始めたり、開拓団に参加して新しい村を作ったりなど様々だ。

 ジャスターのように帰る家がある者は、故郷へと戻って静かに余生を過ごす者もいる。

 グエインもジャスターもすでに30代の半ばへと差し掛かった頃だ。そろそろ引退後のことを決めなければならない時期でもある。


「そうだな。引退する前に、悔いの残らないようにしておきたいところだ」

「だな。積もる話はまた帰った時にするとして、俺たちは今からダンジョンの攻略だが、何かいい情報があったりしないか?」

「それならとっておきの情報があるぜ、少し前にサンゾたちが血相を変えて引き返して来たんだが、どうにも新種の集団がこの近くにいるみたいだぞ」

「新種か。俺たちもそろそろ挑戦してみるかって話はしていたが……」


 ジャスターから新種の目撃情報を聴いて考え込むグエイン。

 確かに先日は魔剣を狙うというような話もしていたが、所詮は酒の席での話。酔いが醒めてから冷静に考えれば、おいそれと実行できるようなものではない。


 最近発見された新種――鑑定によってアントレディアと判明したモンスターだが非常に厄介な敵だ。

 各々がミスリル製の武具を装備しており、さらにはBランクモンスターに匹敵する戦闘能力を持っている。中にはBランクの上位、下手をすればAランク下位に近い戦闘力を持つ個体も存在しているのだ。

 知能も高く、数が集まれば人間のように役割を分担して襲い掛かってくる。それが10体前後の集団で徘徊しているとなれば、そう簡単に勝てるような相手ではない。互角以上に戦えるだけの力があっても、戦闘に時間がかかればすぐに援軍がやって来てしまう。


 冒険者の中には新種の群れを殲滅できるような化け物もいるが、既に富も名誉も欲しいままにする彼らがわざわざ歴史の浅いこのダンジョンにやって来るということはまず無い。

 このダンジョンを専門にして近くの街に腰を落ち着け、経験を積んだ冒険者がいずれその領域に達することはあるだろうが、それもまだまだ先の話だ。


「ついさっきも、この話を聞いたパーティーが向かったところだな。確か最近町に来たパーティーだったはずだ。名前は何ていったか――」

「先に向かったパーティーがいるのか。鉢合わせして獲物の奪い合いになるのは避けたいところだな」

「まあ挑むかどうかはともかく、そういう情報があったって話だな。確か向こうの通路を真っ直ぐ進んで、突き当りを右だ。お前らなら危なくても引き返すくらいはできるだろうが、せいぜい注意してくれよ。せっかく会ったのにこれでお別れなんてのはごめんだぜ」

「おうよ! 今度町で会ったら一緒に飲もうぜ!」

「おお! その時は俺が抜けてからの話をゆっくり聞かせてくれよ! 俺たちは一足先に帰らせてもらうとするぜ」


 そう言って手を振ると、ジャスターは背を向けて今の仲間の元へと戻っていく。グエインとヒルダはどこか懐かしそうにその背中を見送った。


「んで、新種の話を聞けたはいいが、どうするよ?」

「そうだなぁ……チャンスがあるなら一度戦ってみたいところだが」

「新種に挑んで壊滅しかけたパーティーの話はよく聞くわね。今出回ってる魔剣も、戦闘中のどさくさに紛れて拾ってきたって話よ? それでもやるなら反対はしないけれど」

「今まで聞いた新種の話が事実なら、危なくなっても逃げることくらいはできるだろう。近くで戦っているパーティーもいるようだし、一度行ってみるのもいいんじゃないか?」

「そうねー、狩場が被ったら困るけど、近くに冒険者がいればいざという時は助け合えるかもしれないからね」


 振り返って仲間に問いかけるグエインに、他のメンバーが返事をする。多少の不安はあるものの、何が何でも反対という者はいないようだ。

 もしも新種を狙わないとしても、他の冒険者が近くにいる場所で狩りをするのも悪くはない選択肢である。


 ダンジョン内で狩りをする場合には、いざというときに助け合うために他のパーティーが近くにいた方が安全だ。

 あまりに近すぎて場所や獲物が被ってしまいそうになることもあるが、その場合には冒険者同士のルールが存在する。

 中には場所や獲物を横取りしたり、モンスターを他の冒険者に押し付けて逃げるような者もいるが、それらの行為を頻繁に続ければ噂になって他の冒険者から避けられてしまう。そうなればダンジョン内での活動が難しくなるため、それらの行為を好んでする冒険者は高ランクになれば少なくなる。

 もちろん、ダンジョン内での冒険者同士の殺し合いなどもってのほかだ。もしもそれが判明すれば、ギルドから非常に重い罰則が科されることになる。


「せっかくだから向かってみるとしようか。いくつか新種の戦闘能力の話は聞いてはいるが、実際に戦ってみなければどうなるかは分からないからな」

「よっしゃあ! じゃあさっそく向かうとしようぜ!」

「おお? 今日のグエインはなんだかやる気だね! じゃあ私も頑張っちゃおうかな!」


 さっそくとばかりに意気揚々と進んでいくグエインに、杖を掲げて気合を入れたヒルダが続く。置いていかれそうになった残りのメンバーが困り顔でため息をついた。


「がんばるのはいいけど、グエインもヒルダも張り切りすぎないようにね」

「特にグエインは気を付けてくれよ。新種が相手だと思いもよらない事態になるかもしれないんだ。同じ前衛役のルークと離れすぎないようにしてくれよ」

「おうよ! ちゃんと前衛の仕事はこなしてやるさ! 後ろはきっちり守ってやるよ!」

「おお! さすがは我らがリーダー! 頼りにしてるよ!」


 片手で大きな盾を掲げたグエインが、仲間を振り返って豪快に笑う。


「ああもう、斥候役を置いてどこに行こうって言うのよ! ヒルダも後衛なのに前に出ない!」

「はあ……アリーシャ、急いで追いかけてやってくれ。このダンジョンは罠と呼べるものは少ないが、待ち伏せなんかが無いわけじゃない」

「まあ大丈夫だろ。あれで二人ともAランクにBランクの冒険者だぜ? それくらいはちゃんと注意を払ってるさ。ほら、俺たちも行こうぜ」


 二人を慌てて追いかけるアリーシャの後ろでハロルドがまたもやため息をつく。そんな彼の肩をルークが軽くたたいて慰めた。

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