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#64 エルフとの交渉 中編

後編ではなく中編です!

後編はもう少しサクサク進む……はずです!

もし長くなっても話し合いは後編で終わらせる予定です。


ここからは主人公視点に戻ります。

 長めのテーブルに備え付けられた椅子に座り、テーブルの向こうに見える転移陣をじっと見つめる。

 両脇はアントレディアが守りを固め、頭の上にはフィーネが乗っている。

 話し合いのために用意した部屋の中は、音一つなく静まり返っていた。


『ダン様、武器と持ち物を回収しました。まだ何か隠している様子もありません』

「よくやってくれた。そのままこちらまで連れて来てくれ」


 静まり返った部屋の中で、フロレーテからの念話が届く。最初の関門はクリアできたようだ。

 未だに不安要素は僅かに存在するが、直接相対するならばその全てを消すことはまず不可能だろう。


 本当に相手はこちらに危害を加えられないのか、話し合いをうまく進めることはできるだろうか。次々と疑問が浮かび不安が増大していく。

 結界を張れる魔導具であるペンダントを握りしめた手にはじっとりと不快な汗をかいている。心臓が早鐘を打つ音が不安を加速させていく。


「ダン、大丈夫?」


 俺の不安に気が付いたのか、頭の上にいたフィーネが心配そうに声をかける。

 外からも分かるほどに不安が表に出てしまっていたようだ。こんなことで敵対している相手と話し合いなどできるのだろうか。


 いや、ここまで進めてしまった以上、いまさら弱音など吐くわけにもいかない。

 賽は投げられた。相手はすでにこちらへと向かっている。


「大丈夫だ、心配してくれてありがとうな」

「うん!ダンは一人じゃないよ!アタシもみんなもいるからね!」

「そうだな、確かにそうだ」


 直接話し合いに臨むのは俺の役目だが、俺一人というわけではない。

 ここまで進めることができたのは仲間たちの力があってこそだ。今も全員が自分の役目を果たすために動いている。

 ならば、俺は彼女たちに応えるために俺の役目を果たすだけだ。


 頭の上に感じるフィーネの重みが、今は頼もしく思えた。


『ダン様、これよりそちらに転移しますが、心の準備はよろしいですか?』

「ああ、いつでも大丈夫だ。転移後はできるだけすぐに俺のところまで来てくれ」

『わかりました』


 未だに緊張が消えたわけではない。だが、覚悟は決まった。あれだけ早かった鼓動も落ち着いている。これなら何とかなるだろう。


 転移陣からアントレディアを連れたフロレーテが現れ、こちらへとやって来る。

 フロレーテが近くまで来たのを見てから魔導具を起動して結界を張る。少し遅れて転移陣からエルフの男が現れた。


「よく来てくれた。俺がこのダンジョンのダンジョンマスターだ。立ち話もなんだろう、そこにある椅子に座ってくれ」

「お初にお目にかかる。まずは、こちらの要求に応えてくれたことに感謝する」


 もし相手がこちらの暗殺を企んでいるならば、今が絶好の機会だ。背中を冷や汗が流れていくのを感じる。


 こちらの思いとは裏腹に、エルフの男は軽く頭を下げると、用意された椅子へと座る。

 どうやらいきなり攻撃してくることはなかったようだ。相手に悟られないように胸をなでおろす。


 さあ、ここからが本番だ。


「お互い座ったところでさっそく話し合いを……と言いたいところだが、その前に言わなければならないことがある」

「……なんだろうか」

「そちらは先の戦いでこちらの住処を荒らし、大切な仲間たちを数多く殺している。それを簡単に水に流すことはできない」


 一度言葉を切り、相手の様子を窺う。

 エルフの男の表情は変わらない、果たして相手は何を考えているのだろうか。


「そちらに非があると思い、それでも話し合いをしたいと考えるならば、対価として脱出の際に使ったあの力について教えてもらおう。具体的にはその効果と副作用、それと運用規模だな」


 そこまで話すと、相手の顔を見つめる。

 さあ、相手はどう出てくるだろうか。素直に話してくれる可能性はそう高くはないかもしれない。

 情報を出し渋るか、話し合いを辞退する可能性だってある。


「……このまま話し合いをするわけにもいくまい。まずは、我々に非があったことを謝罪しよう。我々の行動が、そちらに大きな損害を与えたことをお詫びする。そして、今一度話し合いに応じてくれたことに感謝する」


 しばらく考え込んだ後、そう言ってエルフの男は頭を下げる。

 少しして顔を上げた男は、こちらを真っ直ぐに見つめた。


「さて、こちらの使った力についてだが……あの時、我々が使ったのは世界樹の樹液と呼ばれる物の原液だ。その効果は、服用した者の体力と魔力を常時回復させ続ける。副作用は、長時間使用した場合は効果が切れるとともに重体、もしくは死亡の危険性がある。運用規模は……ほぼ無制限だ。副作用があるためそうやすやすとは使えないがな」


 ……やけに素直に情報を話している。どういう意図があるのだろうか。

 話を聞く限り、そう簡単に対策出来るような内容ではない。だが、この情報には価値があるはずだ。

 こちらの戦力など最初から脅威だとは思っていないのか?もしやろうと思えば、簡単にダンジョンを攻め落とすことができるのか――


 さらに目の前の男は言葉を続けていく。


「それともう一つ。そちらは既に、我々の残した世界樹の枝も手に入れているだろう。枝は込められたマナの大きさにより使用者の魔力を増幅し、魔法の効力を増大させる。杖に加工してそこに控えているモンスターに持たせればきっと役に立つだろう」


 男は、俺たちの両脇に控えるアントレディアをちらりと見るとそう締めくくった。


『フィーネ、フロレーテ、どうだ?』

『こちらを騙そうという意思はありません。話したことは本当のようですが……』

『でもそれだけじゃないよ!何か隠してるような感じだよ!』


 ……いったい何を狙っている?価値のある情報を余分に伝えるなど、相手は何を考えているのだろうか?

 世界樹の枝に何か罠が仕掛けられていたのか?いや、鑑定でも妖精たちの目でも、何もおかしなところは無かったはずだ。

 枝に仕掛けを施したわけでないとしたら――こちらの反応を見ているのか?


 冷静に考えれば、こちらが手にした情報は相手の切り札の効果の裏付けとその運用規模である。その規模に制限があるならまだしも、無制限に使えるとなればできる対策は時間稼ぎと一撃離脱くらいだろう。

 世界樹の枝に関しても、こちらの持っていた情報の裏付けだけ。さらに、枝を植えることができるということには触れてすらいない。

 相手がこちらがどこまで掴んでいると予想していたかは分からない。だが、実際にはそこまで大きな情報は流していないのだ。


「樹液の原液は先ほど別で渡したポーチの中に少しだが入っている。薄めて使えば副作用も出ないだろう。もしよければ受け取って欲しい。……さて、我々の気持ちは伝わっただろうか?」


 男はこちらの顔をじっと見つめている。まるで俺の表情の変化を見逃さないとでもいうようだ。

 こちらの動揺を誘い、表情から何かを読み取ろうとしているのかもしれない。あるいは話し合いを有利に進めるためか。果たして俺の表情は動いていなかっただろうか……


 あちらは過剰とも言えるだけの対価を払っている。これ以上相手の非を利用することも難しいだろう。

 敵の切り札を探るというこちらの最大の目的は達成できたが、その代わりに交渉のペースはあちらに握られてしまった。できれば外部の情報もいくつか欲しいところなのだが……

 さらに何かある前に話題を進めてしまうとしよう。その思惑がなんにせよ、これ以上相手のペースに乗せられるわけにはいかない。


「……そちらの誠意は受け取った。では、さっそく話し合いに移るとしよう。こちらに侵略の意思があるかどうかを確認したいのだと聞いているが?」

「そうだ。単刀直入に聞きたい。そちらに外部へ侵略しようという意思はあるのだろうか?もし無いのならば、その理由も聞かせてもらいたい」


 やはり最初の質問はこれか。

 相手の目的を聞いた時点で予想していたが、下手なことを言えばそのまま全面戦争に突入することになる。

 相手が樹液を無制限に有しており、さらにまだ相手の強さの平均値も分かっていない。戦えば看過できないほどの犠牲が出るかもしれない……できればすぐに戦うのは避けたいところだな。


 こちらには妖精の能力を使った真偽判定の手段がある。だが、相手も別の方法でこちらの嘘を見抜くことができる可能性はゼロではない。

 こちらに外部への侵略の意思は最初から無いのだ。ならば、それを正直に伝えてしまっていいだろう。


「こちらに外部への侵略の意思は欠片もない。メリットも無いうえに、外に攻めれば損害も出るからな」

「ふむ、メリットが無いから攻めないと?外にはこのダンジョンに無い物もあるだろう。ここを荒らすものの拠点を攻めることも無駄ではないはずだ。それでもメリットが無いと言うのだろうか」


 確かに、男の言うことはもっともだろう。

 外にはダンジョンに無い物もあるかもしれない、ダンジョンの近くにある町を滅ぼせば一時の平和は手に入るだろう。だが、それだけだ。


「いまさら外に出て何かを得たいとも思わない。ダンジョンから離れるわけにもいかないからな。それに、俺はこのダンジョンでの生活に満足している」

「……なるほど。では、外の拠点に関してはどう考えている?」

「確かに、外にある町を滅ぼせばダンジョンに攻め込むための拠点は無くなる。だが、その後はどうなる?そんなことをすれば、外の勢力も黙ってはいないだろう。あとは送られてくる討伐軍と延々と戦うことになる。戦うたびに増える軍隊と戦い続けるほど馬鹿なことはないはずだ。世界の全てを敵に回すリスクを負ってまで、外を侵略する理由は無い」


 ダンジョンマスターになった当時であったら、もしかしたら外に何かを求めたかもしれない。だが、今は仲間がいるこのダンジョンが俺の居場所だ。今は外に出たいとも、外を羨ましいとも思わない。


 ダンジョンの外の町だってそうだ。滅ぼしたところでメリットはない。

 町を滅ぼしてしまえば、こちらを脅威と考えた人間たちは軍隊を組織して、戦いを挑んでくるかもしれない。討伐軍が1万や2万なら、犠牲は出るが倒せるかもしれない。だがそれが10万、20万と増えればどうか。

 ジャイアントアントの最大の強みはその数だ。そのアドバンテージが向こう側にあれば、結果は火を見るより明らかだろう。中には目の前のエルフのように、一騎当千の実力を持つものも数多くいるはずだ。最終的には外にいるこちらの勢力は殲滅され、ダンジョンへと押し込まれることになる。


 ダンジョンの奥に閉じこもれば、軍隊では攻略することは難しいかもしれない。

 こちらと違って相手はその兵力を維持するために膨大な物資を供給しなければならないからだ。しかし、結果としてこちらはダンジョンの奥底に逃げ込むことになる。ならば最初から攻めない方がいい。

 持久戦に持ち込めば、物資もいらず、大量のアントを用意できるこちらは有利だろう。いつかは勝つこともできるかもしれない。だが、そこまでして欲しいものなど外には存在しないのだ。


「ダンジョンのモンスターは俺たちの大切な仲間だ。仲間を使い捨ての駒にしてまで、外に出ようとは思わない」

「……その言葉を信じよう。次はそちらの番だ。何かこちらに聞きたいことがあるのならば、答えられる限りのことは教えよう」


 俺の回答はあちらの満足が行くものだったようだ。

 相手がこの全てを信じるとは限らないが、それでもこちらの気持ちも少しは伝わったかもしれない。


 さて、次はこちらが質問をする番だ。

 話し合いの出だしは相手にペースを掴まれてしまうという結果になったが、それでも一番の目標は既に達成できている。

 次はこちらの欲しい情報を提供してもらうとしよう。

感想欄での、交渉中のエルフ側の行動の意図の解説は後編が終わるまでは控えさせてもらいます。

どうしても今知りたいという方はメッセージにてお願いします!

ダンジョン側はどうしてこういう動きをしたの?というのは感想欄でどうぞ!

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