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#59 エルフからの誘い

#59の微修正&加筆版です。

改稿内容は中盤以降、交渉を受ける場合のメリットに関する点と、話し合いに合意する場合の条件です。


修正した部分はあとがきに書いてあります。

#59を既読の方は、あとがきの方をご覧ください。

 開いた手紙の内容に目を走らせていく。書かれている文字は共通語と呼ばれるもので、ダンジョンマスターになった時点で読めるようになっている。


 手紙は簡単な挨拶と、ダンジョン内を荒らすことになったこと、直接ではなく手紙での形になった非礼に対するお詫びから始まっている。続けて自己紹介と、目的、さらに手紙を返信する場合の日時と場所が指定されている。


「ダン?何が書いてあったの?」

「どうやら、外の人間がこちらと話し合いをしたいらしい。詳しい内容は後で説明するとして、先にアーマイゼたちとシュバルツにも伝えないとな」


 フィーネが頭の上に乗ると、手紙を覗き込む。フロレーテも妖精たちの相手をしながらも、こちらの様子が気になっているようだ。フィーネに手紙を渡し、アーマイゼたちに念話を送る。


 この話を受けるにしても、断るにしても、俺一人で決めるべきではないだろう。

 ダンジョンの今後にもかかわってくる可能性がある。彼女たちの意見も聞いてみないとな。


 アーマイゼたちは、眷属を使ってダンジョン内の後始末をしている途中だったが、一旦こちらへと集中してもらうとしよう。作業はほぼ終っているし、残りは他のアントに任せておいて大丈夫だろう。

 配下とともに訓練に励んでいたシュバルツにも、一度中止して会話に参加してもらう。

 モニターと念話で連絡を取り、最後にフロレーテを近くに呼んだところで、手紙の内容についての話し合いを始める。


「さて、突然呼び出してしまってすまない。先ほど、ダンジョン内に残されていた木の枝に結び付けられていた手紙を発見した。差出人は、世界樹の森からやってきたエルフ、目的は俺との話し合いだそうだ」

『エルフですか……前回の戦いでは数人のエルフが確認できました。その中で、木に手紙を結び付けることができた相手となると、おそらくですが、こちらのファイアアントを殲滅した集団だと思われます。主様、この誘いを受けるおつもりですか?』

『ダン様!お気を付けください!あちらからダンジョンを攻めておいていまさら交渉など怪しすぎます。罠の可能性が高いですよ!』

『私も、アーマイゼの意見に賛成だね。眷属が殺されたのは戦いだったから仕方ないとは思うけど、相手が信用できるわけではないからね。直接ご主人を狙うつもりかもしれないよ?』

「手紙に書いてある限り、ダンジョンへと侵入した理由はこちらの戦力を探るためとあるな。本当かどうかは怪しいところだが……アーマイゼの言う通り、罠の可能性は高いだろうな」


 アーマイゼたちの言うことはもっともだろう、いくら何でもあれだけ暴れておいて信用しろというのは無理がある。手紙を置いていった時間を考えると、ファイアアントとの戦いの前になるのだが、それでもこちらに対して打撃を加えていたことには間違いはない。


 手紙には、ダンジョンへ入った理由はこちらの戦力を調べるためだったとも書いてあるが、裏を返せば相手もこちらを完全に信用はせず、危険視しているということの証拠でもあるだろう。

 最悪の場合は、話し合いのためにこちらが姿を現したところでいきなり襲い掛かってくる可能性もある。いや、むしろその可能性の方が高いだろうな。

 ダンジョンマスターを倒せばダンジョンは崩壊する。相手がこれを知っているかどうかは不明だが、敵の指揮官を狙うのは戦いではよくあることだ。


「では、この話は断るのでしょうか?今回の話はあちらから勝手に持ち込んだものです。私たちがこの手紙を無視したところで、デメリットはほとんど無いと思われます」

「そうだよ!こんな怪しい手紙断っちゃえばいいんだよ!」

「確かに、フィーネやフロレーテの言う通り、話し合い自体を断るのも一つの手だな。だが、受けた場合はリスクも大きいが不足している情報を手に入れられる可能性もある。外からのダンジョンに対する評価も知りたいし、何よりも前回の戦いでファイアアントを突破したあの力について知っておきたい」


 誘いを無視した場合のデメリットは、相手側からの評価が落ちるくらいだろうな。

 こちらには現状外へと侵略を開始するような考えはないが、相手はそれを知らないのだ。相手が手紙で連絡を取ろうとしたように、こちらも手紙を利用して伝えることもできるだろうが、お互いに信頼できないというのは変わらないだろう。


 それによって相手が攻めてきたところで、もはや今更といったところだ。すでにこちらは何度も外部からの侵入者による攻撃を受けている。

 話を断ったことによって、もしかしたら敵が増えるかもしれないが、ダンジョンを防衛する必要があるのは今も同じだ。手紙をよこしたエルフたちも、断られる可能性が高いことくらいは考えているだろうから、敵対する可能性も高いとは言えないかもしれない。

 この誘いが罠の可能性がある以上、誘いを断るのも一つの手だろう。


 それに対して、誘いを受けたことによるメリットは外部からの情報の入手だ。

 こちらの勢力は、外部からの情報を入手する手段が乏しい。ダンジョンの外へ出ることがほとんど無いアントたちはもちろん、森の中で生活していた妖精たちも、知っているのは古くから伝わる伝承や広く伝わっている常識、モンスターと人間の関係くらいでしかない。

 ダンジョンマスターになったことで得られた情報も、漠然とした地理や国の情報など、ある程度この世界でダンジョンを運営するために最低限必要な物程度なのだ。元から持っていた知識は、別の世界のものなので一部しか役に立たないだろう。


 まず一番優先度が高いのは、彼らがあれだけのファイアアントたちをどうやって倒したのかだ。

 あの戦いはどう見ても異常だった。こちらの攻撃が全く通じなかったことや、その後に動けなくなっていたこと、他にもあの力は彼ら以外にも使えるのかも聞いておきたい。

 この情報を手に入れ対策を用意することができるならば、今後ダンジョンを防衛する際にきっと役に立つはずだ。

 誘い自体がこちらを誘き出す罠というリスクはあるが、成功した場合のリターンも大きい。


 さらに、外部から来る相手であれば、こちらの知らない情報も持っているだろう。

 外から見た場合、このダンジョンはどう見られているのだろうか。これは、侵入者を捕らえて聞きだす方法もあるが、拷問をしようにもこちらにはそのノウハウもない。それに、手に入る情報が役に立つとも限らないだろうな。

 相手が話し合いを希望しているならば、この機会に聞いておくのもいいかもしれないな。今のところ、急いで知らなければならないというわけでもないので、こちらはついででいいだろう。


 まだ知りたいことはある。

 今まであまり気にすることはなかったが、ダンジョンとはいったい何なのだろうか?

 モンスターを生み出し、ダンジョンコアを成長させ、それを守る。

 それと同時にダンジョンは成長するために大量のマナを生み出している。そこから推測することはできるが、手掛かりが足りない。


 そして、最後にもう一つ気になるのは、ダンジョンマスターへとなった時のことだ。

 知識だけで、記憶が存在せず、あの状況で殆ど恐怖を感じていなかった。さらに、ダンジョンコアから手に入れた情報を疑うこともなくすぐに信じ込み、それから2ヶ月以上の間、誰とも会話をすることなく、ただひたすらダンジョンを作っていたこと。

 当時は何も感じなかったが、今振り返ればどうにもおかしかったと思うのだ。考え過ぎなのかもしれないが、まるで何かに操られていたかのような――


「ダン?ダン!どうかしたの?」

「――ああ、すまない。ちょっと考え事をしてただけだ」

「大丈夫?顔色がちょっと悪いよ?」


 どうやら考え事に夢中になるあまり、話を聞けていなかったようだ。フィーネが心配そうにこちらを見上げている。


 あのことは気になるが、手掛かりがない以上、今考えたところであまり意味はないだろう。それに、エルフたちと話したところで、この件の手掛かりが手に入るとは限らない。

 フィーネと会ってからは、あの時のように不自然だということも特にないのだし、今は置いておくとしよう。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとうな。さて、話を続けようか。この手紙の内容に対して俺たちができるのは、無視をするか断る、交渉に乗ると見せかけて逆に相手を罠にかける、そして、エルフたちと話をして外部の情報を手に入れることだ。今回は、期限内に安全が確保できるようなら話し合いを、できなかった場合は断ろうと考えている」

「相手の誘いに乗るのですか?相手の罠であった場合、危険にさらされることになりますよ?安全対策と言えど、万全なものを用意するのも難しいでしょう」


 フロレーテが不安そうな表情で、首をかしげる。


 この誘いが罠である可能性は重々承知している。それに加えて感情の面では、こちらを攻撃したような相手には会いたくないとも思っている。しかし、ここで情報を手に入れておきたいのも事実だ。

 特に、この機会を逃せば、エルフたちの使った切り札に関する情報が手に入らない可能性もある。できるならば、この情報は手に入れておきたいところだ。


「ここで断ることを決めてしまうのは簡単だが、その場合は相手の情報が手に入らない。今の俺たちに足りないのは、敵についての情報だ。特に、エルフたちの使った切り札がこちらの脅威となりうる以上、できれば対策を用意しておきたいところだな。内容を聞きだすことができれば、もしかしたら対策も用意できるかもしれない」

『確かに、主殿の言う通り、我々に不足しているのは情報でしょう。もし事前に敵の情報を知ることができていれば、前回の戦いでも相手を逃がすことはなかったかもしれません』


 そう、今回敵を逃がすことになった一番の原因は、相手に関する情報の不足である。

 こればっかりはどうしようもないのだが、ダンジョン内での戦いを通して手に入れた情報は、相手が切り札を隠していた場合は覆されてしまう可能性もあるのだ。


 今回の場合、交渉という面ではこちらが有利なはずだ。

 相手はダンジョンを攻め、さらにはこちらの用意した戦力を大きく削ったという負い目がある。相手から交渉を望んでいることと、この負い目をうまくつけば、一度使った相手の切り札の内容くらいは聞きだすことも不可能ではないかもしれない。


『ダン様がそう言われるなら、その配下である私たちはそれを支えるまでです。ただし、安全が確保できていないと判断した場合は、無理やりにでも止めさせていただきます』

『確かに情報は大事だね。ご主人が危険だと分かっていて、対策するなら止めはしないよ。アーマイゼだけじゃちょっと心配だし、私も頑張るよ』

『フォルミーカ!なぜ私だけだと心配なのですか!』

『だってほら、アーマイゼはちょっと抜けてるし……』

『何を言うのです!あなたこそいつもだらけているではありませんか!ダン様!私は抜けてなどいませんよね!そうですよね!』


 モニターの向こうでは、アーマイゼがフォルミーカに食って掛かっている。


 アーマイゼには悪いが、フォルミーカの方がどちらかと言えば正しいだろう。この前も、ダンジョンの改築に関する報告の一部が少し間違っていた。

 恐ろしく広いダンジョンを彼女の指示によってアントたちが改築しているので、どこかしらにミスが出るのは仕方ないとも言えるのだが……もしも、俺がやった場合は、とてもじゃないが指示を出し切れない。

 ダンジョンの拡張や修復、生まれた幼虫たちの世話に、成長したアントを進化させるためのエサの確保、これらを全て調整しながら数万体を超えるアントたちに仕事を割り振るとなれば、間違いなく頭が追い付かないだろう。


 ちなみにアーマイゼのミスは、すぐにフォルミーカによってフォローされていた。

 いつもはだらけているように見える彼女だが、女王としての仕事をサボっているわけではないのだ。

 真逆の性格に見える彼女たちだが、それが上手く噛み合ってダンジョンを運営するうえで役に立っている。

 眷属であるアントたちからの信頼も厚いようだし、完璧な女王よりもこれくらいがちょうどいいのかもしれないな。


 とりあえず、アーマイゼを怒らせるとその後が怖い。彼女たちには悪いが、アーマイゼが抜けているかどうかに対しては、ノーコメントとさせてもらおう。


「その話は置いておいて、どうやって安全を確保するか考えるとしよう。指定された時間は10日後の正午だ。それまでに対策を考えて準備を進めなければいけない。もし用意できなかったら、それまでの準備が水の泡になるからな。この手紙が敵の罠だった場合に無傷で戻れることが、誘いを受けるための最低条件だ」

「アタシも一緒に考えるよ!」

「私たちも微力ながらお手伝いさせていただきます」


 フィーネとフロレーテ、それに妖精たちも協力してくれるらしい。

 話し合いをすること自体に反対するものは、どうやらいないようだ。


 もし誘いを受けるのならば、できるだけ円滑に話し合いが進むようにしなければならないだろう。

 周囲を大量のアントで囲んだうえで、話し合いを始めようにも、その場合は相手が警戒してしまう可能性もある。交渉の用意をしても、相手が拒否したのでは意味がない。


 安全を確保できるだけの戦力を用意しつつも、相手を過剰に警戒させすぎない程度に抑える必要がある。

 残された時間は10日ほどあるが、準備期間を考えるとそう長く時間が残されているわけではない。


 さっそく、安全対策について話し合いを始めるとしよう。ある程度の目途は付いているが、抜けている部分もあるかもしれない。

 失敗すればダンジョン自体が消滅する危機でもあるのだ。仲間たちの知恵も貸してもらう必要がある。

 全員の力を合わせれば、完璧に近い対策を用意することも可能だろう。

修正点

・主人公の第一目標をエルフの切り札を知ることと明言しました。

目的は、ダンジョン防衛の際に脅威となりうる、エルフたちがファイアアントを突破する際に使用した切り札の内容を聞くことで、対応策を用意できないか検討するためです。

聞きだす手段は、相手が一度こちらに敵対しているという負い目、さらに相手側から交渉を持ちかけてきたことを利用する予定です。

とりあえず、これを聞くことが最優先であり、最大の目的ですね。


・前話で相手の誘いに乗ると決定していたのを変更しました。

話し合いに向けて行動はするが、安全が確保できなかった場合は断ることも検討するようになりました。

罠だった場合のリスクの回避方法や、相手の言動が真実であるかの判定方法などは次回です。

相手の誘いが罠であり、なおかつ別の切り札を用意していたとしても、無傷で乗り切れるくらいには対策する予定です。

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