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#58 品種改良

5章の終わりに、モンスターと用語の解説を追加しました。

本編には特に関係は無かったりしますが、気になる方はどうぞ!

 しばらく2代目の大樹と妖精たちの様子を観察した後、フィーネを連れてコアルームへと戻る。

 少し警戒していたが、今のところ大樹には異常はないようだ。次はダンジョンコアに残りの世界樹の枝を吸収させるとしよう。


 いくつかある小さな枝の中から1本を取り出すと、ダンジョンコアへと吸収させる。

 片手で持てる小枝ほどの大きさでありながら、存在感を放つその枝がコアの中へと吸い込まれ、少し遅れて何度もアナウンスが響く。

 樹海、サバンナ、湿地、などなど……草や花、樹木などに関係する環境が次々と追加されていく。最後に品種改良という機能が追加され、ようやく長いアナウンスが止まった。


「さすがは世界樹の枝だな、たった1種類の素材でこれだけの機能が解放されるとは思わなかったな」

「これでダンジョンをもっと強くできるね!」

「そうだな。とりあえず追加された機能を順番に見ていくか」


 追加された環境は、全て植物が設置されているものばかり、熱帯の気候から寒帯に近いものや雨の多い気候や乾燥した気候へと別れている。

 環境ごとに設置される植物も素材や食材となるものが多かったり、毒を持つ植物がその大半を占めるなど、かなり細かく分岐するようだ。アントとは相性の悪いと思われる環境もいくつか存在しているが、有用そうなものも多いな。

 とりあえず3階層の草原は、新しく追加された樹海へと変更しておこう。視界の悪い森の中ならキラーアントたちによる奇襲もやりやすいはずだ。

 特に3階層は時間稼ぎをメインとした階層へと改築しているため、地上でも方向が分かりにくいこの環境との相性はいいだろう。


 さらにもう一つ、各種環境以外に追加されたのが、品種改良という機能だった。

 試しにメニューから実行してみると、ダンジョン内の指定した植物の性質をいろいろと弄ることができるようだ。

 DPを消費することで、成長速度の調整や植物の特性の変化、別種の植物同士を合成して新しい植物を生み出したりなんてこともできるようだ。植物の性質を細かく調整するための項目がいくつも並んでいる。

 うまく利用できれば、毒を持つ植物を改良して毒の効力を上げてみたり、食料となる植物の成長速度や大きさを変更して大量生産することも可能かもしれない。食糧に関してはアントマゴットがいるのでそこまで重要というわけでもないが……


「とりあえず、試しに何か合成してみるか。まずは妖精の里にもう一度戻るとしよう。あそこならいろんな種類の植物があるはずだ」

「戻るついでに皆にもいろいろ試してもらおうよ!アタシも一つ思いついたよ!」

「そうだな。昔から森に棲んでいた妖精たちなら面白いアイディアも思いつくかもしれないな」


 メニューを閉じて、妖精の里へと向かう。

 妖精たちはまだ新しい大樹の周辺に集まっているようだ。そちらへと向かうと、辺りを飛び回っていた妖精たちが集まってきた。その中には女王であるフロレーテの姿も見える。


「ダン様、どうかなさいましたか?先ほどコアルームへ戻ると仰っていたように思いますが」

「ダンジョンコアの新しい機能が追加されてな。植物を改良できるみたいなんだが、ここなら種類も多いし、妖精たちにも手伝ってもらおうと思って来たんだ」

「ダン!ダン!早く試してみようよ!」

「ちょっと待ってくれ、今権限を譲渡するからな」


 フィーネが待ちきれないといった様子で服を引っ張る。

 サブマスター権限を通じて、品種改良の権限を渡してやる。

 権限を受け取ったフィーネは、さっそく植物の改良を始めたようだ。


「これと……ここを伸ばして!……できた!」


 フィーネがメニューを弄って作り上げたのは、チューリップのような形をしたコップ状の花弁に、なみなみと花の蜜が溜まった植物だった。どうやら完成した植物は種や芽ではなく、既に成長した状態で現れるようだな。

 溜まった蜜が花弁からこんこんと溢れ出し、こちらまで甘い香りが漂ってくるそれを見て、周囲の妖精たちが目を輝かせる。


「ふふーん!さすがアタシだね!これでいっぱい蜜が手に入るよ!」

「へえ、こんなことまでできるのか。かなり有用な効果みたいだ――」


 出来上がった植物を見て喜んでいたフィーネだが、しばらくすると完成した植物は次第に萎れていき、最後には枯れてしまった。

 萎れてしまった花弁から地面へと蜜がこぼれてしまっているのが、何とも悲しみをさそう光景だ。


「そんなぁ……せっかく作ったのに……」

「出来上がった植物が枯れてしまう場合もあるのか……いろいろ実験してみないと分からないことが多そうだな」


 さっそくフロレーテにも権限を渡して、品種改良の実験を進めるとしよう。

 実験を始めるとともに、様子を見ていた妖精たちも、森のあちこちから様々な植物を持ってきて、次々と新しい植物を作り始める。


 いくつか新しい植物を作ったり、元の植物の性質を変えてみると、枯れるものとそうでないものの違いが分かり始めた。

 どうやら、元になる植物の持っていた性質と違う方面を伸ばしたり、あまりに高い能力を持たせてしまうと急激な変化に適応しきれずに枯れてしまうようだ。


 別の性質を持たせるには植物同士をうまく合成するか、段階を踏んで何度も改良する必要がある。そして、優れた能力のある植物を改良するには大量のDPが必要となる。

 その辺に生えている花程度なら、改良に必要なDPは数十程度だが、何度も合成していくうちに必要なDPが徐々に増えていく。完成する植物の効果が高くなるほど、失敗した時のリスクが大きくなるわけだな。


 試しに世界樹の枝を改良しようとしたのだが、少し効果を弄るだけで100万単位、合成する場合は数千万ものDPが必要になっていた。残念ながら世界樹の効果を別の植物と掛け合わせるのはまず不可能だろう。

 合成途中で元の性質が消えてしまったり、予想もつかない効果に変化するなど、強力な効果を発揮する植物を作りだすには、一筋縄ではいかないようだな。運が良ければ、思いもよらない効果の植物を作れるということでもあるのだが。


「次はこれ使ってみよー!」

「えー、こっちの方が絶対いいよ!」

「私はこの花の方がすきー」

「見て見て!こんなのが出来たよ!」


 次々と新しい植物を作っていく妖精たちは、どうやらコツをつかんだようで、出来上がった植物が枯れてしまうことはほとんど無くなったようだ。

 彼女たちの足元には、ボールのように弾む実を付けた植物、葉っぱを押すとバネのように跳ね上がる植物、もこもこしたカラフルなクッションのような綿のついた植物などが生えている。


 出来上がったものは、お菓子やおもちゃ代わりになりそうな植物ばかりなのだが、さらに改良していけば、ダンジョンの防衛にも役に立ちそうな植物もありそうだな。


「うーん……思ったようにうまくできないな……」


 次々と新しい植物を生み出している妖精とはうって変わって、こちらはなかなか思ったように改良が進まない。簡単なものは作れるのだが、どうにもそこから先へ進めるための加減がよくわからないのだ。

 向こうの妖精たちは、先ほど作っていたクッション状の植物をさらに改良して、綿あめのような実を付ける植物を作り上げたようだ。アイディアを出した妖精は一躍人気者になったようで、周りから称賛を受けて照れている。


 順調に改良を進める彼女たちに対して、こちらで作れたのは古くなったゴムのように多少伸び縮みするがすぐに千切れてしまうツルを持った植物。ロープ代わりになるものを作ろうとしたはずなのだが、どうしてこうなったのだろうか……

 失敗した場合はDPが無駄になってしまう。そう何度も役に立たない植物を作るわけにもいかないのだが……どうにも難しいな。


「ダン!何を作ってるの?」

「ああ、フィーネか……品種改良がうまくいかなくてな」


 透き通った結晶のような実を付けた植物を持ったフィーネがこちらへやってくる。どうやらフィーネも既に品種改良のコツを掴んでいるようだ。


「ふふーん!アタシに任せてよ!ここを伸ばして、こっちはもう少し下げて……」


 フィーネが素早くメニューを操作して改良を進めていく。横から見ているのだが、一見関係ないような部分まで弄っているようだ。根の太さや花の形とツタの強度にどういう関係があるのだろうか?


 完成した植物は先ほどまでのように脆いものではなく、力を加えるとゴムのように伸び縮みをするしなやかなツルへと変化していた。束ねればロープとしても使えるし、ゴムのような性質はいろいろな使い道もあるだろう。


「すごいなフィーネ!何か改良する時のコツとかがあるのか?」

「ふふーん!アタシにかかればこんなの簡単だよ!コツはね――」


 フィーネの話をまとめると、出来上がった植物に足りなかった要素や余分な要素がなんとなくわかるらしい。あとはそこを改良して補ってやれば、目的の性質を持った植物が出来上がるということだそうだ。おそらく、植物と関わりの深い妖精だからこそできる手段なのだろう。

 残念だが俺にはちょっと無理なようだな……暇な時間を見つけては改良を繰り返すことで、少しずつコツを覚えるしかないようだ。


「なるほどな……そうなると、地道に試していくしかないか」

「ダメだったらアタシが作ってあげるよ!」

「ああ、助かるよ。さて、そろそろ別の植物も試してみたいところだな」


 妖精たちも試したいものは一通り作り終ったようで、完成した植物で遊んでいるものが増えてきた。

 この周囲にある植物の改良は一通り試したようだし、別の階層にある植物を試してみるのもいいかもしれないな。

 そういえば、前回の戦いで侵入者が障害物代わりに植物を使っていたはずだ。アントたちが片付け始めているはずなのだが、あれを品種改良するのもいいかもしれない。


「アーマイゼ、侵入者が使っていた植物はどうなった?1階層の奥の方に残っていたはずだが」

『はい!ダン様!道を塞いでいた木はすでに刈り取って倉庫の中に収納してあります。眷属たちも頑張っていますし、後始末もそろそろ終わるでしょう』

「さすがに仕事が早いな。さっそく使わせてもらうとするよ。あと少しだけ頑張ってくれ」

『お任せください!すぐに終わらせてみせましょう!』


 ダンジョンの修復も、アーマイゼたちの活躍で順調に進んでいるようだ。こちらも彼女たちの働きに応えるためにも、いくつか使える植物を製作しておきたいところだな。

 いつも頑張ってくれているアントたちにも、何かご褒美になるものがあればいいのだが……妖精たちの作った植物を巨大化させてダンジョン内に植えておくのもいいかもしれない。


 さっそく倉庫から先ほどの戦いで使われていた木々を取り出す。アントたちが刈り取ることができた時点で危険性はほとんど無いだろうが、一応触る前に鑑定しておくとしよう。

 通路を塞いでいた背の高いものと、アントの軍勢を足止めした背の低いものの2種類の木があったのだが、どちらも名前はエルブンツリーとなっている。大きさ以外は酷似しているので、おそらくは同じ植物なのだろう。


「とりあえず怪しいところはなさそうだな。フィーネ、何か魔法が掛かっていたりしないか?」

「えーっと……成長速度が上がる魔法が掛かってるくらいだね!触っても大丈夫だよ!」


 鑑定にも特に何も表示されていないし、どうやら危険性はないようだな。さっそく改良してみよう。


 地面に横たわるエルブンツリーのうちの一本を手に取ろうとした時、木の枝に結び付けられている何かを発見する。どうやら手紙のようだ。なぜこんなものが枝に結び付けられているのだろうか。

 手紙に罠が仕掛けられていないことを確認してから、枝にしっかりと結びつけられたそれを外す。


 開いた手紙に書かれていた内容は――こちらと話し合いの場を持ちたいという、ダンジョン外のからの誘いの文章だった。

この章はサクサク終わらせて、5章と6章でまとめて解説しようと思っていたのですが、ちょっと長くなりそうなので夕方辺りに5章の終わりにいろいろと挟むかもしれません!


追記:5章の終わりにモンスターと用語の解説を追加しました。

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