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閑話 Trick or Treat !!

本日2話目、タイトルの通りです。

本編と関係ないうえに、シリアス気味な雰囲気をぶち壊してしまう可能性があるのでご注意ください。

「……夢か」


 なんだかおかしな夢を見た気がする。いや、思い出せないのだから本当におかしな夢だったかは定かではないが……

 ベッドから抜け出し、ダンジョンコアのある部屋へと繋がる扉へと向かう。

 あくびをかみ殺しつつ扉を開けると、小さな白い影が飛び出してきた。


「トリックオアトリート!」


 目の前に浮かんでいるのは、白い布に包まれた何か。布には小さな穴の開いた三角形のつり目と、ギザギザの形をした口が描かれている。

 ふよふよと浮かぶ布の端を摘んでそれを取ってみると、布の中にいたのはフィーネだった。


「ああっ!取っちゃダメだよ!せっかくアタシが用意したのに!」

「……フィーネ、一体何をやってるんだ?」


 両手を振り上げて怒りを表現するフィーネに、布をかぶせてやる。

 もぞもぞと角度を調整するそれは、まるで幽霊のような見た目だが、一体何が目的なのだろうか。


「今日はこう言うとお菓子がもらえるって聞いたんだよ!」

「その仮装にトリックオアトリートとなるとハロウィンか?というか誰から聞いたんだ?」

「えーっと……誰から聞いたんだっけ?」


 布を被ったまま疑問を浮かべるフィーネだが、俺はハロウィンについて話した覚えはない。


 そもそも、この世界の暦は地球のものとは違うのだ。

 1年は13の月があり、1つの月は28日間である。1年は合わせて364日と地球のものに近いが、10月31日なんて日付は存在しない。

 それに、確か今日は――おかしい、なぜか日付を思い出すことができない。まだ寝ぼけているのだろうか?


「とりあえずダン!トリックオアトリートだよ!アタシにお菓子を渡すかおとなしくイタズラされるか早く選んでよ!」


 フィーネが幽霊の仮装で両手を広げてアピールする。

 宙に浮いていることもあって、なかなか良くできていると思うのだが、そもそも妖精がハロウィンに仮装をする必要はあるのだろうか。はなはだ疑問である。


「お菓子かイタズラを選べって……どっちかでいいのか?いつもだと両方やってるように思うんだが」

「ぐっ!?今日は特別だよ!いつもよりすごいイタズラを用意してるから!さあさあ早く!」


 フィーネがぐいぐいと迫って急かしてくる。

 いつもよりすごいイタズラにも多少興味があるが、ただでさえ毎日の妖精たちによるイタズラには頭を抱えることになっているのだ。ここは素直にお菓子を渡しておくことにしよう。


 倉庫からクッキーの瓶を取り出す。すると、なぜかショップで購入した覚えのない、瓶に入ったカボチャの形をしたクッキーが現れた。

 まあハロウィンだし丁度いいだろう。特別に瓶ごとプレゼントだ。


「ほら、ハロウィン仕様のクッキーだ。地面に食べかすをこぼさないようにな」

「やったー!もう毎日がハロウィンでもいいね!あ、あれ?どうやって食べたらいいんだろう?」


 大量のクッキーを手に入れて喜ぶフィーネだが、布を被ったままでは食べることができない。

 頭から被った布を脱ぐためにはその手のクッキーの瓶が邪魔になり、布を被ったままではクッキーを食べることはできない。どうしたらいいのか分からずに混乱するフィーネからクッキーの瓶を受け取り、布を脱いだフィーネに渡してやる。


「ありがとうダン!これでクッキーを食べられるよ!」

「ああ、どういたしまして。別に俺が手伝わなくても、テーブルかどこかに置けば解決だったんだけどな」

「ほお!ほのへはあっはへ!」


 口いっぱいにクッキーをほおばりながら喋っているせいで、何を言っているか分からない。

 ぽりぽりとクッキーをかじるフィーネを見ていると、アーマイゼから念話が届いた。


『ダン様!ダン様!今、手が空いていらっしゃいますか?』

「ん、どうした?今のところは特にこれと言った用事はないぞ」


 アーマイゼからの念話は何度か受け取るのだが、この時間となると珍しい。もしやダンジョンの製作中に何かがあったのだろうか?

 問題が起こったにしては、アーマイゼのテンションは高めなので大丈夫だとは思うのだが。


『もしよろしければ、一度こちらまで来て欲しいのですが。どうでしょうか?』

「それは構わないが、何かあったのか?」

『いえ……そういう訳ではないのですが』


 何やらアーマイゼの言葉の歯切れが悪いのが気になるが、とりあえず彼女の元へと向かうとしよう。

 さっそく転移を使用して――転移を使おうとしたのだが、何も起こらない。もしやこれについて相談したかったのか?

 いきなりハロウィンになったり転移が使えなかったりと今日は不思議なことばかりが起こるな……

 まあそこまで距離があるわけではない。ダンジョンの中を歩いていくとしようか。


 ダンジョンへと繋がる扉を開けると、なぜかダンジョン内がいつもよりも暗くなっている。

 さらにところどころにカボチャのランタンが設置され、その周囲をぼんやりと照らしている。こんなものを設置した覚えはないのだが……不思議なこともあるものだ。


 ダンジョン内を進み、アーマイゼたちのいる部屋の前へとたどり着いた。

 これまた設置した覚えのない扉を開けると――


『『『トリックオアトリート』』』


 その言葉とともに出迎えたのは、黒い三角帽子とマントを身に着け、ねじくれた木の杖を持ったアーマイゼとフォルミーカ、さらに黒い猫耳と尻尾を付けたシュバルツだった。シュバルツの首元には赤いリボンが巻かれている。

 アーマイゼとフォルミーカが魔女でシュバルツはお伴の黒猫ということだろうか。魔女が二人なのにお伴の黒猫が1匹なのは少し違和感があるが……


「……一応聞いておきたいんだが、3人ともハロウィンについては誰から聞いたんだ?」

『……はて?誰から聞いたのでしょうか』

『うーん、誰からだろうね?』

『私もどこかで聞いた覚えはあるのですが……そう言われると妙ですね?』


 ふむ、彼女たちも誰から聞いたのかわからないのか。謎は深まるばかりである。


『それよりもダン様!トリックオアトリートです!どちらを選ぶのですか!?』

『さあご主人、早く選んでよ』


 その巨体でずずいとこちらへにじり寄るアーマイゼたち。

 妖精たちにイタズラをされたことはあるのだが、アントたちにそのようなことをされたことは今までに一度もない。どんなイタズラをされるのか少し気になるところだが……


「ちなみに、イタズラを選ぶとどうなるんだ?」

『選ぶ前に教えてしまうのは趣にかけますが、他ならぬ主様の質問とあっては仕方ありません。ヒントくらいならいいでしょう。そうですね、私とお揃いになるとだけ言っておきましょうか』

「なるほど。よくわかった」


 シュバルツとお揃い、つまりは黒猫の仮装をすることになるのだろう。俺とシュバルツが黒猫の仮装をすれば魔女のお伴も2匹になるのか。

 猫耳くらいならつけてもいいかとも思ったのだが、アーマイゼの足元に黒猫の着ぐるみが置いてあるのが見えてしまっている。肝心なところで抜けているアーマイゼらしいミスだ。

 さすがに着ぐるみとなると多少の抵抗があるな……ここはお菓子で済ませたいところなのだが。


 クッキーは先ほどフィーネに全て渡してしまった。そもそもあのサイズではアーマイゼたちには小さすぎるだろう。倉庫に残っているのはカラフルな紙に包まれた飴玉のみ。他に何もないのでとりあえずこれを取り出してみるとしよう。

 そして目の前に現れたのは、予想に反して一抱えもある色とりどりの巨大な飴玉だった。

 こんなものを購入した覚えはないのだが、まあこれでイタズラを回避することができるのだから細かいことはいいだろう。


「よし、じゃあこれをやろう。他のアントたちにまで回す分が無いのは残念だが……」

『おおぉ!これはもしやフィーネ様が言っていた『アメダマ』なるものではないでしょうか!』

『へえ、話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだね』

『そうですか、私とお揃いではダメですか……』


 巨大な飴玉の山は、若干一名以外には好評のようだ。シュバルツには悪いが、さすがに着ぐるみとなるとちょっとな……今のうちにコアルームへと戻るとしよう。

 そっと扉から出ようとしたところで、背後からアーマイゼの念話が響く。


『ダン様?もうお帰りですか?』

「ああ、どうやら他に用事も無いようだからな。そろそろ戻ることにするよ」

『そうですか。では、私がダン様を送って差し上げましょう』


 アーマイゼが手にしていた杖をこちらに向けると、杖の先端が怪しく輝く。

 ボフン、という音とともに煙に包まれて周囲が見えなくなる。しかしこの煙、吸い込むと喉がイガイガとするのだが……


「ゴッホゴホ、一体今度はなんだ……」


 煙が晴れると、そこはアーマイゼのいた大部屋でも、コアルームでもなかった。

 真っ暗な夜の闇に浮かぶ満月。周囲を見回すとオドロオドロしい不気味な城と、その周囲を飛び回るコウモリの群れ。そして地面に立ち並ぶ十字架を模した墓がものさびしい雰囲気を漂わせている。

 果たしてここはどこなのだろうか……


 ここに立っていても仕方がない。とりあえず出口を探すとしよう。墓地はぐるりと柵で囲まれているので、進める方向は一つだけだな。墓地を抜けると、鬱蒼と茂る森の中へと進んでいく。


 森に生える木々には人の顔のような形のこぶやくぼみが見える。ざわざわと騒めく森の中を進むと、どこからか不気味な鳴き声が聞こえた。

 さらに森の中を進むと、背後からガサリという音が聞こえる。立ち止まって振り返るが、そこには何もいない。すると、茂みのあちこちからガサガサと音が聞こえ始めたではないか。

 思わず身構えて周囲を警戒するのだが、ガサガサという音だけで姿は見えない。


 しばらくそうしていたのだが、突然背後から肩を叩かれた。近くには何もいなかったはずだ……だが肩を叩かれたのは間違いない。

 恐る恐る振り返るも、そこには何もいなかった。ほっと溜息をつき前を向くと――


「トリックオアトリート!」

「うおぉ!?」


 目の前にいたのは、不気味なカボチャのモンスターだった。

 カボチャの頭に三角帽、真っ黒な服を着こんだそれは目と鼻の先に浮かんでいる。

 浮かんでいるのだが、改めてみると随分と小さいな。まるで妖精のような――


「ふふふ、ダン様。私ですよ」

「その声は……フロレーテか?」

「はい、せっかく仮装したのでちょっと驚かせてみました。どうでしたか?」


 フロレーテがカボチャのマスクを外すとともに、周囲に姿を現す妖精たち。

 ゾンビ、吸血鬼、フランケン、狼男いや狼女か?いろいろな仮装をした妖精たちが次々と現れる。

 どうやら『ステルス』の魔法で姿を消していたようだ。となるとここはコアルームの隣に用意した森のようだ。


「ああ、本当にびっくりしたよ。心臓が止まるかと思ったぞ」

「ふふふ、大成功ですね。では改めまして……」


 そう言うとフロレーテはカボチャのマスクを被りなおす。

 周囲の妖精たちも、まるでこちらを囲むかのように近づいてきた。


「さて、では皆さんいきますよ――」

「「「「トリックオアトリート!」」」」


 声を揃える妖精たち。この数にイタズラされてはたまらないだろう。ここはお菓子を――しまった。

 フィーネに渡したクッキーと、アーマイゼたちに渡した飴玉で倉庫内にあったお菓子は品切れである。

 じりじりとこちらに近づいてくる妖精たちに、冷や汗をかきながら声をかける。


「あー、今はちょっとお菓子を切らしててな。少し待ってもらえれば用意できたりするんだが……」

「仕方ないですね。では少しだけ待つとしましょう」

「ああ、助かるよ。すぐに用意するから――」

「そうですね、では5秒だけ待つとしましょうか」


 フロレーテの言葉は信じられないものだった。さすがに5秒でここにいる妖精全員に配れるお菓子を用意できるわけがない。


「フロレーテ、さすがに5秒は短すぎるんじゃ――」

「はい、5秒経ちましたね。さあ皆さんイタズラの時間ですよー!」

「「「「おー!」」」」


 フロレーテの掛け声とともにこちらへ殺到してくる妖精たち。

 顔にマジックで落書きするもの、体にリボンを巻いていくもの、脇や背中をくすぐるものなど一人一人のいたずらはかわいいものなのだが、さすがに数が多すぎる。

 妖精たちにもみくちゃにされながら、お菓子のストックは常に切らさないようにしようと心に誓った――


 ◆


「タイム、ちょっとタイムーー!」


 そんな言葉とともにベッドから飛び起きる。

 あたりを見回すが、仮装した妖精も怪しげなカボチャも部屋の中にはいない。

 顔に落書きもなく、どこかにリボンが巻かれているということもなかった。


「……夢か。まあそうだよな」


 おかしな夢だったな。この世界でハロウィンなんてものがある時点であり得なかったのだ。

 最近少し働きすぎて疲れがたまっているのかもしれない。そんなことを考えながらベッドの上で伸びをすると、のそのそとベッドから抜け出した。


「さて、今日も頑張るか――」


 あくびをかみ殺しつつダンジョンコアのある部屋に繋がる扉を開ける。

 すると、どこかで見たような小さな白い影が飛び出して来て――


「トリックオアトリート!」

というわけでハロウィンネタでした。


果たしてダンはこの無限ループから抜け出すことはできるのか。そして、アントと妖精たちは無事お菓子を手に入れることができるのか!


ちなみにハロウィンについてフィーネたちに伝えた黒幕は特に考えていません。たぶん並行世界のダン辺りが教えているのでしょう。

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