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#39 作戦会議

「いや……それは反則だろう……」

「ええ!?あんなのズルいよ!」


 モニターに映る老人と不気味なモンスターの集団は、冒険者を倒した後、なんと地面を掘り始めた。

 どうやらダンジョンの通路を通らずに、直接最下層まで降りるつもりのようだ。


 確かに、ダンジョンを普通に攻略するよりはずっと早いだろうな。隠し通路も、迷路状になっている構造も、徘徊しているモンスターすらほとんど無視できるのだから……

 とはいえ、まさか本当にこんな手を使ってくる相手がいるとはな。

 穴の中では逃げ場がないうえに、脱出しようにも出口はほぼ垂直になった急勾配の遥か上だ。

 よほど自信があるにしても、ダンジョンを掘って攻略というのは正気の沙汰ではないのだが……


 長いこと頭を悩ませていた冒険者の集団が倒されたのはいいが、さらに面倒な相手が現れてしまったな……

 しかも、ダンジョンの入り口付近で戦っていた冒険者の集団は、問題を解決するための時間の余裕もたっぷりあったが、こちらはそうではない。急いで対策を立てなければ、すぐに最下層までやって来てしまうだろう……


「ダン……どうするの?」

「そうだな……よし、まずはアーマイゼたちと相談してみるか」


 せっかく会話できるようになったのだから、彼女たちの意見も聞いてみたほうがいいだろう。

 ダンジョンの防衛や拡張にも深くかかわっている彼女たちだ、もしかしたらいいアイディアをすでに考えている可能性だってあるだろう。


 さっそく、ここにいないサブマスター4人に念話を飛ばす。

 一番先に反応が返ってきたのは、怒り心頭と言った様子のアーマイゼさらにそれを宥めるフォルミーカだった。


『ダン様!なんですかあの無法者たちは!私たちが作った巣をあんな方法で攻略しようなんて許せません!』

「そうだよ!みんなが作ったダンジョンであんなことするなんてズルいよ!」

『まあまあ、落ち着いてよアーマイゼにフィーネちゃん。気持ちは分かるけど、まずはあいつ等をどうやってやっつけるかを考えるのが先だよ。あんなのがいるんじゃ、安心してお昼寝もできないじゃないか』

『……そうですね。ダン様、先ほどは失礼しました。さっそくあの侵入者を倒す手立てを考えるとしましょう』


 アーマイゼは、ダンジョンを無視して攻略されそうなのが許せないようだ。

 ダンジョン製作の大まかな方針はこちらで決めてはいるが、それを具体的な形にするのは彼女たちの役目だ。

 それをこのような形で攻略されるというのは、やはり放っておくわけにはいかないのだろう。

 フォルミーカもアーマイゼを宥めてはいるが、いつにもまして侵入者を倒すことに前向きなようだ。


「じゃあまずは相手の戦力について確認するか。シュバルツ、そっちはどうだ?」

『はい、主様。まず敵は4体。人族の老人が1人と、奇妙な形状の正体不明の相手が3体です』

『正体不明の3体ですが、おそらく通常の生物ではありませんね。おそらく人とモンスターを魔法で合成したものでしょう。安定させるために、いくつもの魔法が掛かっているようですね』

『フロレーテ様、ありがとうございます。老人の戦力は、現時点では一度も戦っていないので不明です。続いて、3体のキメラですが――」


 フロレーテによると、あの不気味な生き物は生物を合成させた、キメラとでもいうべきもののようだ。

 あの3体のキメラで注意するべき点は、大鎌による攻撃、炎による攻撃、そして、結晶を飛ばす攻撃だろう。

 大鎌は遠距離攻撃を主体として近づかなければ脅威ではない。炎はファイアアントをけしかけるか、土の壁で防げるだろう。

 問題は、あの結晶の弾丸だな……冒険者との戦いでは、魔法で作られた土の壁を簡単に貫通していた。

 あれをどうにかしなければ、いざ戦闘となっても、一方的に蹂躙されるだけになるかもしれない。

 近づけば大鎌を持ったキメラが、遠距離ならば結晶の弾丸が飛んでくる。さらに炎が壁のような役割を担うと考えると、非常に厄介な構成と言えるだろう。


『――以上が3体のおよその戦闘力ですね。現在は散発的に攻撃を続けていますが、あまり効果は出ていません』

「ありがとう、シュバルツ。次はあいつらの目的だな……おそらくキメラの材料を狙っていると思うんだが……』


 モニターを通して観察していたが、侵入者たちは倒した冒険者の死体をいくつか回収していた。

 そしてフロレーテの言った、人間とモンスターを合成したキメラという話……人間の素材を手に入れたのならば、次に手に入れようとするのはモンスターの素材だろう。


『私の眷属をあのようなおぞましい生き物にするつもりなのですか!?ますます許せません!』

『そうだね。私もあんな不気味な生き物にされちゃうのは、さすがに勘弁してほしいかなー』

『主様、私もあのような輩を許すことはできません。それに、このままではそう遠くないうちに、最下層まで攻め込まれてしまうでしょう。そうなれば、私たちを素材にキメラを作るというのも、現実になってしまうかもしれません』

「ええ!?アタシもキメラにされちゃうのかな……そんなのやだよ!」

『そうですね……7階層以降は戦えるものも少ないです。それまでに止めなければ、大変なことになるかもしれません……』


 そう、下層にいるモンスターの殆どはワーカーアントやメディックアントなどの戦闘向きではないモンスターなのだ。

 戦闘向きのものは、防衛用の階層に集中してしまっているからな……最下層に戦力を集めようにも、ラーヴァアントや卵の育成に特化した構造なので、小部屋ばかりで戦いには向きそうにない。

 フロレーテの言う通り、最低でも防衛用の階層――つまり6階層までで、相手を何とかしないといけないということだ。


 ここでフィーネが、元気よく声を上げる。どうやら、何かいいアイディアを思いついたようだ。


「はいはい!アタシにいい考えがあるよ!穴を掘って進んでるなら、その穴ごと埋めちゃえばいいんだよ!」

「うーん……フィーネの案は確かに悪くないんだが、問題はどうやって相手を埋めるのか、だな。ダンジョンにいるモンスターで、一気に地面を崩せるほどの火力を持ったモンスターはいないからな……」

「あっ……そうだね……いい考えだと思たんだけど……」


 フィーネがしょんぼりとしてしまったが、その考えは悪くはない。

 何せ相手は一方通行の穴の中だ。周囲に出口がないならば、土で埋めてしまえばそのまま倒すことも可能だろう。

 落ち込むフィーネだが、そこへシュバルツから助けが入る。


『いえ、主様。不可能ではないかもしれません。侵入者は現在真っ直ぐに穴を掘っています。そして、このまま進むと、一階層のここ――何本もの通路が隣接しているこの地点の下を通過するでしょう。この周辺の通路を塞いで、ファイアアントの可燃性のガスを充満させ、相手が通過する瞬間に爆破すれば、崩落を起こすことは可能だと思われます』

「なるほど……それなら、一度試してみるのもいいかもしれないな」

『そうだね、どうせ終わったら穴を埋めなきゃいけないんだし。崩れちゃおうが少し手間が増えるだけだもんね』


 さっそくファイアアントたちを、目的地点へと移動させる。

 各通路に穴を開けて繋げると、それ以外の場所へと通じる場所を土で塞いでしっかりと固めて密閉する。

 さらに、密閉された通路の中にファイアアントが大量の液体をばらまき、揮発した可燃性のガスが充満していく。

 これで準備は完了だ。ファイアアントたちは、厚めに作られた土の壁の中に避難し、小さく長い穴をあけると、着火の合図を待つ。


 そして、シュバルツの予想通り、ゆっくりと侵入者たちが真下を通過する――今だ!

 着火の合図とともに通路内は爆炎に包まれ、その衝撃によって天井が崩落し、侵入者たちの元へと降り注いでいく。

 そして、掘っていた穴ごと、侵入者たちは土の中へと埋まった。


「やった!成功だよ!さすがアタシの作戦だね!」

「ああ、これならさすがに――いや、まだ生きてるぞ!」


 その様子を見て得意げなフィーネだが――ダンジョン内には侵入者の反応が残っている。

 そして、侵入者がいたあたりの土が弾け、巨大な結晶の砲弾が遥か上にある天井へと突き刺さる。

 侵入者の様子は――カマキリのキメラの足が折れていたり、いくらかダメージを負った様子は見受けられるが、致命傷らしきものは見られない。老人に至っては、土で汚れてはいるが、ただそれだけだ。

 折れていたキメラの足も、老人が治療を施すとすぐに治ってしまった……


「そんなあ……うまくいったと思ったのに……」

『フィーネ様、確かに失敗ではありますが、相手の手の内をいくつか見ることができました。相手に回復能力があることもわかりましたし、攻撃方法も小さな結晶だけでなく、あのような巨大なものまで飛ばすことができると分かったのは大きいでしょう』

『そうですよフィリオーネ、そこまで落ち込むことはありません。十分に成果は出ていますよ』

「そうだな……先に相手の手の内が分かったのは、これから役に立つだろう。戦闘中にいきなりやられるよりはずっといいからな」


 とはいえ、これで穴ごと埋めてしまうという作戦はもう使えないだろう。

 一度目で攻略されてしまったのだ、条件の整っている場所も少ないうえに、そもそも何度も同じ手が通用するということは考えにくい。


「穴埋めがダメとなると……もう進路上で待ち伏せするくらいしかないか?」

『主様の言う通りですね、これ以上大きな崩落を起こすのは無理でしょうし、同じ手を何度も使ってもおそらくダメでしょう。どこか広い場所で迎え撃つことができれば勝機はあるでしょう』

『ダン様!ならば進路上に大きな部屋を作ってそこで待ち伏せするのはどうでしょうか!5階層か6階層ならスペースもまだありますし、時間の猶予もあるでしょう!』

『私もアーマイゼの案に賛成だね。それと、ジャイアントモールの皆にも手伝ってもらえば、もっと早く準備できそうだよ』

『たしか何人かの妖精たちがジャイアントモールの巣に行っていたはずですね。協力を呼びかけるように伝えておきましょう。ダン様、迎え撃つのは何階層にしますか?』

「よし、それなら余裕を持って5階層で待ち受けることにしよう」


 相手の侵攻の速さを見る限り、準備に使える猶予はおよそ1週間というところか。

 この間に部屋の拡張とモンスターの移動、それに相手との戦闘への対策を練るとなると、長いようで短いな……


「まずは……炎を防ぐための壁と、あとはあの弾丸を避けるのに段差が必要になるか?」

『主様の言う通りですね、特に結晶による攻撃はかなり危険でしょう。壁は相手をかく乱するのにも使えますし、壊れてもいいようにある程度は用意しておきたいですね』

「じゃあ、壁の近くにも隠し通路を作っておこうよ!隠れながら移動すれば、相手を混乱させられるんじゃないかな!」

『ダン様!アントレディアの数も増えていますし、彼女たちの装備もある程度整っています。相手が逃げる可能性も少ないでしょうから、一度実戦で使ってみるのはどうでしょうか』

「そうだな、アントレディアに持たせる装備は――」


 次々と出たアイディアをまとめて、さっそく待ち伏せ用の大部屋の作成に取り掛かる。

 まずはキングモールがガリガリと重機のように壁を削っていき、掘った後をワーカーアントたちが整えていく。

 さらに、整え終わった場所にアースアントが壁を作り、その周辺の地面に隠し通路を設置する。

 さらにアントレディアの装備と編成を考え、必要な戦力を集めていく――


 そして、侵入者が到達する前に、無事準備が完了した。

 現在相手がいるのは4階層、予定通り作った空間に向けて真っ直ぐ向かってきている。

 じきに待ち伏せしている場所へと到達するだろう。


『主様、そろそろ敵が目的地点に到達します』

「ついに来たか……シュバルツ、あとは頼んだぞ」

「シュバルツちゃん頑張ってね!」

『お任せください!必ずや勝利してみせましょう!』

『シュバルツ!必ずやあの無法者たちを討ち取るのです!情けなど無用ですよ!』

『ああもう、アーマイゼはちょっと落ち着いてよ。もう私たちにできることはないんだから』

『シュバルツさん……無理をしすぎないでくださいね。妖精たちにできることはありませんが、ご武運をお祈りしています』


 ……アーマイゼも戦いたがっていたが、さすがに彼女たちを前に出すわけにはいかない。

 シュバルツのようにボスモンスターの効果による高い回復能力や、修羅場をくぐってきた戦闘経験もないうえに、万が一にでもやられてしまえば、戦力が大幅に落ちてしまうのだから。

 最終的にはフォルミーカに宥められて、しぶしぶといった様子ではあったが、引き下がってくれた。


 そして、ついに敵が待ち伏せしている場所へと到達した。多少のズレはあったものの、計算した通りに天井を掘り抜き、アントたちが待機している場所へと落下してくる。

 まずは先手必勝、相手が地面に着地すると同時に、ファイアアントたちが攻撃を開始する。

 一列に並んだファイアアントから発射された炎が、落下した衝撃で体勢を崩した相手を飲み込んだ――

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