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#38 狂気の怪物

「26番、やれ」

「!?ヴィクシム!下がれ!」

「なっ!?」


 ワシの後ろに控えていた、26番がその鋭い鎌を男の首元めがけて振り下ろす――じゃが、仲間の声に反応してとっさに下がったせいで、ギリギリのところで避けられてしまった。

 やれやれ、できるだけ完全な形の素材を手に入れたいというのに……もし戦闘中に傷ついてしまえば、それだけキメラになった時の質が下がってしまうのじゃがな。


「26番、54番、87番、一人も逃がすでないぞ。できるだけきれいな状態で殺すのじゃ。お前らの後輩になるかもしれんのじゃからな」

「狂ってやがる……全員武器を構えろ!来るぞ!」

「ちくしょう!あのジジイ絶対に許さねえぞ!」


 さてと、ワシは奴らのように戦うことはできん。戦いに巻き込まれないように少し離れて観察するとしようかの。

 複数の高ランク冒険者をキメラの性能実験に使う機会などそうそうないじゃろう。良いデータが取れるといいのじゃが。


「こいつはデスサイズか!?鎌に注意しろ!俺が押さえるからその間に攻撃するんだ!」


 まず動いたのは26番と相対している冒険者たちのようじゃな。重装備の冒険者が、薙ぎ払われる鎌を受け流そうと盾を構える。

 たしかに、普通のデスサイズが相手ならそれでもいいじゃろう。じゃが、ワシのキメラはそこまで甘くはない――


「ぎゃっ!?」

「なにっ!?」


 26番の振った鎌はその軌道を僅かに変え、相対した冒険者をその盾と鎧ごと真っ二つにする。さらにそれを見て足を止めてしまった冒険者へと襲い掛かり、次々とその鎌で切り裂いていく。

 ふむ、あの盾と鎧はおそらくミスリル製じゃろう。なかなかきれいに切断できておるようじゃな。


 26番はデスサイズと呼ばれるカマキリのモンスターと獣人の戦士を混ぜたキメラじゃ。

 デスサイズはミスリル製の装備すら切り裂く非常に鋭い鎌を持っているため恐れられているモンスターじゃが、その攻撃方法はただ切れ味に任せて鎌を振るうだけ。うまく受け流すことができる者がいれば、隙も大きいためさほど脅威ではない。

 じゃが、26番は素材となった獣人の経験により、より切り裂きやすく、弾かれにくい角度で鎌を振るうことができる。

 結果として、あのような防御に特化した冒険者だろうと簡単に切り捨てることができるのじゃ。まさしくワシのキメラの理念を体現した存在と言えるじゃろう。


「シエル!やめてくれ!クソッどうしたらいいんだ!」

「ヴィクシム!気持ちは分かるが諦めろ!このままじゃ俺たちがやられるんだぞ!」


 54番の相手は足並みが乱れておるようじゃの。このままだとデータに誤差が出る可能性があるんじゃがのう……さっさと諦めて戦って欲しいところなんじゃが。


 54番がトカゲの口から火を吐き、さらに人間部分もそれに合わせていくつもの火球を生み出して攻撃しておる。

 何人かの魔法使いが壁を出して防いでおるが、既に攻撃の機会を失って、完全に防戦一方のようじゃな。

 やれやれ……こっちは有用なデータを取る前に終わってしまいそうじゃわい。


 54番はサラマンダーと呼ばれる火山地帯に生息するトカゲのモンスターと、火属性に適性を持つ魔法使いを合成したキメラじゃ。

 じゃが、物理型の26番と違って、魔法型の54番は知能の影響を大きく受けるため、課題も多い。

 魔法の威力は向上させることができたが、知能の低下の影響なのか、複雑な魔法を行使することはできなくなってしまった。

 とはいえ魔法の威力自体はキメラになる前の数倍になり、さらに行使できる時間や回数も増加しているからの。知能面の問題が解決すれば、火力面では26番を大きく超える強力なキメラになるじゃろう。

 素材となる魔法使いが少ない点、それに属性を合わせないと大きく劣化する点も何とかしたいところじゃな。


 そして最後に87番!このキメラは2種類のモンスターと人間を混ぜ合わせることに成功したものじゃ!

 まずはブラストアリゲーターと呼ばれる2対の頭を持つワニのモンスター、片方の頭から水を吸い込み、もう片方の頭がそれを圧縮して発射するという一風変わったモンスターじゃ。

 発射される高圧の水は、岩を砕くほどの威力を持ち、並みのモンスターなら一撃で倒してしまう。


 さらに!特筆するべきはもう一体の素材となったものじゃ!

 この世界の東の果てにある小さな島々、かつてもう一つの大陸があったと伝えられるそこには、他の陸地と隔離されたことによる独特の生態系が築かれておる。

 新しいキメラの素材を手に入れるために、その島々を回った時発見した素材――とある民族に神の依代として祀られておった、大昔のモンスターの一部とみられるもの。

 それに何かを感じたワシは、もはや長い年月を経て化石となったそれを神聖魔法や特殊な秘薬、さらには死霊術まで用いて復元しようとした。

 そしてついに!たった一つだけじゃが、その機能を復元することに成功したのじゃ!


 ようやく復元に成功した機能――それは取り込んだ物質を高純度かつ超硬度のマナの結晶へと変換する機能。

 マナから物質を作るモンスターはありふれたものじゃが、その逆が可能なモンスターなど存在しなかった!

 まさに世紀の発見!いや、まさしく神の領域に至る発見と言ってもいいじゃろう!

 その機能を組み込み、さらに精製した結晶を高速で射出することができるようにしたのがこの87番じゃ!


 2体のモンスターを組み込んだことで知能面では通常のキメラよりも多少劣るが、周囲に物質が存在すれば――つまりこのキメラは実質無限に攻撃することができるのじゃ!

 惜しむべきは、マナの変換効率の低さと、元のモンスターについては全く分からないことじゃな……もしこれを量産することができれば歴史を変えることもできるじゃろうに。

 それに、モンスターの素材がすでに化石となっていたために、復元できた機能も大幅に劣化しているはずじゃ。おそらく、マナの変換効率も本来ならもっと高かったのじゃろう。

 なんとか生きているそのモンスターを手に入れたいものじゃが、物質をマナに変換できるモンスターが見つかったなど聞いたこともないからのう……おそらく既に絶滅してしまったのじゃろうな。


「あれに当たるな!」

「『ストーンウォール』!……ダメだ!防ぎきれない!」


 87番が結晶の弾丸を放つたびに、避けきれなかった冒険者たちが倒れていく。

 防御呪文を使っているものもいるようじゃが、そんなもので防ぎきれる87番ではない。

 両腕に付いたブラストアリゲーターの口から発射される結晶の弾丸は、中級のドラゴンの鱗でさえもまるで紙のようにやすやすと貫くことができるのじゃ。

 逃げ場のない通路にばらまかれた弾丸は、前衛も後衛も分け隔てなく死に至らしめておるわ。


「ちくしょう!アイツだ!あのジジイを狙うんだ!」


 何人かの冒険者は、キメラではなくこちらを狙おうとしているようじゃが、ワシのキメラに背を向けて無事で済むとでも考えているのじゃろうか?

 こちらへ向かおうとする冒険者は、背後からキメラの攻撃を受けて、ここまでたどり着くことすらできておらん。まったく愚かなやつらじゃな。


 そして――戦いが始まってから十分も経つころには、20人近くいた冒険者はもはや一人として生きておらんかった。


「ふ、ふはっ、ふはは!どうじゃ!ワシのキメラの力は!現時点でもこの性能!完成すれば敵などないじゃろう!」


 あれだけの高ランク冒険者を相手にするのは初めてじゃったが、ワシのキメラの前ではこの程度じゃったか!


 いつからか――キメラの研究を重ねるうちに、ワシはなぜ強力なモンスターが住むこの世界で人間たちが勢力を伸ばしているかという疑問を抱くようになった。

 金属を切り裂くもの、高速で地を駆けるもの、大地をその力のみで割るもの――モンスターは人間に比べて圧倒的に高い身体能力を持っている。

 人間の中にも、モンスターに匹敵する身体能力を持つ者もいるが、そんな者はほんの一握り。

 ならば、なぜ人間がここまで勢力を伸ばすことができたのか――それは、その高度な知能によるものじゃろう。


 高い知能を持つ人間は、さまざまな知識を、そして連綿と受け継がれる技術を磨いてきた。

 その積み重ねた知識は相手の行動を予測し、時には高度な連携を可能とし、その積み重ねた技術は己の能力を高め、強大なモンスターとの身体能力の差を埋める。

 そうして、その戦いで得た経験を新たな戦いの糧として、人間たちはこの世界で繁栄してきたのじゃ!


 じゃが、人間がどれだけ力を付けようとも、それを歯牙にもかけないような強力なモンスターはこの世界に数多く存在する。

 そして、そのような人間の手に負えないような強力なモンスターは、高い知能を持っていることが多い。

 ならば、人とモンスターを合成することで、高い身体能力を持ちながら、なおかつ高い知能を持つキメラを作ればよいとワシは考えたのじゃ。


 その成果がこれじゃ!見よ!やはりワシの研究は間違ってはいなかった!ここに骸を晒す冒険者たちが何よりの証拠じゃ!

 未だ完成に至っていないのにもかかわらず、これだけの性能を誇るワシのキメラ!研究が完成した暁には、最高の戦力を生み出すことができるようになるじゃろう!

 その時こそ!ワシの偉大な研究が世界に認められるのじゃ!


 ……とはいえ、未だに改善しなければならない点は山積みなのじゃがな。

 特に、モンスターと融合したことによる知能の低下は、絶対に解決しなければならない問題じゃ。

 これでも、最初期のキメラと比べると知能は格段に向上しているのじゃが、それでも目指すものにはまだまだ届いておらん。


 現にできるだけきれいに殺すように命令したのじゃが、冒険者の死体はそのほとんどが素材として使うには少々無理がある状態になってしまっておる。素材として使えそうなものは――たったの3体といったところじゃな。

 単純な命令しかこなせないようでは、キメラに戦闘を任せるわけにはいかんからの。ワシの理想のキメラが完成するのはほど遠いわい。


 さて、素材を手に入れたはいいが、少々予定が狂ってしまったわい。さっさとキメラの材料となるモンスターを手に入れないと、せっかく手に入れた素材が劣化してしまう。

 劣化を防ぐ処理をしたところで限界があるからのう……ゆっくりダンジョン内を見て回ろうと思っていたが予定変更じゃ。このダンジョンは土で出来ているようじゃからな、そうとなれば少々急がせてもらうとしようかの。


「87番、地面を掘るのじゃ。このまま直接ダンジョンコアのもとへ向かうとしよう」


 ワシの命令とともに87番が地面を削り、下へ下へと地面を掘り進んでいく。

 このペースだとそれほど時間はかからなさそうじゃな。これなら素材が劣化する前にダンジョンの奥深くまで行けるじゃろう。

 先ほどの戦いで87番が消費したマナも、掘った土を利用して補給できるから一石二鳥じゃな。


 地面を掘り進んでいくうちに、ジャイアントアントがやってきたがどれも素材としては微妙じゃな。直線を利用して54番の炎で焼き尽くしてしまうとしよう。

 さて――これだけ有名なダンジョンじゃ、何匹かは魅力的なモンスターがいることじゃろう。どんなモンスターがいるか考えるだけでワクワクするのう。

 ワシの研究に役立ってくれるような素晴らしい素材があればいいんじゃが――

キメラの説明に枠を取られて、肝心のお話がほとんど進んでいないという…

次回はもう少しサクサクと進めたいですね!

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