#32 エンプレスアント
土竜王との遭遇から3日が経過した。あれ以降これといった事件は特に起きてはいない。
アーマイゼたちはクイーンアントからエンプレスアントへと進化したものの、卵を産む量は変化していなかった。少し期待していたのだが残念である。
クイーンアントに進化した時と同じように、生まれてくるアントの質は上がっているものと予想されるが、侵入者が強くなればこのままでは数が心もとないだろう。
もし足りないようだったら、マザーアントやクイーンアントを用意する必要もあるかもしれないな……増やしすぎると今度は維持コストがかさんでしまうの悩みの種なのだが。
エンプレスアントへと進化したアーマイゼたちは、土属性の魔法に加えて火属性の魔法まで使用可能になっている。おそらくは炎竜王の魔核を摂取して進化した影響なのだろう。
地面から土の槍を出したり、火球を飛ばしたりとなかなか使えそうな魔法が多かった。
さらに、両手が使えるように進化したことで、武器を持たせることも可能にもなった。とはいえあの巨体なので、普通の武器ではサイズが合わないのだが。
「この武器は――ダメだろうな」
ショップを見ると巨人用の大きな武器などもあるのだが、巨大なこん棒や斧などの重量を活かした武器ばかりだ。これをアーマイゼたちが使いこなせるイメージが沸かない。
やはりこちらで装備を用意する以外にはないようだ。彼女たちが戦う場面はほとんどないだろうが、用心しておいて損はない。
鍛冶ができるモンスターとなると何がいいのだろうか。以前確認したのだが、召喚リストにはそれらしいモンスターは存在しない。進化させていくうちに現れるのか、それとも最初から存在しないのか――
鍛冶に関する知識を与えるアイテムは存在していたが、まさか自分で作るわけにもいかないだろう……
この体は食事の必要などもない便利なものではあるが、運動能力に関しては普通の人間と変わらない。鍛冶をしようにも筋力も体力も足りないだろうし、巨大な武器を1つ作るのにどれだけの時間がかかるのかを考えるだけでも恐ろしい。
いっそアーマイゼたちに作らせるのも――いや、これもダメだな。彼女たちも役目がある。それに、鍛冶は片手間で出来るものでもないだろう。
武器の準備についてあれこれ悩んでいると、フィーネがダンジョンから帰ってきたようだ。頭の上にふわりと着地するとモニターを覗き込む。画面に映った武器を見たのか微妙そうな声を上げた。
「ねえねえダン、この変な武器を使うの?」
「変な武器って……」
確かに巨人の武器は骨や岩などを使っている上に独特な形状や模様をしているため、変な武器だとも言える。だが、ワイルドな見た目でもあるので、使えるかどうかはさておき、なかなかかっこいいとは思っていたのだが……フィーネにはこの手の装備はお気に召さなかったようである。
「アーマイゼたちに装備を用意しておこうかと思ったんだが、いいものがなくてな……」
「ふーん……そうだ! アーマイゼちゃんといえば新しいアントはどうなったの?」
「そういえばそろそろ成体になる時期だな。一度確認してみるか」
確かにアーマイゼたちの進化から6日が経過している。すでに最初に生まれた卵は孵化しているし、生まれたアントたちも早いものは成体になる頃だ。
アーマイゼたちの装備に関しては今すぐ用意しないといけないものではない。装備が無ければ戦えないというわけでもないので、先にアントたちの様子を見るのもいいだろう。
アントラーヴァたちの様子は――ちょうど食事の時間だったようだ。あちこちでワーカーアントたちから魔力を貰っている。しばらく観察していると、1匹また1匹と進化を始め成体へと成長していく。
予想通り上級のアントに成長するものがちらほらと見える。これでダンジョンの戦力が強化される速度は大きく上昇させることができるだろう。
さらに、何種類かの新しいアントたちも確認できた。
まず最初に現れたのはニードルアントだ、体長2m程でワーカーアントに近い見た目をしている。ニードルという割に甲殻にそれらしい特徴はなかったのだが、どうやら腹部の先端から針を出せるようだ。
針の先から液体のようなものが出ているのが見える。おそらくあの針は毒針なのだろう。物理攻撃と酸による攻撃に加えて、毒による攻撃ができるなら戦略のバリエーションが増えそうだな。
次に現れたのは、体長1.5mほどの少し赤みがかった黒い甲殻を持つアントだ。
名前はファイアアントだ。おそらくこれは火属性の能力を得たために生まれるようになったと思われる。
ファイアと名が付くということは、火属性の攻撃手段を持っていたりするのだろう。
試してみたいが、周囲には他のアントもいる。周りに被害が出ないように、後で何もいない場所で実験するべきだろう。
さらに最後に現れたのが、マザーアントとほぼ同じ見た目のスポーンアントだ。
スポーンアントは、進化するとすぐに10個ほどの卵を産み始めたのだが、どうやら魔力を使わずに卵を産めるようだ。生まれてくるアントの種類にもよるが、マザーアントの上位互換的存在なのだろうか?
保有魔力の限界値は2万になっている。試しに魔力を限界まで付与してみたが、どうやら進化はしないようだ……上位互換に近い存在ではあるものの、デメリットも存在するようだな。とはいえアントの数がさらに増えるのは喜ぶべきことだろう。
ただ、エンプレスアントの卵からこの手のモンスターが生まれるとなると、最終的には維持費だけで毎日の獲得DPを使いつくしてしまう可能性が出てくるな……
あらかた進化は終わったようなので、次はファイアアントの攻撃方法を調べるとしよう。現在使っていない部屋にファイアアントを移動させ、攻撃をしてみるように指示する。
「攻撃に魔法は使わないのか」
「あのドラゴンのブレスに似てるね!」
予想とは違い火属性の魔法で攻撃するわけではないようだ。腹部から可燃性の液体を発射してそれに着火することで、火炎放射器のように炎を飛ばすようだ。それはまるで炎竜王が放っていたブレスのようだ。
腹部の先端から噴き出る炎が、周囲を火の海に変えてしまった。幼虫たちのいる部屋で試すのを避けたのは正解だったな。
炎竜王のブレスほどの威力はさすがにないのだろうが、幼虫たちは確実に全滅してしまっていただろう。
吹き出る炎の威力はかなり高そうなのだが、あまりに勢いが強すぎて他のアントたちまで巻き込んでしまいそうである。
ファイアアント本体は炎や熱に耐性を持っているようで、轟々と燃え盛る炎の中でも特にダメージを受けている様子はない。
どうやら炎を出せる時間もそれほど長くないようで、しばらく火炎放射を続けていたのだがやがて勢いが少しずつ落ち始めて最終的には炎が消えてしまった。
火炎放射によって味方を巻き込んでしまう可能性があることも加えるとかなり癖の強い戦力となるだろう。ただし、大量のファイアアントを並べて攻撃した場合はかなりの殲滅力を発揮しそうではある。運用次第では、非常に強力な戦力になることは間違いない。
――新しいアントたちが現れてから1週間が過ぎた。幼虫たちは順調に成長していき、次々と進化をしている。そして、さらにもう1種類のアントがこの1週間の間で誕生した。
「これは予想外だったな……」
「アーマイゼちゃんたちにそっくりだね!」
モニターに映るのは、体長2m程の大きさのアント。他のアントとは大きく違い、2本の腕が付いた上半身を持ち、4足で歩行する――その見た目はまさしく小型版のエンプレスアントだ。名前はアントレディアとなっている。
アントレディアはアーマイゼたちとは違って、卵を産むことはできないようだが、土属性と火属性の魔法は使用することができる。
さらに、サイズは人間と大して変わらないので、人間用の武器でも問題なく持たせることができてしまうのだ。
現在は倉庫内から適当な剣と盾を選んで持たせているのだが、今後は倒した冒険者から奪い取った装備を持たせることでさらに強化ができてしまうだろう。ショップからも装備を調達可能だ。
さらに他のアントに比べると知能が高いようなので、鍛冶の知識を与えてみたのだが、土と火の魔法を利用して鍛冶を行えるため適正がかなり高いようだ。筋力や体力に関しても申し分ないので、これで彼らやアーマイゼたちの装備も作ることができるだろう。倉庫に眠っている炎竜王の素材や鉱石などにようやく使い道ができた。
おそらく今回で一番の戦力の強化はこのアントの誕生によるものだろう……大顎や酸による攻撃などは苦手なようだが、装備の生産や、魔法と多種多様な武器の組み合わせによる戦闘は応用が利くだろうし、かなり期待ができそうだ。
現時点ではアントレディアは数匹しかいないため戦闘では使いにくいが、このままのペースで増えれば鍛冶だけでなく戦闘に回すのにも十分な数になる。
前回来た冒険者は、攻略ではなく調査のためにダンジョンに来ていたのだと思われる。外ではこのダンジョンがどうとらえられているのかは不明だが、あれだけ暴れたのだから危険視はされているはずだ。
今後来るであろう侵入者たちはますます強力になるのだろう……ダンジョンの防衛のためにもアントたちには頑張ってもらいたいものだ。
次はモンスター解説と用語解説になりそうです。
ニードルアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/3000
状態:健康
ファイアアント
名前:-
基礎戦闘力:500
保有魔力:0/5000
状態:健康
スポーンアント
名前:-
基礎戦闘力:300
保有魔力:0/20000
状態:健康
アントレディア
名前:-
基礎戦闘力:1000
保有魔力:0/50000
状態:健康




