閑話 土竜王襲来!?
シュバルツのリボンが謎の冒険者に強奪された次の日――
今回侵入してきた冒険者は、今まで見てきた中でも最上位に位置するのはまず間違いないだろう。
シュバルツが追い返したようだが、高級そうなナイフを1本折っただけで、攻撃を掠らせることすらできず、ダメージを与えることができなかった。
さらに、冒険者の位置が突然判らなくなるという現象にも悩まされることになった。
ダンジョン内をモニターで見ていると、そこにいるはずの冒険者が突然霞のように消えるのだ。何らかのアイテムか、魔法の効果によるものだと思われる。
おおよその位置はコアを通じてわかるのだが、アントたちにも冒険者の姿が見えないようで対策なしでは満足に戦うことすらできないだろう。
今のところシュバルツ以外に見つけられるモンスターはいないだろうし、どうやったら対策出来るのかすら思いつかない。
幸い長時間使うことはできないのか、姿を消したままというわけにはいかないようだ。
今のところは、ダンジョンを広くして時間を稼ぐしかあれに対応する手段はないだろう。
はたしてシュバルツはどうやってそこにいると判別したのだろうか?
今回の冒険者のように、力押しではなく搦め手を使うタイプの敵もこれから増えるのだろう。ある程度予測を立てて、いざ現れたというときに慌てないようにしなければ。
リボンを奪われたシュバルツは、そのまま冒険者を追ってダンジョンの入り口から飛び出していったが、残念ながら取り逃がしてしまったようだ。
重い足取りでダンジョンへと戻て来たシュバルツだが、どうやらリボンが無くなってしょんぼりしていたようなので、妖精たちが新しいリボンをプレゼントしていた。
なんとか機嫌は直ったみたいだが、あのリボンをそんなに気に入っていたとは……アントにも着飾りたいとかそういった考えがあるのだろうか?
なにはともあれ、シュバルツの調子も戻りダンジョンの上層部の拡張も順調に進んでいる。
炎竜王によって得たDPで8階層を追加した後は、防衛用の階層の領域をひたすら広げていくことにした。
そして、1階層の通路を拡張していた時に事件は起こったのだ――
1階層の地下1kmあたりをワーカーアントたちが拡張していた時だった。掘り進んでいた通路の先の壁が崩れ落ち、こちらが作ったものではない空間が見つかったのだ。
「どうなってるんだ?」
「おっきいトンネルだね!」
トンネルの直径は20m近くあるだろうか、ジャイアントアントが掘っているものよりも大きい。表面はある程度きれいに削られ土が固められており、自然にできたものではないと思われる。
さらに、どこかが崩れているということもない、おそらく現在も使用されているのだろう……
人間がここまで深い場所に穴を掘っているということは考えにくい。近くに鉱山などがある様子もないし、周辺にそれらしい施設も見当たらなかった。
ということは、ジャイアントアントのように地中で暮らすモンスターが掘った穴だと考えるのが自然だろう。問題はどのようなモンスターがここに住んでいるのかなのだが――
ダンジョンの領域内にはモンスターの反応はない。おそらく領域外までこのトンネルは続いていて、そのどこかにこの穴を掘ったモンスターがいるのだろう。
今なら気付かれてもいないだろう。見無かったことにして、穴を塞いでしまおうか?
いや、ダンジョンの近くに未確認のモンスターが住んでいるというのも落ち着かないだろう。何かしらのきっかけでこちらに攻めてくるということもあり得なくはない。
ダンジョンに近づく野生モンスターは少ないが、まったくいないというわけでもないのだから。
穴を埋めてしまうにも、まずはどんなモンスターが生息しているのかを調べてからだな。
アントフライをトンネル内に放ち、ダンジョンとつながる部分にアントたちを配置して防御を固めておく。直径20mもの大きなトンネルを掘るようなモンスターだ。油断はできないだろう。
アントフライは穴の中を飛び回り、ついに数匹がダンジョンの領域の外へと到着した。さらに調査を進めていく――すると突然、アントフライのうちの1匹が何者かに倒されてしまったのだ。
最後に見えたのは、地面から伸びてアントフライを貫いた土の槍。おそらく土属性の魔法だろう。
アースアントではあのような槍を作ることはできない。これは本当に危険なモンスターが生息している可能性もあり得るな。
残念ながら、魔法を放ったであろうモンスターを確認することはできなかった。
ダンジョン内は明かりがなくても問題なく見える。しかし、ダンジョンから離れるごとに少しずつ暗闇に包まれていいくのだ。
アントフライたちは少しの光でも視認できるようで、その視界を通じてある程度はこちらも内部を確認できるのだが、それでもダンジョン内に比べるとかなり見えにくい。
さらに先に進めば、おそらく何も見えなくなってしまうのだろう。
アントフライがやられてしまったので、シュバルツたちを含むアントの群れをダンジョンから通路の中へと進ませる。さらに追加で大量のアントフライを先ほど戦闘があった場所へと送り込む。
アントフライたちが目標地点に到達したのだが、そこにはアントフライの死骸は無い。それらしいモンスターも見当たらなかった。すでに移動してしまったのだろうか?
ぞろぞろと列をなして進むアントたちは、アントフライがいた場所を超え、さらに先にある広場のような場所にたどり着いた。広間は半円のドーム状になっており、天井部分は暗闇に包まれていてほとんど見えない。
広場の先にも通路は続いているようだが、これ以上先はこちらからは様子が見えないだろう。
アントたちは何かしらの感覚器官で周囲を確認できているようだが、こちらは視覚や聴覚を通じてしか周りを確認できない。それ以外の方法でアントたちが感じたものはこちらからは分からないのだ。
帰還させるか、探索を続けさせるかで悩んでいた時であった。まるで地震が起きているように地面が揺れ、天井からパラパラと土が落ち始めた。もしや崩落するのかとアントたちに急いで退却するように伝える。
アントたちが広間から脱出しようという瞬間、広間の中心付近の地面に穴が開いたのだ。
地面にあいた穴から巨大なモンスターが這い出してくる……地面から背中までの高さは5m以上、体長はさらに長い。クイーンアントを超えるかもしれないほどの巨体である。
黒みがかった茶色の巨大な体から生えている前足は、硬い大地を掘り進むために発達したのであろう。強靭な爪が生え、独特の形状になっている。
さらに、目を引くのはその特徴的な形の頭部。先細った形の頭部には、細長く大きな鼻が付いており、それとは裏腹に、小さくつぶらな黒い目が付いている。地中で生活するために、目は退化したのだろう。
最後にお尻からぴょこんと伸びるかわいらしいと形容できそうな短い尻尾。
そう……それは、巨大な――あまりにも巨大なモグラであった。
「なんだありゃ!?」
「なんかかわいいね!」
「……そうか?」
フィーネはあのモンスターの見た目が気に入ったようだ。
確かに全体的に見るとかわいらしいと言えるのかもしれない。だが、クイーンアントを超える巨体のモンスターをかわいいと言っていいのかは微妙なところである……
巨大なモグラはあたりを確認するように、鼻をひくひくと動かしていたが、やがてシュバルツたちの方を向き、襲い掛かってくる。その巨体からは想像できないほどのスピードで体当たりを行い、避け損ねたアントたちが弾き飛ばされる。
壁に叩きつけられたアントは、一部動けなくなってしまったものもいるが、大多数はすぐに立ち上がり、巨大モグラへと立ち向かっていく。動けなくなったものもメディックアントが回復してまわっているので、すぐに戦線に復帰できるだろう。
「ジジッ」
アントに体当たりがほとんど効果が無いと判断したのか、巨大モグラは一鳴きすると、周囲の地面から土の槍を生やし始めた。
アントたちは体の下からの攻撃には弱い。次々と地面から飛び出てくる槍に吹き飛ばされたり、貫かれたりとかなりの痛手になっている。
既に援軍を向かわせているが、こちらが若干不利だろう。何せ相手はあらゆる方向から土の槍を出せるのだ。
アントたちも、地面から飛び出てくる槍を回避しつつ巨大モグラに襲い掛かっているのだが、厚い毛皮に覆われているせいで噛みつきも酸による攻撃も効果が薄い。
少しずつだがダメージを与えることはできているようだが、巨大モグラが噛みつかれたままじっとしているはずもない。地面を転がってアントたちを引きはがしたり、時には自分の下から土魔法で壁を出し、その勢いを利用して飛び上がり、アントたちをその巨体で押しつぶしたりと、巨体に見合わぬ動きで暴れまわる。
だが、暴れまわる巨大モグラが有利だったのは、そこまでであった。
ついに、援軍として送ったアントの大軍が到着し、広場の中へとなだれ込んでくる。慌ててモグラが土魔法で通路を塞いだがもう遅い。すでに援軍の大多数は広場内に入り込み、広場には数百匹のアントたちが蠢いている。
土の壁で塞いだ通路も、後続のアントたちが壁を掘って撤去しようとしている。そのうちに壁は取り払われ、さらに広場内のアントが増えるだろう。
もはや勝敗は決したであろう。巨大なモグラは今まで以上に暴れまわるのだが、たとえどこに転がろうが跳ねようが、動いた先にはアントが待ち構えている。さらに遠距離からは大量の酸の雨が降り注ぎ、容赦なくダメージを与えていく。
やがて魔力が尽きたのか、土の槍も使わなくなり、接近しやすくなったことでアントたちの攻撃の勢いはさらに増した。
ひたすら続く猛攻に、とうとう動けなくなった巨大モグラが地響きを上げて倒れ伏し、悲しげな声を響かせた時であった。
「チーチー」
「ジジッ!?」
通路の奥から、複数の小さな影がよちよちと近づいてくる。……それは巨大モグラよりもはるかに小さなモグラであった。大きさは巨大モグラの1/10にすら満たないだろう。
小さなモグラたちは、巨大モグラのもとへとたどり着くと、巨大モグラの傷を舐め、心配そうにまとわりついている。おそらくだが、巨大モグラの子供なのではないだろうか。
巨大モグラはそれを見て、力を振り絞るように起き上がると、子供のモグラたちを守るように前に出て、アントたちに何か伝えるかのように鳴きはじめた。先ほどまで暴れていた面影はなく、何か懇願するかのような声音になっている。
シュバルツたちもいったん攻撃をやめて、囲むように様子を見ているようだ。
「なあフィーネ、あのモグラ何かを伝えたそうなんだけど、何を言っているのかわかるか?」
「任せてよ!えっとね――『あなたたちが何を求めてここへ来たのかは知りません。もし私の命が欲しいというのなら差し上げましょう。ですが、どうか子供たちだけは見逃してください』」
「なるほど。そういうことだったのか」
最初にアントフライが倒されたことで、勝手に危険なモンスターであると判断していたが、どうやら子供たちを守るために襲い掛かってきたらしい。
よく考えれば、いきなり別のモンスターが住処に入ってきたとなれば襲い掛かるのも当たり前である。こちらだって侵入者相手にはそうするのだから。
お互いの考えていたことがわかると、殺してしまうのもどうかと思ってしまう。
あちらから攻めてきたなら話は別だが、今回はこちらが相手の住処へと侵入したのだ。あちらはそれを追い払おうとしただけで、こちらへ攻めてくる気もなさそうだ。
相手からしたら、平和に暮らしていたのにいきなりこちらが攻めてきた、といった感じなのだろう。ダンジョンを防衛する立場としては相手の気持ちはよくわかる。
「ダン……」
フィーネも何か言いたそうにしている。おそらく見逃してあげてほしいと思っているのであろう。
いつの間にか戦いを観戦していた妖精たちも、不安げな顔でモニターを見つめている。
今回の非は間違いなくこちらにあるのだろう。相手がどうするのかなど全く考えていなかったのだ。
ちょっとした罪悪感を感じながらも、メディックアントに、巨大モグラを治療するように命令する。あのままにしておくのはまずいだろう。
近づいてくるメディックアントをじっと見つめていたモグラたちだが、治療を開始すると警戒を解いて、されるがままになった。
フィーネ達を連れて、モグラたちのもとへと向かうことにする。
光源が無いのが心配だったので、ショップで探そうとしたのだが、妖精たちが明かりを出せるので必要ないとのことだ。
広場にたどり着くと、ぞろぞろと妖精を連れてやってきた人間に驚いたようだが、こちらに敵意が無いことが伝わったのか、襲い掛かってくることはなかった。
そのままフィーネを通訳にして、巨大モグラとの話が進んでいく。
まずはお互いに襲ったことを謝り、ダンジョンとモグラたちで今後どうするのかを話し合う。
元々モグラたちは東に見える山の付近に住んでいたらしいが、強力なモンスターが現れたせいで危険を感じてこの近くまで引っ越してきたらしい。それがどんなモンスターなのかということは分からずじまいだった。
ダンジョンをモグラの住むトンネルまで広げるのは別に構わないらしい。むしろダンジョンの近くだと外敵が来ることも少ないので子供を守るには好都合だそうだ。
最近移動してきたとのことで、食糧はどうするのか心配だったが、あの巨体でありながら意外と小食らしい。食事は地中に生息しているモンスターがトンネル内に落ちてきたものや、掘りだされる魔石などを食べて生きているようだ。アントワームを見る目が捕食者の目であったのが印象的だった……
巨大モグラとの交渉は無事に終了した。こちらはダンジョンの領域が被るのを許してもらい、時にはダンジョンの拡張を手伝ってもらう。あちらは何かあればダンジョンに守ってもらうという共生関係だ。
モグラの巣はかなり広範囲に張り巡らされていたようで、彼ら以外にも何匹かのモグラが住んでいるようだ。トンネル内もダンジョンの通路として活用させてもらっている。
アントたちもアーマイゼたちに統制されているので、以前モンスターを増やそうとした時のように、勝手にモグラたちに襲い掛かるということはないだろう。
勘違いから襲ってしまったことに対するお詫びとして、アントマゴットをプレゼントしたのだが、どうやら子供たちはその味がかなり気に入ったようだ。たまに子供たちにねだられたのか、巨大モグラがアントマゴットを分けてもらいにダンジョンまでやってくる。
お礼のつもりなのか、キラキラした石なんかを置いていくのだが、中には宝石やミスリルなどの鉱石なんかも混じっていることがあるので驚きである……彼らには特に価値のないものだそうだが、対価としてはもらいすぎな気もする。まあこちらも今のところは妖精のおもちゃ以外の使い道もないのだが。
ちなみに、巨大モグラがダンジョン内に入った時に鑑定してみたのだが、なんとネームドモンスターであった。やけに強かったのも納得である。モグラのわりに名前がヴルフレッドなどというかっこよさげな名前だった。
こうしてこのダンジョンにモンスターのお隣さんができた。蟻とモグラというのも奇妙な組み合わせなのだが、お互いの仲は悪くはないようだ。
たまに妖精たちがモグラのもとに連れて行ってほしいとねだり、モグラの巣へと転移させられている。アントたちにしたように、また変ないたずらをしなければいいのだが――少し心配である。
タイトル詐欺じゃないですよ!こちらから攻めたので襲来ではない気もしますが…
キングモール
名前:-
基礎戦闘力:10000
保有魔力:0/100000
状態:健康
ベビーモール
名前:-
基礎戦闘力:20
保有魔力:0/200
状態:健康




