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閑話 妖精と家具選び

 それは妖精たちが森の中に作った家を紹介してもらった時のことだった。


 ふわふわと飛びながら、こちらを急かす妖精たちに手を引かれ彼女たちの家を見せてもらう。

 妖精の里に行った時と同じように、木の中に家を作っているようだ。

 木の根元には設置した覚えのないカラフルなキノコが生え、地面には色とりどりの花が咲いている。


 そして紹介された家の中にあるキノコのテーブルやベッドを見て、コアルームに家具がほとんど無いことに気が付いたのだ。


「そういえば、家具がほとんど無いんだよな……」


 妖精たちと別れ、コアルームへと戻ると家具の一つもなく土がむき出しの殺風景な部屋を見回す。

 コアルームに続いている小部屋の中にも、藁のベッドとフィーネの角砂糖やハチミツをしまっておく棚以外には何もない。

 せっかく小部屋を用意したりしているのだ。この機会に家具を追加しておくのもいいかもしれない。


 残りのDPも100万を軽く超えているので、かなりの贅沢ができるだろう。

 まあ贅沢といっても無駄に豪華なものが欲しいとは思わないのだが……

 メニューからショップを開いたところで、フィーネがウィンドウを覗き込んできた。


「ねえねえダン! ショップで何を買うの?」

「そろそろ家具を追加しようと思ってな……」

「じゃあアタシ用のベッドが欲しい!」


 フィーネは自分用のベッドが欲しいようだ。

 小さなベッドでナイトキャップを被って眠るフィーネの姿が思い浮かんだ……

 今までは俺のベッドの端っこか、おなかの上で寝ていたからな。

 たまによだれやハチミツが垂れていたりするのはちょっと勘弁してほしい。


 はたして妖精サイズのベッドはあるのかと探していくが見当たらない。

 やはりそんなサイズのベッドは需要が無いのだろう……

 別に普通のベッドでもいいのだが、やはり大きすぎる気もする……


 ふと思いついて、おもちゃのカテゴリーを調べていく。

 そして人形用のベッドを発見した。これなら妖精が使うのにちょうどいいだろう。

 フィーネと相談して模様を選んでいく……最終的にファンシーな感じのハートがちりばめられたピンク色のベッドになった。


 コアルームに現れたベッドを見て、フィーネは目を輝かせている。

 試しに寝そべってみたり、様々な方向から眺めてみたりと楽しそうだ。

 しばらくそうしていたのだが、みんなに自慢してくるのだと飛んでいった。


「さて、今のうちにこっちも家具を選ぶか」


 まずは藁のベッドを交換するとしよう。

 1000ポイントくらいのベッドを購入し設置する。

 ちなみに一番高いものは、フェザードラゴンの幼体の羽毛を使っているとか何とかで、なんとお値段50万DPだった。さすがにこんなものを揃えていたらいくらDPがあっても足りないだろう……

 さらに、椅子やテーブルなどを追加していく。


「食器は――いらないか」


 食器や調理用具などもあったのだが、まあいらないだろう。

 食事をする必要はないし、何か食べたいという欲求もないのだ。


 さらに、床や壁紙といったものも見つけた。

 フローリングに畳、大理石の床などがズラリと並んでいる。

 残念ながらダンジョンコアが置いてある部屋は模様替えはできないようだ。

 まあ畳の上にダンジョンコアなんて不自然極まりないうえに落ち着かないのだが。


 なぜか魔力で動くゲーム機やテレビなんてものもあったが、こんなものを交換出来てもいいのだろうか?


「まあこんなものだろう」


 ダンジョンコアのある部屋にはテーブルと椅子を1つずつ設置した。

 小部屋の方には新しいベッドにテーブルと椅子を置き、壁や床を張り替えておいた。

 まあ基本的に小部屋は寝るとき以外は使わないけどな。

 ついでに風呂にもアヒルを浮かべておいた。きっとフィーネが喜ぶだろう。

 案外欲しいものがなかったな。一段落終え、そんなことを考えていた時だった。


 突然、大量の妖精がコアルームになだれ込んできたのである。

 コアルームはわいわいきゃいきゃいと妖精たちの声で大騒ぎになってしまった。

 いったい何が起きているのかと考えていると、どこからかフィーネの声が聞こえてきた。


「ダ、ダン……アタシのベッドを自慢したらみんなが羨ましいって……」


 どうやらフィーネがベッドを仲間たちに自慢したのが原因だったらしい。

 羨ましく感じた彼女たちが、自分たちも何か買ってもらおうとコアルームに押し寄せてきたようだ。

 まあ、意外と欲しい家具がなくてDPもそこまで消費していないからな。


「……しかたない。1人1個までだぞ」

「「「「わーい!」」」」


 DPにも余裕はあるので、ちょっとくらいなら妖精たちにも家具を用意してやってもいいかもしれない。

 彼女たちの様子を見て、そんなことを思ったのが間違いだった――


「これ欲しいー」

「私はこれ!」

「じゃ、じゃあ私はこれで……」

「それもかわいい!」

「これはなーに?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 一人ずつ順番に――」


 おそらく森の中にいた妖精のほとんどが来ているのだろう。

 100近い妖精たちが押し合いへし合いしながらウィンドウを覗き込み、これが欲しいあれが欲しいと言うのである。さすがに対応しきれない。

 さらに、いくら小さな妖精とはいえそれだけの数が集まるともみくちゃにされてしまい、身動きもほとんど取れない。


「みんな! そんなに一気に集まってもダメだよ!」

「「「「はーい!」」」」

「た、助かった……」


 フィーネの声で、ようやく妖精たちが離れていった。

 なんとか順番を決めて、一人ずつ欲しいものを選ばせていく。

 そしてその結果――


「見事におもちゃばかりだな……」


 妖精たちのサイズに合わせるために、おもちゃのページを開いていたのがいけなかった。

 ぬいぐるみやトランプ、積み木にクレヨンなど妖精が選んだのはおもちゃばかりだったのだ……

 まあ妖精もダンジョンマスターと同じで、家具なんてほとんど必要ないのだからこれもいいだろう。

 どの妖精もおもちゃを抱えて嬉しそうに笑っている。

 それにしても……


「フロレーテ……」

「な、なんでしょうか。私がぬいぐるみを持っていてもいいではないですか!」

「まあいいんだけど……なんというか最初の印象と違うというか……」


 フロレーテも他の妖精の中に混じってデフォルメされたクマのぬいぐるみを手に入れていた。

 一番サイズの小さいものだったのだが、それでも妖精が持つとかなり大きく見える。

 先ほど彼女がにこにこしながらぬいぐるみを抱えていたのも目撃してしまった。

 女王の威厳など微塵も感じさせない姿だったのだが……まあいいだろう。


 フィーネが羨ましそうに仲間たちを見ていたので、フィーネにもぬいぐるみを渡しておいた。

 ベッドと合わせるとフィーネだけ2個なのだが……まあ一番長い付き合いだしこれくらいの贔屓はいいだろう。

 今はぬいぐるみを新しく買ったベッドの上に置いた後、妖精たちに角砂糖を配っているようだ。


「これ甘い!」

「見たことないよ!」

「おいしー!」

「フィーネすごい!」

「ふふーん!」


 妖精たちも角砂糖に大満足のようだ。

 あちこちで地面に座り込み、笑顔を浮かべながら角砂糖をかじっている。

 仲間たちに賞賛されて、ドヤ顔になっているフィーネも見えた。


 そのうちにフロレーテのもとへも角砂糖が運ばれてきた。

 フロレーテは両手で抱えたそれを眺めて首をかしげる。


「ダン様、これは何という食べ物なんでしょう? 里では見たことがありませんね」

「それは角砂糖だな」

「角砂糖というのですか……何とも不思議な見た目の食べ物ですね」


 フロレーテが角砂糖を小さくかじる。


「ふわぁ!? ダン様! この角砂糖というのはすごく甘いですよ! すごいです!」


 ポリポリと角砂糖をかじりながら、笑顔を浮かべるフロレーテ。

 まるでいつぞやのフィーネと同じようなリアクションだな……

 この前のなでなでと今回のぬいぐるみや角砂糖で、最初のイメージが崩れ去ってしまった……

 フロレーテも女王とはいえ、やはり妖精だったということなのだろう……


 しばらく夢中で角砂糖を食べていたフロレーテだったが、こちらの視線に気が付くと慌てて姿勢を正す。

 女王の威厳を身にまとった彼女は、こちらに向き直るとお礼を言った。


「こ、コホン、ダン様、このようなものまで振るまっていただきありがとうございます」

「あ、ああ、どういたしまして……」


 どうやらさっきの姿は無かったことにしたいようだ。

 いまさら取り繕っても遅いと思うのだが――わざわざ堀り返すのもあれなのでスルーしておくことにする。


 妖精たちはあちこちで新しく手に入れたおもちゃで一緒に遊んだり、角砂糖をかじっている。

 妖精たちの楽しげな声が響き、賑やかなコアルームで彼女たちにおもちゃの遊び方を教えたりしながら、1日を過ごした。


 後日、あちこちににクレヨンなどで落書きされていたり、アントたちにリボンが巻き付けてあったりなどのいたずらが多発して一人頭を抱えることになるのだが――

 ちなみにリボンを付けられたアントたちはまんざらでもなさそうであった。

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