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#31 妖精の秘宝

閑話を書こうと思っていたのですが、先にこっちを出した方がいいかなと思ったのでこっちを先に投稿します!

 妖精の引っ越しが終わった次の日、フロレーテがコアルームを訪ねてきた。

 引越しの時には気が付かなかったが、何か問題でもあったのだろうか?


「あれ? 女王様どうしたの?」

「どうした? 何か不具合でもあったのか?」


 そう問いかけるが、フロレーテは首を振る。どうやら違ったらしい。


「いえ、そうではありません。用意していただいた森はとても住みやすいですよ。危険なモンスターもいませんし、前の森よりも住みやすいくらいです。今回こちらを訪ねたのは、今までのお礼をしたいと思ったからです」

「こっちがやりたくてやったことなんだ、そこまで気にしなくてもいいんだが……」

「そういう訳にはいきません。危機を救っていただいた上に、新しい住処まで用意していただいたのですから……」


 お礼か……こちらが勝手にやったことだから、礼を貰おうとは思ってはいなかったのだが。

 ここで断っても納得はしないと思うので、ありがたくもらうとしよう。


「わかった、じゃあありがたく貰うとするよ」

「ありがとうございます、ダン様。ではこれを……」

「ふわぁ! すごくきれいな宝石だね!」


 フロレーテが差し出したのは、2つの宝石だった。

 彼女の手のひらに収まるほどの小さな緑色の宝石は、吸い込まれそうなほどの美しさで思わず見入ってしまった。

 宝石の価値なんかほとんど分からないが、これは間違いなくかなりの値打ちものだろうと思わせるほどだった。

 フィーネが宝石を1つ持って目をキラキラさせている。……今度宝石をねだられたりしないかちょっと心配だ。


「ずいぶんときれいな宝石だが……これは?」

「これはただの宝石ではありません。この宝石はフェアリーベリルと呼ばれる、妖精の秘宝です。炎竜王が里を襲った原因もおそらくこれでしょう」


 どうやらただの宝石ではないようだ。

 あの巨竜が狙っていたということは、それだけの何かがあるのだろう。

 フロレーテはさらに説明を続けていく。


「この宝石には、生物に成長の限界を突破させる力があります。これをモンスターに与えれば、たとえ進化の限界点に至っていたとしても、一度だけ進化させることができるでしょう。それと……炎竜王の魔核も同時に与えればより強くなる思います。ぜひダンジョンの防衛に役立ててください」


 ……つまりこの宝石はとんでもない代物だったということか。


 もし仮に炎竜王がこれを手に入れていたとしたら、あれ以上の力を持った化け物が生まれていたということか……うまく倒せてよかったと、いまさらながらに安堵を抱いた。


 あの巨竜を倒したことで、200万ほどのDPを獲得できていたのだが、アーマイゼたちに魔力を注いでも進化することはなかった。だが、これを使えば進化できてしまうということである。

 これほどのものを本当に貰ってしまっていいのだろうか?


「なあフロレーテ、話を聞く限りかなりの代物みたいだけど、本当に貰ってしまってもいいのか?」


 フロレーテに尋ねると、彼女は微笑みながらうなずく。


「ええ、問題ありません。元々これは新しい女王を選ぶときに使われるものです。まだあと100年ほどは女王の座を降りるつもりはありませんし、ここはマナが豊富なので、それだけあれば新しいベリルを作れますから」


 これを作れてしまうのか……妖精は実はすごい生き物だったりするのだろうか。

 というか先ほど100年は女王の座を降りないと言っていたが、妖精は長寿だったんだな。

 少女のような見た目の妖精たちだったが、実際はもっと上の年齢だったりするのだろう……

 そういえば、フィーネやフロレーテも実は100年以上生きていたりするのだろうか?


「……フロレーテ、ちょっと聞きたいことがあるんだが、もしかしてフロレーテって俺よりだいぶ年上だったりす……」

「ダン様? いくらダン様といえど、それ以上はダメですよ?」

「ダ、ダン! それ以上は危ないよ!」


 小さな指が口に当てられ、凄みのある笑顔でこちらを見るフロレーテ。その後ろではフィーネがこちらを見て慌てている。


 どうやらこちらでも女性の年齢を聞くのはマナー違反だったようだ。女性というか妖精だが……

 目が笑っていないフロレーテを見て、冷や汗をかきつつ頷く。

 たとえ小さくても女王としての威厳はばっちりだった……


「あ……ああ、すまない……いや、すみません」

「ええ、分かればいいのです。次はありませんからね?」

「……肝に銘じておく」

「よ、よかったね、ダン」


 フィーネの様子を見る限り、フロレーテに歳の話は禁句なのだろう。

 どうやら今回は見逃してもらえたようだ。今後は地雷を踏まないように気を付けねば……


 と、とりあえず、フェアリーベリルを貰ってしまっても大丈夫なことは分かった。ダンジョンの戦力の強化のためにありがたく使わせてもらうとしよう。

 ちょうど2個あるから、アーマイゼたちに与えることにする。どういう進化を遂げるのか楽しみだ。


「まあなんにせよ、こんな凄いものを譲ってくれてありがとうなフロレーテ」

「いえ、私たちが受けた恩を返し切るにはまだまだ足りません。今後も何かあれば気軽に呼んでください」


 さて、じゃあこれをアーマイゼたちに持って行くとしよう。

 コアルームから出て、アーマイゼたちのいる大部屋まで向かう。フィーネとフロレーテもふよふよと飛んで着いてきている。


 そういえば、アーマイゼたちと直接会うのは初めてだな。フィーネは時々会いに行っているが、俺はモニター越しでしか見ていない。


 大部屋に到着すると、気配を感じたのか2体が振り向いた。

 こちらを見るや否や、アーマイゼが驚いたように声をあげる。フォルミーカはそこまで驚いていないようだ。


「ギギッ!?」

「ギー?」


 見上げるほどの巨体の彼女たちがこちらへと向き直るために足を動かす。

 そのたびに重い足音が響き、地面がわずかに揺れる。こうして間近で見ると、迫力がまた違うな……


「ギギギ?」


 アーマイゼがこちらを見て何か言っている。フィーネに通訳してもらうとしよう。


「フィーネ、アーマイゼはなんて言ってるんだ?」

「えっとねー、私たちに何か御用でしょうか? だって!」


 まあ今まで顔も見せていないのに、いきなりやってきたとなれば当然か。

 手短に用件を伝えると、アーマイゼが感極まったように鳴き声を上げる。

 どうやらアーマイゼたちにも問題はなさそうだ、さっそく使うとしよう。


 まずは炎竜王の魔核を倉庫から取り出す。

 バスケットボールより少し大きいくらいの真紅の結晶だ。

 まるで燃えているかのように煌めくそれを2つに分け、彼女たちに与える。

 さらに、フェアリーベリルを与えると進化が始まった。


「あれ? 小さくなってくよ!」

「ああ……それにあれは……腕か……?」


 2体はこれまでとは違い、だんだんと縮みながらその姿を変えていく。

 上半身の変化が顕著で、今までのアントとは全く違う姿になっている。

 4本の足で体を支え、残りの2本はまるで鎧を付けた人の腕のような形だ。

 例えるならそうだな……カマキリのベースを蟻にして上半身を垂直に立てた後、鎌の代わりに腕を付けた感じだな……

 体長は半分ほどまで小さくなったが、上半身が変化した影響で地面から頭までの高さは高くなっている。頭までの高さもおよそ10m程はあるのではないだろうか。


「ずいぶん変わったな……」


 全体的に見ればアントではあるが……もはや別の系統のモンスターと言われても納得できる見た目だ。

 名前はエンプレスアント、おそらくクイーンアントのさらに上となるモンスターだろう。


 アーマイゼたちを見上げながらそんなことを考えていると、頭の中に声が響く。


『ダン様!』

「だ、誰だ!?」


 いきなり聞こえた声にあたりを見回すが、周囲にはフィーネとフロレーテ、そしてアントたちしかいない。

 どこから聞こえたのかときょろきょろしていると、また声が響く。


『ダン様、こちらです。アーマイゼです』

「なっ!?」


 どうやら頭に響く声の主はアーマイゼらしい。


「喋れるようになったのか……」

「おおー! 普通に話せるようになったんだね!」

「眷属以外にも念話が使えるのですね……」


 進化して念話による意思の疎通が可能になったようだ。アーマイゼだけではなくフォルミーカも同じように会話できるようだ。これでフィーネに通訳を頼まなくても済むだろう。


 ……そうだな、この機会に気になっていたことを聞いてみるか。

 沸きあがる不安を振り払うと、2体へと声をかける。


「なあ、アーマイゼ、フォルミーカ」

『なんでしょうかダン様』

『どうしたんだいご主人』


 2体がこちらへと顔を向ける。フィーネたちも真剣な声に気が付いたのか静かになった。


「今回の戦いは、ダンジョンやアントのためのものじゃなく、完全に俺の私情での戦いだった。そしてその戦いのせいでアントたちにはかなりの犠牲が出た。本当にすまなかった……」


 そう言って2体に頭を下げる。

 静寂が辺りを包む。心臓が激しく鳴っている音が耳に届く。


 かねてから思っていたのだ……ダンジョンコアを通じて送られる命令にアントたちは逆らわない。

 炎竜王の時もアントたちは強大な相手にためらうことなく立ち向かい、そして死んでいった。

 もしかしたらアントたちはそれを望んでいなかったのに、無理やり従わせていたのではないかと。


 ダンジョンのモンスターが戦わなければ、防衛はできない。これからもアントたちには戦ってもらうことになるだろう。

 だがそれは彼らの女王や住処を守ることにもつながるものだ。

 しかし、今回はそうではなかった。ならばアントたちはどう思っていたのだろうか……

 ダンジョンマスターとしては甘いのかもしれない。

 いちいちモンスターに気を使っていてはダメなのだろうが、どうしても頭から離れなかったのだ。


 静まり返ったダンジョンの中、あまりの緊張にふらつきそうになりながらも、アーマイゼたちの正面で頭を下げ続ける。


『ダン様』


 アーマイゼの声が響く。その声はさっきまでのものとは違い、威厳を感じさせるものだった。

 果たして何を言われるのか……きっと恨み言でも言われるのかもしれない。もしくは激しい罵倒かもしれない……だが、それから逃げるわけにはいかないだろう。


『私たちの眷属は役に立ちましたか?』

「役に?」


 思いもよらない言葉が返ってきて、一瞬頭が真っ白になる。


『ダン様、私たちの眷属はあなた様のお役に立てたでしょうか』


 質問の意図がわからない……彼女たちは俺を憎らしく思っていないのか?

 なぜこんな問いをするのかは分からないが、答えは決まっているだろう……


「ああ、役に立ったよ。間違いなくアントたちは俺の役に立ってくれた」


 アントたちは間違いなく役に立ってくれた。

 こうしてフィーネの仲間たちを救えたのが何よりの証拠だろう。


『そうですか――ならば私からダン様に恨み言など言うことはありません』

『そうだね、私も同じだよ』


 アーマイゼたちはなおも続ける。


『確かに、眷属たちが死ぬのは悲しいことでしょう。ですが私たちはジャイアントアントです』

『私たちは仲間のため、そして群れを導く者のために戦うんだ。ご主人やフィーネちゃんだって私たちの仲間だし、私たちを導いているご主人のために戦うのは当たり前なのさ』

『彼女たちがダン様のために戦い、そしてダン様のお役に立てたなのならそれでよいのです』

『ご主人がそれを気にして謝る必要なんてないのさ』


 どうやら俺の考えは違っていたらしい。

 彼女たちには彼女たちなりのジャイアントアントとしての価値観というものがあったのだ。


「そうか。すまない――いや、ありがとう」

『さあ、ダン様。頭を上げてください』

『そうだよご主人、こんなところを眷属に見られちゃったら大変だよ』


 2体にそう言われ頭を上げる。

 鉛のように重かった心が、ようやくすっきりした。


「ありがとなアーマイゼ、フォルミーカ。そうだ、せっかく喋れるようになったんだし、何かして欲しいこととか欲しいものとかないか?」


 せっかく喋れるようになったのだから、この機会に欲しいものや要望なんかを聞いておこう。

 すると、今まで威厳たっぷりだったアーマイゼの様子が変わった。


『し、して欲しいことですか? それは何でもいいのでしょうか?』

「どうしたんだ? さすがに無理なことはあるだろうけど、できる限りのことはするぞ」


 アーマイゼはしばらくもじもじと体を揺すり続けていたが、やがて意を決したようにこちらを向いた。


『な、ナデナデを……』

「なでなで?」


 なでなでというと頭を撫でるあれだろうか?それとも何かのアイテムか?

 そのなでなでが一体どうしたというのだろうか。


『ナデナデをして欲しいのです! フィーネ様から聞いて以来ナデナデなるものをやって欲しかったのです!』


 やけくそのようなアーマイゼの声が大きく響く。

 そして、彼女はうつむいて縮こまってしまった。

 これがもし人だったら顔が真っ赤になっているのだろうといった感じだ。


 ちらりとフィーネを見ると、そっぽを向いて口笛を吹いていた。

 まあ、音が出ていないので口笛と呼べるかは微妙なところだが……


 すると、アーマイゼの不安そうな声が響く。


『その……ダン様。やはりだめでしょうか……』

「いや……なでなでくらいならいくらでもやるけど……」

『本当でしょうか!』

「あ、ああ……」


 アーマイゼの剣幕に押されつつも頷く。

 しかしなでなでか……どんな要望が来るかと思っていたのだが……

 とりあえずあの巨体では手が届かない。


「アーマイゼ、とりあえずしゃがんでくれ。このままじゃ手が届かない」

『はい!』


 そしてアーマイゼが甲殻の擦れる音を立てながらしゃがみこむ……

 ……幾らかは低くなったが、それでも彼女の頭は遥か上にある。

 彼女もそこから体を前へと倒して頭を下げようとしている。体をプルプルとさせて頑張っているのだが、頭の位置まで僅かに手が届かない。


『ダン様……』


 アーマイゼの悲しげな声が響いた……

 どうする……いっそアーマイゼかフォルミーカに抱き上げてもらうか?

 そう悩んでいると、1匹のアントがやってきた。


「これはアースアントか? いったいどうしたんだ?」

『私が呼んだんだよ、アーマイゼの大きさじゃ手が届きそうになかったからね』


 どうやらフォルミーカが呼んだらしい。アースアントは手早く土の壁で段差と台を作ると、背を向けて去っていった。

 こういう使い方があったか……なんにせよこれで手が届きそうだ。さっそく台の上に登るとアーマイゼの頭を撫でる。

 つやつやとした黒い甲殻に包まれた頭は、見た目の通りの硬さだった。これで本当にいいのだろうか……


『ああ……! これがナデナデなのですね! まさしく天にも昇るようです!』

「アーマイゼ、これでいいのか?」

『はい! これからもダン様のために頑張ります!』


 甲殻の上から撫でても何も感じないと思うのだが……アーマイゼの声は喜色満面といった感じで満足そうだった。

 満足しているならいいかと考えていると、横からフォルミーカの大きな頭が差し出される。


『アーマイゼだけズルいよ。私もご主人に撫でてほしいな』

「フォルミーカもか……まあいいぞ」


 フォルミーカの頭を撫でていると、羨ましそうなアーマイゼの声が響く。


『ダン様! もっと! 私ももっと撫でてください!』

「じゃあ私もー! いいよねダン!」

「……せ、せっかくですし私もいいでしょうかダン様」


 アーマイゼの他にもフィーネとフロレーテまでもが続く。

 もはや何のために撫でているのかわからなくなっているが、そのまま順番に撫でていく。


 その後、わらわらと集まってきたアントたちまで撫でるはめになり、数時間の間延々となでなでを要求されたのであった。

エンプレスアント

名前:-

基礎戦闘力:10000

保有魔力:0/500000

状態:健康


アーマイゼとフォルミーカの見た目は……蟻の下半身の上にアリをモチーフにした全身鎧を着こんだ人型の体が乗っているみたいな感じですね。

見た目は完全に虫のモンスターです。人に近い要素は腕の形くらいです。

イメージとしてはケンタウロスの下半身どころか上半身まで蟻verか、アラクネをもっと虫よりの見た目にしてクモから蟻にしたような感じです。

シルエット的には、体長と体高はほぼ同じくらいで想像しています。


イメージが沸きにくいと思ったので、ちょっと書いてみた全体図を載せておきます。

蟻の全体図ととあるゲームのモンスターをにらめっこしながら書いてみました。マウスでペイント&絵心が無いので余計に分かりにくくなったかもですが…


挿絵(By みてみん)


初夏の風さんよりイラストを頂きました!さっそく載せさせてもらいました!

並べてみると自分のへたくそ感が際立って…

挿絵(By みてみん)

イラストありがとうございます…!

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