#30 妖精のお引越し
炎竜王との戦いはダンジョン側の勝利に終わった。
そして、大樹を失った妖精たちがダンジョンへと引っ越してくることになった。
それはいいのだが、まずはこの戦いの後始末をしなければ……
妖精たちを守ってくれる結界もなくなり、こちらの戦力もかなり減っている。邪魔が入る前にさっさと撤収してしまうべきだな……
「それにしても凄まじい光景だな……」
「森も消えちゃったね……」
目の前に広がるのは、草木の一本も無くなってしまった焦土だ。
あちこちからはまだ煙が上がっていて、元の森の面影など見当たらない。さらに、巨竜のブレスによって地形が変わっている場所もある。
このまま放っておくと、生態系にかなりの影響が出てしまいそうだが、森を復活させる手立てなど持っていないので諦めるしかないだろう。
地面に張り巡らされたトンネルや落とし穴は、ダミーコアを回収してしまえば勝手に元通りになってくれるはずだ。巨竜との戦いで一部地形が変わっている場所が気になるが、そこまで直している暇はない。
次に巨竜の死体だが……さすがに全長50mのドラゴンの死体となるとかなり大きい……
倉庫に入れてしまえば簡単に片付けられるのだが、そうなるとダンジョン内に出すスペースがない。
仕方がないので、ある程度解体してから順次しまっていくことにする。
戦闘中に剥ぎ取った皮や鱗も忘れずに収納していく。取りこぼしはあるかもしれないが、大部分は回収できたはずだ。
角が片方に、巨大な牙、鱗や皮などもかなりの量になる。肉や骨だって使い道があるだろう。
欠けてしまっている鱗や皮がボロボロになっている部分もあるのだが、サイズがかなり大きいので使える部分はかなりの量が取れそうだ。
あとは、これを加工できれば言うことはないのだが……今度鍛冶ができそうなモンスターでも探してみようか。
戦いで犠牲になったアントたちの死骸も回収しておいた。ほとんどの死骸は燃え尽きて残らなかったのだが……
犠牲になったアントの数は数千匹にも及ぶだろう。かなり手痛い損失となった。
そして最後に……
「あとは、この大樹だな……」
炎竜王の倍ほども大きな、地面にそびえ立つ巨大な樹を見上げる。
すでに葉は全て落ち、幹もひび割れてしまっているが、それでもその姿は圧倒的な力を感じさせる。
妖精たちもこの大樹には思い入れがあるだろうし、何とか持って行きたいのだが……
地面に根付いているからなのか、倉庫にも入らないのだ。これを切り倒してしまうわけにもいかないし……どうしたものだろうか。
大樹を前に悩んでいると、フロレーテがこちらへとやってきた。
目の前へとやってくると、首をかしげる。
「ダン様、何をなさっているのですか?」
「引っ越すならこの大樹も持って行ってやりたいと思ってな……」
大樹を眺めながらそう言うと、フロレーテは少し考えた後口を開いた。
「ダン様、私たちのためにありがとうございます。ですが、私たちが大樹様の死を悼んで泣き続けるのを見るよりも、ここで新たな命の礎になる方がよいでしょう。きっと大樹様もそれを望んでいると思います」
「そうか……」
妖精たちがそれでいいなら、俺からは何も言うことはない。
大樹についても解決したし、これで後はもう何もないだろう。妖精たちを連れて、ダンジョンへと撤収することにする。
――そして数日後、妖精たちの引っ越しが完了した。
フィーネに用意した森は妖精たちの新しい住処になった。
森の中の木々には妖精たちの家が作られ、花畑や泉でも妖精たちが遊んでいる。
中にはコアルームやダンジョンにまで遊びに来る妖精たちもいる。
フィーネと二人きりだったコアルームも一気に騒がしくなってしまった。
フィーネも仲間とまた一緒に暮らせて嬉しそうだ。たまに妖精たちを引き連れてダンジョンへと遊びに行っていたりもする。この前のように迷子にならなければいいのだが……
楽しそうに笑う妖精たちを見ていると、あの時助けに行ってよかったと思う。
ただ……イタズラが多いのはちょっと勘弁してほしい……
◆
――そのころ、リーアの街に炎竜王とジャイアントアントの戦いの報告が届いていた。
その結果は、ジャイアントアント側の勝利……そして炎竜王の死。
新しく就任した領主の館では、ガルツと領主の会談が行われていた。
「なんと……あの炎竜王が倒されたのですか……」
「ああ、間違いない。遠くからではあったがあの巨体だ見間違えようがない……炎竜王はソナナの森跡地で倒された。ソナナの森の跡地は完全に焦土と化しているな。馬鹿でかい樹が1本残っているだけだが、それもすでに枯れてしまっている。元の森に戻るにはかなりの時間がかかるだろうな……」
領主が信じられないといった顔で、言葉を続ける。
「ですが……相手はジャイアントアントなのでしょう? そんなモンスターが勝利するなんて信じられません……」
そう……ジャイアントアントは群れれば厄介だが、単体の戦闘力はそこまで高くない。
下級の竜程度ならともかく、そんなモンスターが古の勇者すら葬ったあの炎竜王に打ち勝つなどあり得ない話なのだ。
ガルツは真剣な目で領主を見ると、自分の見てきたものを述べる。
「そうだ、普通ならジャイアントアントが勝つなんてありえないはずだ。……だが、あれは普通じゃなかった。ジャイアントアントにしては動き方が上手すぎる。何かがジャイアントアントを操っている可能性が高い」
ガルツのその言葉を聞き、領主はしばらく考え込む。やがて、恐る恐るといった様子で口を開く。
「ガルツさん、冒険者ギルドのギルドマスターとして経験を積んできたあなたに聞きたい。あのダンジョンには何がいると考えていますか?」
ガルツは腕を組み唸ると、かねてから考えていた仮説を伝えることにした。
「……俺にも確証はない。ユニーク個体の女王か将軍がいるのか、別の知能の高いモンスターがいるのかもしれん……ただ、俺はもしかするとダンジョンマスターがいる可能性もあるんじゃないかと考えている。前の領主に話したときには冗談だろうと笑われたがな……」
「ダンジョンマスターですか。あのお伽噺は子供だって知っているような有名な話ですが、脚色か作り話だと思っていました。……そんなものが本当に存在するのですか?」
領主の問いはもっともだ。ダンジョンマスターなど一般人にとっては、古いお伽噺に出てくる本当にいるかどうかすらわからない存在といったところなのだから……
「あのダンジョンがそうかは分からんが、ダンジョンマスターと呼ばれるものは間違いなく存在する。過去に何度か確認されているからな。ダンジョンマスターがいるダンジョンはどれも攻略が難しく。モンスターが格段に強かったらしい……」
「そうなのですか……確かに、前領主が派遣した冒険者や兵士たちもやられています。それに加えて今回の件……どうやらあり得ない話ではないようですね。そういえば、かなり危険なダンジョンのようですが、難易度の調査は中止するのですか?」
炎竜王を倒すほどのダンジョンなのだ。その難易度は想像もつかない。
あそこを調査するとなると、かなりの腕利きでなければただ死ぬだけだろう。
「ダンジョンの調査は中止しない。今回の戦いでダンジョンの戦力も大きく低下したはずだ。この機会を逃せば難易度は跳ね上がるだろう。そもそも、あの巨体だからこそジャイアントアントが勝てたとも言える。人間相手だと、大きさの都合でまた少し違うからな……それに、本部から送られてきた冒険者の中にうってつけの人材が1人いるぞ」
「そうですか……確かにこのタイミングならちょうどいいかもしれませんね。我々もできる限りの協力をお約束します。調査のほどよろしくお願いしますよ」
「ああ、任せろ。あいつならきっとやってくれるだろうさ」
こうして、両者の会談は終わった。
炎竜王が倒されたというニュースは、世界中に瞬く間に広がっていく。
各地では吟遊詩人たちがこぞって唄い、冒険者や商人のネットワークなども介したそれは、もはや知らぬものなどいないほどの情報である。
それと同時に、炎竜王を倒したとされる、『黒軍の大穴』と呼ばれるダンジョンの噂も世界中へと広がることになる。
その噂を聞きつけ、世界のあちこちから腕に自信があるもの。歴史に名を残すような戦果を追い求めるもの。様々な目的を抱えた冒険者たちが集まってくるのだが、これはもう少し後の話である。
これで炎竜王との戦いはお終いです!
この後は閑話をいくつか挟んで、新しいお話ですね!
もう一つ、今回でお話のストックが切れてしまったので、今後は2日に1回くらいのペースでの更新となります。
これからもよろしくお願いします!




