閑話 ジャイアントアントたちの日常
※注意
アーマイゼ、フォルミーカ、シュバルツの視点でお送りします。
ジャイアントアントたちに対するイメージが崩れる可能性がありますので、ご注意ください。
アーマイゼの場合
私はクイーンアントのアーマイゼと申します。
ダンジョンマスターであるダン様に仕えるジャイアントアントの女王です。
同じ部屋にいるフォルミーカも同じくクイーンアントですが、私の方が早く生まれたのでお姉さんですね。
フォルミーカはいつもだらだらとしていて、女王としての自覚が足りません!
今も横でごろごろしています。そんなことではダン様のお役に立てませんよ!
ダンジョンマスターであるダン様は素晴らしい方です!
このダンジョンを作り上げ、私たちを導き、繁栄させてくださっているのです。
素晴らしい策を考え出し、戦いを導く軍師様でもあります。
先日はフィーネ様と喧嘩をしていたようですが、無事和解できたようで何よりですね。
先ほどやってきたフィーネ様がとても嬉しそうに話してくださいました。
そう!フィーネ様といえば、あの方も素晴らしい方ですね!
ダン様のお傍に控える側近なのですが、とても博識な方でいらっしゃいます。
毎日のように、このダンジョンの外の様子や、冒険者たちのことなどを私たちに教えてくださっています。
このダンジョンのマスターであるダン様のお名前を教えてくださったのも、フィーネ様ですね。
他にも温かいお湯が満ちているという『オンセン』なる泉や、真っ白で甘い『カクザトウ』という食べ物などの見たことも聞いたこともないようなものを知っていらっしゃるのですよ!さすがフィーネ様ですね。
私もいつの日か、ダン様の隣に置いて頂けるようになりたいものです。
そのためにはダン様のために活躍しなければならないのです!
私に何ができるでしょうか……私たちがやっている仕事といえば、眷属たちの数を増やすことと、念話を使ってワーカーアントたちに住みやすい巣を作るように指示をすることくらいです。
眷属たちは、巣の拡張や巣の防衛のために一生懸命働いてくれます。
先日、たくさんの侵入者が巣にやって来た時は、たくさんの眷属たちの命が失われたようです……
眷属たちが死んでしまうのは悲しいことですが、これも巣を守るため、自然の摂理であると割り切るしかないでしょう。もし彼らがダン様のお役に立てたようなら何よりです。
巣の拡張の指示も重要です。無計画に巣を作ってしまえば、手を加える時に不具合が出てしまいます。
計画的に巣を作っていけば、手を加えるゆとりができ、さらに移動だってスムーズにできるのですよ!
この前だって私の指示によって、会心の出来の巣が出来上がりました!
さて、今日もお仕事の時間のようですね、ダン様のために眷属たちを生み出すとしましょう。
そしていつの日かダン様の側近になり『ナデナデ』なるものをしてもらうのです!
フィーネ様によると、それはまさしく天にも昇るような気持ちなのだとか。
ああ、どんなに素晴らしいものなのでしょうか……日に日に期待が膨らんでしまいます。
「さあ、フォルミーカ! 何をしているのですか! 仕事の時間ですよ!」
「えー、もうちょっとだけ休憩しようよー」
「何を言っているのですか! そんなことではダン様のお役に立てませんよ!」
「うーん、しかたないなあ……」
フォルミーカが何やらめんどくさそうにしていますが、だらけるなんてそんなことは許されません。
まだ見ぬ『ナデナデ』なるものをしてもらうために、今日もダン様のお役に立つのです!
◆
フォルミーカの場合
やあ、クイーンアントのフォルミーカだよ。
同じクイーンアントのアーマイゼと一緒にダンジョンの女王をしているんだ。
アーマイゼは自分の方が姉だって言ってるけど、私としては手のかかる妹のようなものだね。
アーマイゼはやる気は十分だけど、どこか抜けているところがある。
この前も、巣の拡張計画をワーカーアントたちに伝えていたのだけれど、大部屋同士がくっつくような構造になっていたり、通路のすぐ横にもう一つの通路ができてしまうような場所があった。
ワーカーアントたちがどうしたらいいのかわからなくて混乱していたようなので、こっそりと直しておいてあげた。アーマイゼは巣の拡張がうまくいって喜んでいたけど、私がこっそり直したことには気が付いてはいないみたいだ。
最近はフィーネちゃんがご主人になでなでしてもらった。という話を聞いてさらに張り切っているみたい。
アーマイゼはなでなでがどういうものなのか、よくわかっていないようだ。
私たちの体格でなでなでは難しいと思うんだけどね。まあそんなことを言うとまた面倒なことになりそうなので言わないのだが。
そう、私たちは体が大きいのだ。他の眷属たちなんて目じゃないくらいに大きい。
動くのも遅いし、体が大きすぎて通路も移動できない。
アーマイゼはご主人の側近になるのだ!と張り切っているが、そもそも私たちがご主人の隣にいるとこの体のせいで邪魔になる気もする。
まあそのおかげでこうして部屋から一歩も出ないで一日中ごろごろしててもいいし、お仕事も少なくて楽だからいいんだけどね。移動もご主人が転移を使ってやってくれるし、ご飯の心配だっていらない。
ダンジョンの奥にいるから、身の危険もほとんどない最高の環境だろうね。
ダンジョンの拡張や防衛だって眷属たちがやってくれている。私たちは指示をするだけだ。
私の役目は眷属を増やすことと、アーマイゼのうっかりをこっそり直しておくことくらいだ。
拡張はご主人がいるから大丈夫だろうし、防衛もシュバルツちゃんがいればたいていの敵は何とかなるだろうね。
シュバルツちゃんはこのダンジョンの防衛を任されている眷属だ。
この前もダンジョンに入ってきた強力な相手を倒して大活躍したらしい。
シュバルツちゃんから活躍を聞いて、かっこいいね!と伝えたら、「……そうですか、やっぱりかっこいいですか……」と言ったきり黙り込んでしまった。どうしたんだろうか?
最近はどこか元気がないようで心配だ。どうも眷属たちが死んでいくことについて悩んでいるみたい。
私たちジャイアントアントは1匹1匹は弱い。だから必然的に戦いの中では結構な数の犠牲が出ることになる。
それは仕方のないことだし、そのために私たちクイーンアントがいるのだから、シュバルツちゃんにはあまり悩まないで欲しいところだ。
そんなことを考えると、アーマイゼがこちらを向き、声をあげる。
どうやら仕事の時間のようだ……もう少しごろごろしていたかったのだけれど……
「さあ、フォルミーカ! 何をしているのですか! 仕事の時間ですよ!」
「えー、もうちょっとだけ休憩しようよー」
「何を言っているのですか! そんなことではダン様のお役に立てませんよ!」
「うーん、しかたないなあ……」
仕方ない……そろそろお仕事をするとしますか……
アーマイゼは今日もやる気満々みたいだ。やる気があるのはいいが、またうっかりなミスをしないか心配だ。今日もこっそりと見守ることにしよう。
やれやれ、うっかり者の姉を持つ妹というのも大変だね。
◆
シュバルツの場合
私はジェネラルアントのシュバルツです。このダンジョンの防衛を主様より任されています。
シュバルツという名前は主様より賜りました。
この巣の中の誰よりも早く、一番に名前を頂けるという栄誉はとてもうれしいものです。しかし、もう少しだけ、いえ、ほんのちょっとだけでもかわいらしい名前であったらと思うこともあります。
ダンジョンの防衛というのは非常に重要な仕事です。
私たちが負けてしまえば、主様や女王様はもとよりこのダンジョンすら失われてしまうのです。私たちに敗けることは決して許されません。
前回現れた侵入者たちは数が多く心配でしたが、配下たちの活躍により、無事ダンジョンを守り切ることができました。その時のことをフォルミーカ様に報告したところ、「かっこいいね!」と言われてしまったのですが……
前回の戦いはかなり苦しいものでした。特にあの4人の人間たちの活躍には目を見張るものがありました。
たった4人で、ダンジョンの最高戦力である私たちに、配下たちを加えた大軍相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げたのです。
戦いは私たちの勝利に終わりましたが、彼らが勝利する可能性もあったでしょうね。
彼らの最後は、今でも鮮明に思い出せます。
厄介な炎の魔法を使う魔法使いを気絶させ、ついに戦局がこちらへと傾いたという時です。
もはや勝つことは無理だと悟ったのでしょう。なんと大剣を持った人間が、仲間を逃がし私たちの前に立ちふさがったのです。
満身創痍で立ちふさがる人間、対して私たちはまだまだ配下たちがいるうえに、私はほぼ無傷です。
万に一つも勝ち目がないことは彼にもわかっていたでしょう。人間にしておくにはもったいのないほどの戦士です。
そこまでの戦士をこのような形で倒してしまうのは、残念です。
しかし、彼らは敵です。それに、情けをかけるのは彼らに対する侮辱になってしまうでしょう。
せめて、ただの侵入者ではなく戦士として死なせることができるように、配下たちを下がらせ、一騎打ちを持ちかけました。
そして、彼が放った全力のこもった最後の一撃。
流れるように美しいその一撃は、堅牢な甲殻に包まれる私の前足を切り飛ばしてみせました。
そして、すべてを振り絞った彼は満足したかのように笑い、その命を終えたのです。
彼の仲間の最後も、見事なものでした。
魔法使いと神官の人間は、追手として向かわせた100を超える配下たちを全て倒してみせました。
最後に残った人間も心が折れかけていたようですが、すぐに闘志を取り戻し、私に立ち向かいました。
彼らにつけられた傷はすでに癒えました。ダンジョンの中にも、彼らがいた痕跡はもうありません。
それでも……私は彼らを忘れることはないでしょう。
そして、仲間のためにその命をかけた彼らを思い出し、私は思うのです。
私は仲間たち……配下たちの犠牲に報いることはできているのでしょうか。
配下たちは私の命令一つで、迷うことなく死地へと飛び込んでいきます。
巣を守るため、女王を守るため、何より仲間のために散っていくのです。
そんな配下たちに私は何ができるのでしょう。
私の采配一つで配下たちの運命は大きく変わります。間違いは許されないのです。
あの時の采配は間違っていなかったのか、もっといい動きができたのではないか……そんな考えはつきません。
いつの日か彼らに対して胸を張れるようになれるのでしょうか……いえ、胸を張れるようにならなければいけませんね。
さあ、今日もダンジョンを守るとしましょう。
というわけでジャイアントアントの視点でお送りしました。
とても人間臭いですが、たぶん知能が上がったらこんなものです…
閑話はとりあえずこれで終わりで、次からはまたお話が再開します。




